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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第六章 諸王の戦い
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第4話 傭兵女王の戦い②

 1413年の夏、フランデアン王の臣下ガルノーが一人の奴隷を捜索にやってきて謁見を求めた。公式な使節でもなかったが、顔の広いアルシッドがたまたま聞きつけて連れて来たのだ。アードヘッグは硬い岩盤の上にある都市で、アイラの城-海鷲城-も岩をくり抜いて造り出されたものだった。

窓もなく吹きさらしの謁見の間からは港と、海を行き交う商船群が見える。


「女王陛下、謁見の機会を与えてくださり感謝します」

「構いませんよ、神官殿。ちょうどフランデアン王へ使者を送ろうとしていた所でしたから、貴方もわたくしの使節と共に帰国されるがよろしいでしょう」


膝をついて礼をいうガルノーにアイラは奴隷捜索を約束し、いったん帰国するよう促した。


「しかし、陛下。私は彼女を見つけなければ主君に会わせる顔がありません」

「神官殿、ご心痛はお察ししますが外国人の貴方が何が出来るというのですか?容姿については伺いました、それらしき方がいらっしゃれば例え合法的な証文を持っていたとしても女王の名において解放をお約束致します。そして私の戦士達が無事にフランデアン王の下へお返しするでしょう」


女王の宰相ウォリック伯爵も同意して口添えをした。


「ガルノー殿、もし・・・その方が奴隷として筆舌にしがたい扱いを受けていた場合、貴方は力づくで奪うつもりでは?我が国の法に乗っ取って対処できると約束して頂けないでしょう」

「決してそのような事は致しません」

「と、神に誓えますか?貴方の所持金では到底奴隷を買い戻すには足りません。ナルヴェッラや法務官達を呼ぶような事態になった時、これから共に戦わねばならない我らが国王の側近を捕えてしまっては作戦に支障をきたすでしょう。違いますか?」


ガルノーは膝をついたまま項垂れた。

確かに今までにも気が焦るあまり、裏通りの人間、奴隷売買に関与していた人間を脅して情報を入手しようとしていた。どれも徒労に終わっていたが。

もしエリンを売っていればかなり高額になっているだろう。

知っている人間が何処かにいる筈だと思っていた。しかし神官として正道の人生を歩んできた彼が集める事の出来た情報は僅かだった。

彼が軍神の神官で身分も明らかだった為、逮捕は免れていただけで何度もトラブルを起こせばいずれ領主から強制退去命令が出るのは避けられない。


捜索に時間をかけている間に彼の主君は戦争を開始してしまい、捜索に来た国と友好関係を構築しなくてはならない事態となった。


ガルノーはアイラの臣下たちからの説得を受け入れアル・アシッドを連れて帰国を決意した。



◇◆◇



 ガルノーを送り出したアイラはすぐに宰相に捜索命令を出した。


「宰相、奴隷商人の取引記録をすぐに洗いなさい。もしわたくしや諸侯の部下に犯人がいれば本当にフランデアン王の怒りを買いますよ」

「承知しました。しかしあの時期に浚われたとなると本国に秘密で行われていた可能性が高く既に遠国にいるものかと」

「最悪の場合でもせめて恩に着せられるような形式を整えなさい。スパーニア戦の途中ではしごを外されて城壁から転落しないように」

「はい。・・・あるいはスパーニアの奴隷商人が連れ去ったという証拠を用意してはどうでしょうか」


ウォリック伯爵はこれまでにも謀略活動に従事していて、スパーニアの国力を削ぎ落す為多くの継承争いに関わって来た。中でもストラマーナ家についてはギョーム公領の所領を保有している為特に密偵を多く放っている。


「気取られないようにね。何もかも台無しにならぬように。それで、ティラーノは王としてどうなのかしら。何か付け入る隙はあるの?」

「申し訳ありません。エルドロの時代に王宮に忍ばせた間諜は全て失われていまだ庭師さえ送り込めていません。太后の侍女さえ全て入れ替えられてしまいました。漏れ伝わってくる情報からは王としてはさほど好戦的ではないようですが、個人としては酷薄でストラマーナの血が濃いようです」


ペルセペランがエイラマンサ家を討伐した際にある一族を赤子に至るまで根絶やしにして、その他諸侯への見せしめとした事件は有名で、世間に広まっていた。


「ティラーノは違うらしいと以前貴方から聞いた気がするわ。彼が王位につかないよう手を打つ、と」


アイラは玉座で神経質そうにこつこつと指で肘掛けを叩いた。

パスカルフローとしてはスパーニア王が内部に敵を作りやすい荒々しい性格の方が好都合だった。或いは惰弱で家臣の忠誠を得られない王が良かった。

ウォリック伯爵に命じられていたのはパスカルフローに望ましいスパーニア王位継承についての工作である。


「申し訳ありません、陛下。あれを蛮族の前線に送り出す事は出来ましたが、生きて戻って来て人が変わったようです。まあ、これはこれで結局ストラマーナらしくなりいずれ人心を失うでしょう」

「そううまく行くかしら。願望と一緒にしているのでは?現在の彼の評判は?」

「悪名高かった一族を討伐し、エイラマンサとストラマーナ諸侯を団結させ再び向上しております」

「そら、みなさい。・・・王宮に忍び込めないならスパーニアの民衆に悪名を流させ、ウルゴンヌについては民衆の怒りを煽り、フランデアンをさらなる戦へ駆り立てなさい」

「女王陛下、ご心配召されますな。万事、手配済みであります。必ずや陛下の信頼を取り戻してみせましょう」

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2022/2/1
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