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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第五章 妖精王の戦い
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第19話 生存者

 時は戻って1413年の春。

モーゼルを解放してフランデアン優位のまま休戦交渉中、軍事行動を控えるよう命令されていたものの、休戦協定が発効したわけでは無かったのでお互い小競り合いはあった。戦闘はなくてもお互いの陣地間で睨みあう中、兵士同士で挑発が相次いだ。


ます、スパーニアの兵士達がフランデアンとウルゴンヌの連合軍を挑発する。


「お前らの王妃がスパーニアにいた間、何をやってたか知っているか?さんざん俺らと誰彼構わずヤりまくってたんだぞ。あの淫売は。腹の中に俺の子がいるかもな!」


フランデアン軍側も負けじと言い返す。


「兄殺し、祖父殺し、親族殺しの人非人の部下が考える事は妄想でも下品だな。お前らの王はナルガ河で蛮族と毎晩お楽しみだったそうじゃないか?人間の女に相手にして貰えないからって獣とヤるとはね。お前らは今晩も山羊とお楽しみか?こっちは解放者として地元の美人さんと楽しんでるのによ!」


フランデアン側の兵士達はウルゴンヌの市民達から大歓迎を受けていた。

夫や子を失った女達はいい男と見ればフランデアンの男を引っ張り込んだ。


「黙れ、田舎者。お前らの相手はウルゴンヌの売娼婦がお似合いだ。今頃嫁さんも隣の家の旦那と楽しんでるだろうよ。心配ならさっさと家に帰れ」


そういった兵士は自分の家族が気になったのか自分で言ってて勝手に落ち込み始めた。敵味方問わずなんとなく意気消沈している。家族と何ヶ月も分かれて過ごすのは敵味方問わず苦しいものだった。


その後、スパーニアは撤退を続け、シエムで戦闘はあったが、オルヴァン、リッセント、エトンは損害無しに占領。続いて住民保護の為といってフランデアン軍上層部はスパーニア領内へ進軍を開始。



◇◆◇



 シャールミンの旧友たちが所属している部隊は詳細までは知らされなかったが、とうとう報復が出来ると喜ぶウルゴンヌの兵士達に続いた。


だが9月頃から上官の命令はそれまでと違ってかなり命令が錯綜していた。


オルランドゥ達、シャールミンと共に王宮で学んでいた少年達は皆1歳~4歳くらいしか変わらない。全員初陣であり、まだ若いのでそこまではもっぱら後方任務だった。彼らはベルゲン将軍の次男イルソンの軍に配属されてペルリフェール州の攻略で初めて実戦となった。


所属した小隊は100人ほどで指揮官はラグランという魔導騎士だった。

彼らの場合は貴族の子弟ではあったがそれほど有力な家でもないので従者は数人ほど。オルランドゥの場合は単独で参戦していた。


「いやー、楽勝だったね」

「スパーニアに入ればさすがにもうちょっと抵抗があるかと思ったけど」

「ま、ウルゴンヌでも大したことなかったからな、あいつら」


少年達は誰一人怪我もなく、無事攻略し敵将を降伏させた事を誇っていた。

そんな少年達にラグランが釘を指す。


「調子に乗るなよ。お前ら。王のご友人だから楽な戦線に回して貰っただけだってこと忘れるなよ」

「なんだと!?」


喧嘩っ早いオルランドゥが怒り、ルードヴィヒが「やめとけ魔導騎士相手に」と窘めた。


実際イルソンが攻略を担当した地域に敵は少なかった。

彼らは鉱山都市アル・ダラスを攻略し、次に急いでフォル・サベルの増援に行かされたと思えば今度はまたダラスに戻れと命令を受けた。


「なんなんだいったい。将軍はどういうつもりなんだ」


オルランドゥ達は道中愚痴った。


「黙ってろガキども。疑問を持つ必要はない。歩け」

「ちぇっ、それにしてもお腹減ったなあ・・・」

「前はフーオンが兎を狩って来てくれたのに」


コンラートが泣き言を言った。

皆お腹を減らしていた。川を渡ってスパーニアに入った時、田畑の収穫は既に終わっていたし、補給線が狭く細いので支給される食料は少なめだった。そんな生活が長く続き育ち盛りの少年達は不平を述べていた。本隊と別れて少数部隊での移動だったので携帯食料を持って移動し追随する荷馬車も少ない。


