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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第二章 妖精王子の留学
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第14話 皇帝カールマーン③

コツコツと心地よい足音が皇帝の大宮殿に木霊した。

堅いブーツの靴底と床の立てる音だ。


音の主はカレリア。

大宮殿の奥、親衛隊が守る皇帝の執務室へと続く廊下を歩み、その扉を開けた。

紫色の鎧を装備している親衛隊も彼女を止めはしなかった。

謁見を待っていた南方の王や、財務省の大臣やらが驚いてそれを見守っていた。


皇帝に評議会の報告へ来ていた魔術評議会副評議長のレスクオス・ドロンリブンは報告の邪魔をされた形だが、親衛隊達や侍従達が止めない為自分も少し下がって場所を譲った。


カレリアが押し入った皇帝の執務室には遥か昔にフランデアンから贈られたという大きな竜の形の香炉があり、その竜の鱗の隙間を煙が流れて皿の部分にたまる。皇帝の寵姫が火を点けると白く濃い煙が下へと流れて最終的にまるで雲海を泳ぐ竜のようになる見事な芸術作品でもあった。

ちなみに竜という生物は神と人間の子である英雄たちによって神代に絶滅させられたという。


気分を落ち着かせる倒流香の効果を無視して、開口一番カレリアは皇帝に対し怒りの混じった口調で抗議した。


「陛下、どういうおつもりですの?わたくしの計画が台無しではありませんか」

「なんのことだ」

「フランデアン王子の件ですわ!わたくしの計画が台無しではないですか!」

「計画?」


そこでカレリアはここ二日の出来事を話した。


「従属国呼ばわりされてすっかり嫌悪感を持たれてしまっていましたわ」

「ふうん、何故余が指示したと思った?」

「あら、陛下が指示したんですの?」

「そう思ったから来たのではないのか」

「いいえ、ただの八つ当たりです。ほんとうに陛下がご指示なさったのですの?」


あら、とカレリアは気まずくなってよそを見た。


「そうだな。余はせいぜいむごい仕打ちをしてやれ、といっただけだ。後は部下達がどう解釈するか見て見たかったくらいかな」

「むごい仕打ち?」

「ああ、ちやほやして懐柔するか、いびり倒して追い出すか。連中がどうするかな、と思っていたが部下の失敗で意味がなくなってしまったな。つまらんことだ」

「じゃあ、やっぱり陛下のせいじゃありませんか」

「そうかもな。それよりそんなに珍しい子が産んでみたいなら余の子を産んでみるか?」


カールマーンが戯れに声をかけると、傍らの寵姫が横腹をつねった。


「まあ!お兄様とわたくしは六つも歳が離れていますのに。それにわたくしにはもう婚約者がいるのですよ。いくら皇帝になったからといって他人の婚約者に声をかけるなんて感心しませんわ」


お前がいうことか、とカールマーンはカレリアを呆れた目で見ている。

黙って話を聞いていた寵姫や親衛隊も思わず内心で突っ込みを入れていた。


『他人の振りみてわが身を直せ、ならぬは他人の戒めとなるばかり』


「余もお前のように自由であったらなあ。天文台に勤めていた頃に戻りたいものだ」


カールマーンが天文台に勤めていた頃によく幼いカレリアが遊びに来ていたので親しくなって現在も関係が続いている。


「陛下が皇帝になってくださらなかったら、帝都は今頃火の海ですわ」

「では、余を慰めてくれ」

「それはお隣の方にどうぞ。とにかく!これ以上わたくしの恋路を邪魔しないようにお願いしますわね!」


カレリアはまた来た時と同様ににカツカツ足音を立てながら出ていく時、地震がきて少しぐらっと揺れた。宮殿内がざわつく中、カレリアは構わずバルコニーで天馬を呼び寄せて飛び去って行った。



◇◆◇



「ゾルタン、総裁と外務大臣を呼べ」

「はっ」


カールマーンは侍従長に呼び出しを命じてまた執務に戻ったが、地震に驚いて皇帝に縋り付いた寵姫がようやく腑に落ちた顔をしている。


「陛下のむごい仕打ちってそういう意味でしたのね」

「ああ、すっかり現代から取り残されたフランデアンの王子を贅沢に溺れさせて堕落させてやろうかとも思っていたが、雑兵の下らん言葉で足元をすくわれてしまったな。ま、今となってはフランデアンも帝国に従う200カ国の一つに過ぎぬ。どうでもよい」


