第二章・開幕
「お嬢様、よろしければ私がお読みしましょうか」
「いいの、別に。一人で読めるから」
少女は新しい父親に本を読んでくれるようお願いしたが、すげなく断られた。
まだ打ち解けられない関係をほぐそうとしたのに、父親の責務を放棄されてしまい哀しむ少女の為に侍女は申し出たが、単純に読むだけなら別に少女は本が擦り切れるまで読んでいるので必要ない。
「お前がそんな話にのめり込むなんて珍しいな」
女医師は相も変わらず勉学に励んでいるのかと思っていた少女が普通の少女らしく吟遊詩人達が歌うような騎士物語を読んでいるので安心した。彼女はあまりにも自分を追い詰めるかのように勉学に集中し過ぎていたから。
医師にからかいの口調があったので、少女は赤くなって本を閉じた。
「レベッカ先生」
「悪い悪い」
侍女が医師を睨む。
そこへまた別の女性がやってきた。少女と同じくらいの年頃でお姫様のようなドレスを着ている。かなり蒸し暑い地方なので薄手ではあるが、東方人らしく露出は全くない。
彼女も侍女を連れて入室の許可を求めてから入るという迂遠な事をやって来た。
その少女よりも侍女の方が何故か偉そうだった。
「いらっしゃい、エーヴェリーン」
「お姉様、ご機嫌伺いに参りましたが・・・あらその本は最後の騎士と有名な方の物語ですよね。お姉様もお好きなんですか、実は私もなんです!婚約者の為に、高貴な方が身分を捨てて単身救出に赴くなんて出来過ぎたお話だと思ってましたが史実と聞いて吃驚しました!私も憧れなんです!」
やってきたエーヴェリーンは擦り切れていた表紙を一目見て目を輝かせた。
同好の士を見つけた嬉しさで澄ましていた態度をかなぐり捨てて子供らしく駆け寄ってきて部屋の主を見上げた。見つめられると恥ずかしくなって少女を顔を背けた。
「きれい・・・お姉様の翠の瞳はまるで聖なる森のように澄んで星のように輝いていらっしゃるのですね」
「やめてください。エーヴェリーン。わたしの顔なんて潰れ顔の不細工っていわれるくらいなのに」
少女は引っ越してきて以来、急速に美しく成長したので昔受けた暴行の痕跡は体からは消えていたがまだコンプレックスを引きずっていた。
「まあ!そんな事言ったのはうちの兄ですよね。今度お父様に言いつけて懲らしめて貰います!」
エーヴェリーンの剣幕に彼女が連れてきたほうの侍女は体がびくっと震えた。
彼女もわざと聞えよがしに言い放って少女を傷つけた事があった。
「お願いだからやめて。もう彼とは仲直りした事になってるのですから。そんな事より楽しい話をしましょう?」
「お姉様がそうおっしゃるなら・・・困った時は私に何度もいって下さいね」
「有難う。エーヴェリーン。貴女こそわたしに出来る事があったら何でも言ってね」
「はい、ところでお姉様。知っていますか、その本の主人公は私の祖父と留学時代競った事があるのですよ」
「え、ほんとう?そんな話この本には載っていませんでした」
「ええ、ほんとうですよ。良ければ私がお話してさしあげましょうか」
「是非」




