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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第五章 妖精王の戦い
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第20話 生存者②

「おい、おっさん。大丈夫か?」

「・・・俺の心配をするなど10年早い」


 ラグランは皆の先頭に立って切り抜け強敵が現れれば立ちふさがって殿になり、地元の農民集団に囲まれ落ち武者狩りに襲われれば囮になった。

魔導騎士ゆえ大抵の敵は相手にならなかったが、農民たちが突き出す鍬や犂、漁具などはかえって捌きにくく、網に絡まり、背中から鍬に突かれ、魔導騎士にも襲われて重傷を負っていた。

ブルハルトが救けだしたが百名いた部隊は残り十名足らずにまで減っていた。

日が暮れても追跡してくる敵からラグランは逃げ惑う内に川の方角を見失い森の中で息を潜めている。月明りだけが頼りだった。


重傷と疲労で息を荒くしたままラグランが部下達に尋ねた。


「・・・コンラートは?」

「他の者達と別の道へ」

「フォルストは?」

「岩陰に隠れたまま置き去りに」


ルードヴィヒが答える。

彼の背中にも矢が突き立っていてハインリヒが抜いてやったが、苦痛の声が漏れた。


「しっ」


息を潜めるよう、ヴェルナーが注意する。

息を潜めながらも止血は続く、ヴェルナーが指を指した方角を見ると松明を持った人影が近づいて来ていた。しばらく息を潜めていると別の方角へ流れて行ったが周囲にはまだ人の気配がする。


「皆、動けるか?」


ルードヴィヒが全員を見回した。

行けるという意思表示をする者もいれば、駄目な者もいる。

重傷のヴェルナーが自分は無理だと手を振った。


「僕を置いて行ってくれ・・・でも川の方は駄目だ。完全に回り込まれているから、どこかに潜伏出来る場所を探して時期を待った方がいい。・・・あいつら捕虜なんか取ろうともしてない。騎士らしく一騎打ちもしない・・・。おかしいよ・・・あいつら戦いの作法も知らない、どうかしてる」


ラグランを襲った敵の魔導騎士も後ろから斬りつけてきて重傷を負わせられた。

白銀の鎧に赤マントでただ者では無かった。


「ヴェルナー、しっかりしろ。お前を置いていくもんか。生き延びるんだ」


段々意識が薄く声も消えぎえになっていく彼をブルハルトが励ました。


「いいんだ。ブルハルト。足をやられた、もう自分がどうなるか分かってる。皆が行って時間が経ったら森に火を放つ。そしたらあの連中も逃げ出すさ。ルードヴィヒ、老師に教わった事を覚えているよな。もうこれ以上は敵と戦うより敵の認識を魔術で阻害して隠れるんだ、大勢ならともかくこれだけ減ればなんとかなるさ」

「ヴェルナー?」

「老師の教えだ。覚えてるか。人は7歳で識別力を持ち世界を知覚する」

「次に叡智の世界が、最後に啓示の世界が」


そこまで行くと神の世界だけどね、とフォールスタッフは言っていた。

人は自分の目で見、体験した知覚の世界で生きている。

だが、魔力を持つ者や苦行によって悟りを得た聖人は叡智の世界に達する。

その世界は肉眼で見える以上のものを感覚によって把握する世界。

啓示の世界はもはや神の境地で、色も形もなく、そこに達すれば未来をも見通すという。

フォールスタッフの様に偽装魔術をよくするものは感覚の世界から知覚の世界に干渉して現実を誤魔化す。


世界と世界の間には明瞭な境界がなく徐々に高次の世界へと達していくのだ。

より高位の干渉力があれば現実しか見えていない雑兵の目を誤魔化す事ができる。


「そう、君なら出来る。皆を守ってくれ」

「わかった」


ルードヴィヒが魔術によって皆を守るとヴェルナーに約束し、それが今生の別れとなった。



◇◆◇



 ラグラン達が去ってからしばらく、森に勢いよく火がついた。

秋にスパーニア領に踏み込んだが、今はすでに真冬で乾燥しきっていて火は瞬く間に燃え上がり森の中を捜索していたスパーニア兵も動物たちも一目散に逃げるしかなかった。


「ヴェルナーの魔術だ。風が東から西へ吹いている」


風は吹く、敵が来た方向へと強く。

東方の守護神ガーウディームの敵を追い払うべく。


それをみてルードヴィヒが決意を固めた。


「ラグラン、川を辿れば何処かに中洲がある。今なら、あんただけなら僕らに構わなければ対岸まで行ける筈だ」


グランドリー橋の近くでは銃撃されたが、遠く離れれば対岸にはいない筈だった。

ベルゲンが警戒の為配置した守備隊や砦もどこかにある。


「ガキを見捨てて、俺一人だけが逃げられるもんか」

「僕らは隠れる。いいから行ってくれ」

「俺は魔導騎士と言っても信者達の寄進のおかげで装備を用意してもらった神に仕える戦士だ。騎士の誇りはないが、神に対して恥ずかしい真似が出来るもんか」


ラグランはあくまでも拒んだ。


「行ってまだ生きてる奴が救けを待ってると伝えてくれ。でなきゃ全滅だ」

「そうしてくれ、おっさん」

「そうだ」

「だいたい、今のあんたに何が出来る?あの黒い剣の騎士にさんざん突かれて傷だらけだ。最後の力を振り絞って対岸へ渡れ」


オルランドゥ達、少年らは口々にそういった。

ラグランが負った魔剣の刺し傷は癒えるのが遅く、洗っても、縛っても血が滲み続けていた。彼はもう戦えない。逃げても血の跡を追われる。一緒に来られても迷惑だといわれてラグランも遂に逃げる決心を固めた。


翌朝、木登りが得意な少年ベレグシュタインが樹上から河と中洲の島の位置を特定し一行はラグランをそこまで送り届けに出発した。

だが、再び黒い剣を持った騎士が現れ生き残りを次々と殺傷し始めた。


「構うな、ラグラン!行け!!」


川を越えるラグランが振り返った時、ベレグシュタインは騎士に頭を掴まれていた。そして次の瞬間、騎士が片方の手に持ったもう一人の兵士の頭と頭をぶつけられ、ベレグシュタインの頭は柘榴ざくろのように粉々に砕け散った。


「ベレッグ!!」


ラグランは飛ぶのを躊躇い、振り返って叫んだ。


「構うな!!無駄死ににさせたいのか、行け!馬鹿野郎!!」


オルランドゥやブルハルトが騎士にしがみついて抑えこみラグランに行けと命じた。


ラグランも遂に体中に埋め込んだ魔石に最後の魔力を注ぎ込んで半クビト(200m近く)ほども飛んで、中洲にある岩場へと辿り着いた。それは魔導騎士以外の何物へも無しえない脅威の跳躍だった。

ラグランは背後の悲鳴に耳を塞ぎ、もう一度対岸へと飛んだが足元の岩盤が脆く砕け散り、十分な跳躍が出来ずに川へと落ちた。

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2022/2/1
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