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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第一章 妖精王子の誕生
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第17話 来訪者➃

 マクシミリアンが歴史の講義を思い出したところではリーアン連合王国の基礎は旧帝国時代に皇帝スクリーヴァがツヴァイリングで侵攻を阻まれると一端進路を変えて北上し、女子供をさらって寄宿舎に入れて文化も信仰も塗り替えようとしたという。


マクシミリアンが習ってない範囲では当時の国々の男は殺されるか奴隷にされ女は帝国兵の子供を産まされて、その子もやはり親と同様の運命を辿った。

1000年間フランデアンに阻まれ続けている間、帝国軍によって彼らはいいように扱われた。それは捕らえられた后や姫君達も例外なく娼婦同様に扱われ母も生まれた子供も大地母神を信仰するよう強要された。

その施設・・・、或いは牢獄、もしくは寄宿舎、はたまた娼館の事を洗礼院という。


現リーアン連合王国の半分はもともと遊牧民であり、帝国の攻勢から北東の荒れ地へ逃げて抗戦を続けた。帝国軍も不毛の荒れ地の奥まで追跡する事はなく、それよりも支配地域の帝国化に専念した。


帝国の時代は4つに分けられ最初の千年を征服期、次の時代を神聖期という。

グロリアが嫁ぐフィアナ神聖王国はその時代に作られた。洗礼院に押し込められた人々の末裔である。この世で最も女性が過酷な扱いを受ける土地。

グロリアはそこへ嫁ぐのだ。



◇◆◇



東方諸国では帝国に比べて女性の社会的地位は悪いといってもその分、家長たる父は娘の人生に全責任を負う。男子は早くから家庭教師を選び最高の教育を与えて12歳には一人前といかずとも大人扱いとなり自立させるが娘は一生保護下に置かれる。


帝国による征服時代が終わって平和な時代が来ても他の土地に比べて魔獣が多く、帝国が意図的に東方諸国に先進医療技術が渡らないようにしていた為、死亡率が高かった。

それゆえ女性は家に押し込められ社会的地位を確立する機会が少なく大陸の他の土地に比べて社会進出が遅れている。


リーアン連合王国内の場合は、東方圏の他の国々にあるような配慮が無く古代の悪習がそのまま残っている。夫が死んでも未亡人は一族内の他の男に回され弟だったり父だったり一族の誰かしらの妻、もしくは愛人扱いになって留め置かれて実家に戻される事は無い。


北東部へ行けば行くほど群れで牝を共有する蛮族に近い暮らしである。

フィアナ神聖王国の場合はアル・アシオン辺境伯領とウルゴンヌの間にある為、正反対の方角だが洗礼院の悪習は残っていた。


「私もフランデアンに嫁ぎたかった・・・。マリア・・・いいこと?必ずフランデアンの王子様の関心を惹きなさい。もし破談になれば貴女もリーアンに嫁ぐ事になります。お願いだから貴女は幸せになって?マルガレーテお姉様が嫁ぐスパーニアは帝国に次いで大きな国。きっと対等な扱いは受けないでしょう。でもフランデアンは違います。世界最古の伝統を持ち、歴代の王も立派な方ばかり。マクシミリアン様も両親を敬い幼くして民に慈愛を示された立派な方と聞きます。マクシミリアン様に貰って頂ければ貴女はきっと幸せになれるでしょう」

「はい、お姉様・・・有難うございます。でも、わたしの事は心配なさらないで下さい。それよりお姉様の方こそご自愛ください」


マクシミリアンはさめざめと泣く姉妹を見守った。

マリアの方も先ほどと違って随分と淑女らしい。姉に対しては礼儀を守るようだ。

植え込みの枝を握って顔を覗かせていたマクシミリアンだったが、つい力が入って枝を折ってしまい音が出た。


「どなた?」


グロリアが覗き見しているマクシミリアンに気づいた。


「どちら様ですか?ここは神聖な場所です、ご遠慮くださいまし」


マリアもマクシミリアンに気づいて遠慮してくれるよう頼んできた。


「あ、いやマリア殿を追ってきたら道に迷ってしまって」

「わたしを?」

「あら、マクシミリアン王子ですね。今の話を聞いていらっしゃいましたか?」


マリアより早くグロリアの方がマクシミリアンの正体を看破した。


「申し訳ない。口を挟む機会が無かった」


マクシミリアンはグロリアに素直に詫びた。


「謝罪を受けましょう、殿下。話を聞いていらしたのなら面倒が省けます。どうか私の妹を貰って頂けませんか。私たち三姉妹は大国に挟まれて都合よく利用される不幸な星の下に生まれてしまったと嘆いていましたが、フランデアンの庇護下に入れるなら願ってもありません。殿下の徳と仁愛の志は我が国にも高く鳴り響いております。せめて末の妹だけでも幸せにしてやって頂けませんか?」