陽気なハンスは中々料理上手で野営する時、そこらから取って来た薬草でうまく味付けしてくれて一行は少し気がやわらいだ。


それも道中、グランドリー橋が敵に占拠されたという早馬に遭遇して一変する。

早馬は各地の味方に即座に本隊に合流するよう告げて回っていた。

ラグランは本隊に戻っても橋の再奪取を目的とする可能性が高いと考え、いったんリージン河近くまで戻って様子を見る事にした。


「そうだ。オルランドゥ、その角笛を吹け」

「これを?」

「知っているだろう。ヴォーデヴァイン公の角笛だ。お前に与えられたのはこんな時の為だろう?」

「そうだけど」

「皆を呼べ、橋を取り戻さなければフランデアンに帰れないぞ」


オルランドゥの持つそれはある神獣の角を削り出したものと言われる角笛で遠く離れた味方に勇気を与え、意図を伝える事が出来る。

オルランドゥも古くは始まりの時代から続く家柄といわれていて多少は妖精の民の血が混じっているルブワーデ人。彼が精一杯魔力を込めて吹くと確かに不思議な力に包まれた気がしたが、どうにも居心地が悪く不安な気分に駆られた。


伝令が到着したのか、角笛の力かイルラータ公領内に散っていた味方もフォル・サベルの本隊もやって来た。司令官は軍を二分しサムソンの部隊は追撃してくる敵を迎え討ち時間稼ぎをして、もう一隊はイルソンが率いて橋を再奪取して味方との連絡を回復するとしていた。橋にいる敵は多くてもせいぜい数百で突破は容易であり、川向こうの友軍もいる以上挟み撃ちに出来る筈であると。


 ラグラン隊はイルソンに合流して橋の再奪取に向かった。

敵軍は最初、橋のスパーニア側で布陣していたが、イルソンの大軍を見ると慌てて橋を渡って反対側に回った。イルソンは好機とばかりにそのまま魔導騎士を先頭に突撃させた。


だが、橋上で銃の一斉射撃に遭い最初の突撃は失敗する。

次々と馬が倒れ、動きが止まった所を再度射撃を受けて橋の上は死体で一杯となり、馬の機動力はすぐに生かせなくなった。何人かの魔導騎士が脚力を強化して一突破を試みたが、それは無謀が過ぎた。

袋叩きに遭い何度突撃してもイルソンの部隊は数の利を生かせず叩きのめされた。


午前中の攻勢が全て失敗するとイルソンは河を徒歩で強引に渡河させたが、河岸には千の銃兵が伏せられており、これも失敗。

手をこまねいている間に夜半となり後方からスパーニアの主力が追い付いてきた為、フランデアン軍は恐慌状態になった。


「だ、駄目だこりゃあ。もう駄目だ。サムソン将軍は負けちまったんだ」


スパーニアの内陸に攻め込んだフランデアン軍はサムソン率いる軍とイルソン率いる軍に分かれていて、サムソンが殿を務めフォル・サベルに残っていた筈だった。


「ああ、もう駄目だ。逃げろ、逃げろ!!」

「どこへ逃げろってんだ!」

「川だよ!」

「敵がいるだろうが!見てなかったのか!」

「もっと北だ。どこまでも居る筈がない!」


イルソンが必死に留まって戦うよう命令したが、兵士達は聞かなかった。

サムソンが敗れたからこそ挟み撃ちにあったと理解して統制は崩壊してしまった。

フランデアンの兵士達は敵軍の総数が全くわかっていなかった事も拍車をかけた。


「お前ら、俺に続け。ついてこい!」


ラグランも川沿いを北上して浅瀬を探す事にした。

味方の逃げる方向は千々に乱れグランドリー橋を目指す事も出来ない。

彼らが川沿いを行く際に銃弾がかすめて頬などを切り裂いた。

運の悪い何人かは直撃を受けてそこで倒れた。


「マルティン!マルティン!どうした。立てよ!」

「なにやってんだ、ヘルムート!走れ!もうマルティンは死んでる!」


銃弾に頭を貫かれ倒れたマルティンをヘルムートが助け起こそうとしていた。

少年達はもう諦めろといったが、ヘルムートは聞かずどうにか幼馴染を助けようとしていた。その彼を騎兵が追い付いてきて喉を曲刀で切り裂いた。

オルランドゥはその騎兵に槍を投げて串刺しにしたが、ヘルムートはもう首から血を流して死を待つだけだった。

血の涙を流しながら必死にしゃべろうとするもパクパクと口を開けるだけで喉から空気が漏れた。ヘルムートは倒れながらオルランドゥを最後の力でもう行けと押した。


ヘルムートにはこの戦争が終われば結婚する筈だった、婚約者の顔も知っているオルランドゥはしばし呆然と彼の死に様を眺めていた。フォルストとヴェルナーがオルランドゥに来いと声をかけてようやくオルランドゥも再び走り出した。

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2022/2/1
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