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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第五章 妖精王の戦い
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第18話 留守居のリカルド②

 新帝国歴1414年10月。

ナーメン伯べべーランが王都に帰還した。

リカルドは早速出迎えて、銀行との交渉結果を聞く。


「ハンスのおかげで上手くいきましたよ。兵士として生きていくのはもう無理だと言っていますからこのまま商会でも起こさせてみようかと思います。手元の資金もあるようですし」

「へえ、彼がね・・・。では当面の商人達への支払いは心配しなくても大丈夫ですか?」

「ええ、そちらの首尾は?我が領地を防衛して下さった事は承知しています」


べべーランは帰還の途中にシャールミンと遭遇して詳細を聞き、国王代理のリカルドを補佐するよう指示を受けている。

シャールミンは東部の敵を撃退した後はウルゴンヌに向かった。

リカルドはガヌ・メリに分断工作を仕掛けた事を伝えた。


「東部国境のうちアンガーティ王国や三カ国は中立ですから極東地域との通商路も確保しています。リージン河への侵入も防ぎましたから南部の同盟市民連合とも通商可能です。戦争中とはいえこれでそれなりに経済は回るでしょう。あとは武器調達ですかね・・・スパーニアに対抗するには」

「武器についてはガドエレ家が売ってくれる事になりました。リカルド殿もあそこの御曹司と帝都でご一緒していたでしょう?近い内にヴェッカーハーフェンに輸送されます」

「あの、ガドエレ家が・・・よく相手にして貰えましたね」

「リカルド殿のおかげですよ。あとエイラバント公のね」

「私が?何かお役に立てましたか?」

「留学時代に夜光塗料を欲しがっていたという話です。西方商工会も扱っていない商品ですから。それにスパーニアと西方商工会には大きな取引がありますから対抗意識を燃やしたのでしょう」


べべーランはガドエレから大量の兵器を購入していた。

火縄銃9千、大口径砲32門。野戦利用可能な小口径砲58門、帝国軍の正規採用型の刀剣や槍など4万、魔石300余。


「そんなに?」

「はい。ナルガ河へ送る予定だったものとか、戦艦に乗せる予定だったものが浮いたそうです。どうせ蛮族には使い道がないとかでそこそこ安く売って頂けました。刀剣と魔石は在庫処分でしたが」

「我々が運用した事が無い大筒なのでは?」

「技術者も来るそうです」

「至れりつくせりで不気味ですね」


リカルドは記憶にあるガドエレ家のお坊ちゃんを思い出した。

あまりいい印象は持たなかった男だ。もちろん当主の方はまともなのだろうが。


「帝国に対して今回の蛮族との戦争中、軍事通行権を拡大しました」

「なるほど」


シャールミンばべべーランに全権を預けていた為、彼は大盤振る舞いをしたようだ。


「それと、こちらでも工場を作りガドエレ家に安く卸して欲しいと。彼らの領地からだと東方のこちら側はあまりに遠いようで。東方軍もやはりクンデルネビュア山脈が邪魔でこの辺りに補給拠点を拡大したいようです」

「職工会が嫌がるでしょうね」

「皇家の資本では彼らには抵抗のしようがないでしょう。この際改革して貰うにもいいかもしれません」

「何にせよモーゼルは今後も絶対に確保しなければなりません。折角購入した武器が運び込めませんから」


リカルドとべべーランは地図を広げ戦況をいったん確認し、お互いの認識を合わせた。東部は押し込まれてはいるが、大王を撃退した事で好転している。

ウルゴンヌの北部にはシャールミンが向かった事で当面は様子見だ。

西部のスパーニアについては全力を投入して抑え込まなければ北部に向かったシャールミンの退路が無くなってしまう。


◇◆◇


「ところでリカルド殿ももう子供が生まれた頃ですか?」

「えっ、はい。男の子です」


プリシラは無事、男子を産んでいた。

リカルドの父はスパーニア派遣軍に加わって行方不明であり、恐らく戦死していると思われている。いま、リカルドは一家の長となった。


「おめでとうございます。何か贈り物をしなければなりませんな」

「まあ、戦時ですから後でも結構です」

「いえいえ、いつになるか分かりませんし、やれる時にやらねば。盛大に祝いましょう」

「恐縮です」


リカルドは照れくさそうに笑って礼を言った。


「いやあ、時が経つのは早いもの。あの少年達が一児の親になるとはね。陛下の方もそろそろでしょう」

「ですね」

「いまならプリシラ殿との結婚をイーネフィール公に申し出る事もできるでしょうに」


フランデアンの大貴族達の多くが、フォル・サベル、アロッカ、ユッカの戦いで戦没してしまった。今も要人達の多くが出払っていて王都はリカルドに任せられている。リカルドは官位はなくとも国王代理として実質的にフランデアンの運営を任されており、十分な権力を手中にしている。


「いまさらです。とはいえイーネフィール公と和睦出来ればスパーニアとの戦いも有利になりますね。ただ、イフリキーヤの怒りを買う可能性もあります」

「ああ、確かに実はプリシラ殿が今も美しいままの姿を留めているとは思っていないのでしたか。公表するのは危険ですね」

「いつか戦争は終わらせなければならないし、その時は突破口になると思います。ただ、大公が一人だけスパーニアを離反するようなもので戦後孤立する事になるかも。となるとやはり難しいか・・・」


リカルドはべべーランと話しながら再検討したが、なかなか難しい問題で途中またひとりごちた。五大公の中で一人だけスパーニアを裏切るというのは不可能な選択であろうとことはフランデアンの人間でも容易に想像がつく。

売国奴というものは何処の国でも忌避されるものだ。


「イーネフィール公には実力でわからせるしかないでしょう。戦争を続ける事が大公間で孤立する事以上に彼によくない結果をもたらすと。ただしやり過ぎてお互い遺恨を残さない程度にしなければなりませんが」


茶を飲みながら雑談調に言ったべべーランにリカルドは一瞬思考がとまり、きょとんとする。


「遺恨を忘れる?無理でしょう。あれだけの事をやっておいて」

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2022/2/1
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