「グロリア殿。それを決めるのは父たちです。私が決める事ではありません」

「私の父はどんな条件でも飲むでしょう。フリードリヒ様次第です。貴方がひとことマリアを欲しいと言って下さればきっと聞いて下さる筈です」


マクシミリアンは父が最初に断った時の剣幕を思い出した。

自分がどういっても聞いてくれるとは思えなかった。だが、公王が自ら出向いてきて会談をした後はなにやら条件次第では受けても良いと考えを変えたようだった。

今は微妙なバランスの上にある。


「私にマリア殿を貰う理由がありません」

「マリアを貰って頂ければ私もマルガレーテお姉様も必ず嫁ぎ先でフランデアンの為に動くと誓いましょう」


「むう」


そういわれるとマクシミリアンも検討する事にした。

女性の社会的地位が低いといっても母親はそれなりに子供に影響を及ぼせる。

スパーニアの第二王子に嫁ぐマルガレーテとリーアンの中で小国とはいえ王に嫁ぐグロリアがフランデアンに好意的に動くなら将来は何かの役に立つかもしれない。


「どうか哀れな娘達を助けると思ってください。フランデアンは今も騎士の伝統を残す名誉ある国。どうか・・・どうかお願いします」


そういわれるとマクシミリアンは弱い。父の騎士達のような立派な男になりたいと常々思っていたのだ。騎士の誓約のひとつにも女性や弱者に対する献身というものがある。


「正直に言えば父の了解が得られるならマリア殿を貰ってもいいと思っています。ですが、マリア殿は私の元へ来たがってはおられないご様子」


美しい庭園にある池と祠を背景に暗闇の中に映える金の髪と姉を労わるマリアにマクシミリアンも心打たれてそんなに酷い国に送られるなら自分が貰ってもいいという気分になっていた。

だが先ほどのマリアの様子からするとあまり将来仲良く出来そうにない。

たとえ政略結婚でもできれば父と母のように仲睦まじい関係を築きたかった。


「そんな事はありません!わたしもマクシミリアン様の名声は聞き及んでおります。頻繁に民の元へ足を運び情け深く信仰も厚い立派な方だと。マクシミリアン様に娶っていただけるのは女性の誉れであると。わたしも生涯誠心誠意夫に尽くす覚悟です」

「さっきと随分態度が違うな」

「え?」

「まあいいや。マリア殿とグロリア殿の言葉に嘘偽りないのであれば構いません」


マクシミリアンも相手、状況次第で態度を使い分けるのは当たり前だと思っていたので先ほどの態度は水に流す事にした。自分の城で父親をよそ者に侮辱されれば少しくらい怒っても仕方ないだろう、暗くて相手が誰だかわからなかっただろうし。

城内の泉のほとりにある祠の明かりの下で改めて見ると神秘的な背景に思わず乗せられてしまったからだとか、思ったより可愛かったからとかそういう理由ではない。


「本当ですか?」

「はい。隣国の姫君がさように不幸な運命に落とされるというのであれば救い出すのもフランデアンの務めでしょう」

「さすがは東方の大君主たるフランデアンの王子様。ではこちらの祠に祀られている神に誓って頂けますか」


グロリアはマクシミリアンの言葉に喜び、言質を取るべく誓約する事を頼んだ。


「もちろん、誓いましょう。グロリア殿とマリア殿も誓って頂けますか」

「はい、婚姻の神エイラシーオに誓って。私は夫よりもフランデアンの為に尽くすと誓います。我が姉マルガレーテにも誓わせるとお約束致しましょう。ですからどうかマリアとウルゴンヌをお守りください」

「わ、わたしも誓います。マクシミリアン様の元へ嫁ぎ誠心誠意お仕えします」

「では私も神かけて誓います。父が許してくれるのであれば王位に就き、マリア殿を王妃として迎え入れウルゴンヌを保護する事でしょう」

「有難うございます。マクシミリアン様。どうか妹に愛と哀れみを」

「はい、騎士として誓います」


人知れず祠にある神像が輝き誓約したものに加護を与え、闇の中で誰かが歪な笑みを浮かべた。

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2022/2/1
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