カールマーンはまた副評議長に報告を続けるように命じた。


「お若いのに既に俗世の統治は退屈になっているようですね、陛下。・・・それでお命じになられた宮廷魔術師については人選が難航しております。今しばらくお待ちください」


カールマーンの顧問となる宮廷魔術師は即位以来不在が続いている。

前皇帝最後の宮廷魔術師は帝国議会と皇室会議の承認を受けて代理選帝侯となりカールマーンに一票を入れた。そして自身の栄達の為に投票したわけではないといってそれを最後の職務として皇帝の大宮殿である天柱五黄宮から去った。


新年昇天祭で大陸中の王達を迎えるサガの間は百柱の間とも呼ばれ、天柱五黄宮はそういった天を支えるような巨大な柱が特徴的な大宮殿である。大陸中から回収された神器の中でも特に結界としての力を持つ物として受け継がれてきた神器で護られた五つの門は黄金のように光り輝いていた。


「・・・お前たちも少しは俗世に協力しないと予算を割いてやるわけにはいかないのだぞ。財務省は年々お前たち魔術評議会が予算を食い潰す割に社会に還元しないと不平を漏らし予算を削るべきだと主張している」

「陛下。我々には我々の使命が御座います。神代の力を再現する研究の中では様々な副産物も生まれます。評議員の弟子たちの中には社会に戻り学んだことを応用して俗世の発展に役立てている者もいるではありませんか」

「確かに、だが一方で死霊魔術部門のような連中もいる。二度とあのような醜聞を起こすな」

「肝に銘じておきます。我々はそれぞれの部門に強く干渉する事は無く自由に研究を行っていた為発見が遅れた事謝罪させて頂きます」

「謝罪は受け取ろう。だが所属していた魔術師のほとんどは魔導生命工学部門に移ったのではないか?また同じことを繰り返さないと言えるのか?」


カールマーンは即位して真っ先に先代末期から醜聞を起していた死霊魔術部門を解体させた。この部門はもともと旧都の亡者やツェレス島に蔓延る亡者をなんとかしようと設置された。

が、死霊魔術部門長シャフナザロフはそれまで多くの魔術師が行っていたような死刑囚や墓地から遺体を引き取るのではなく自分で新たな亡者を誕生させて発生過程を調べようとしていた。

その手法があまりにも惨いものとして世間に噂が広まっていた。


「魔導生命工学部門に移ったのは事件と関係なかった若手で御座います。シャフナザロフめは帝国追放刑となり彼に近い魔術師達は評議会から除名致しました。評議会では今後監査部門を設けて予算が適正に使用されているか監督致します」


他人の干渉を嫌い、協調性が無く我の強い魔術師の組織にしては異例な事だった。通常一度評議員になれば除名されることはない。当主になれなかった名族の子弟が主である事も評議会の歪さに一役買っているのかもしれない。


「評議長はどうしている?」

「評議長リグリアは監査部門の発足を指示したあと再び眠りにつきました。次に目覚めるのはいつになることやら」


強力な力を持つ魔術師達は寿命が長い例が多く確認されている。

彼らは己が所属する一門の秘伝でそれぞれ寿命の延長を図っていた。

よくある手段としては魔術的な仮死状態を睡眠中に用いる事、それで少なくとも3割は寿命が延びる。気の長い魔術師の中には実験の成果が出るまで交代で何十年も眠りにつく者達までいる。


「今度目覚めた時は会いに行ってやるから眠りつくのは止めておけ。直接話が聞きたい」

「陛下自らお運びになるなどとんでも御座いません。評議長から足を運ばせます」

「なに、遠慮する事は無い。300歳にもなる老魔女に敬意を払い余自ら赴こう」

「・・・御意」


侍従は次の入室者の用件が南方候の貿易問題に関する陳情だと告げて皇帝をうんざりさせた。

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2022/2/1
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