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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第五章 妖精王の戦い
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第17話 ブランネンの戦い②

 アルドゥエンナ公が自ら槍を構えて突撃の準備をし、神に加護を祈り旗持ちが掲げる自家の紋章を見上げた。

その紋章が示すのは非常に負けず嫌いで大神にも反抗したという反骨の神、渦巻く風の神ピトリヴァータ。

荒ぶる神が巻き起こす風を意匠化したものだった。


加護を祈り、さあ行くかと敵に向き直ったアルドゥエンナ公だったが、不思議と戦場は静かだった。風向きも変わっていて丘の上から吹き下ろしている。

面頬を下ろして視界が狭くなっていた為気づかなかったが戦場の一角、丘の一つに白く巨大な獅子がいた。象よりも巨大な獅子の足元には数人の騎士達。

皆、何だありゃあという顔をして、面頬を再び上げるものもいた。


獅子が咆哮を上げるとそれは雷鳴のように響き渡りガヌ兵の乗騎は怯えて竦みあがった。不思議とアルドゥエンナ公の心には怯えはない。


「なんだ?新たな敵の魔獣?」


バシュランが疑問の声をあげるが彼にも怯えの色は無かった。


「ばかもん、クーシャントに決まってる。来てくれたのか」


アルドゥエンナ公の声が聞こえた周囲の騎士や兵士達は、「まさか」とか「いや、やはり」とそれぞれの反応を見せる。クーシャントは旧帝国滅亡後に野放しになった総督達が東西からフランデアンに攻め込んで来た時にも妖精の森から出てきたという伝説がある。


敵軍はとみれば、騎獣兵達はぺたりと腹を地面につけたり、尻尾を丸めたりそれぞれ交配された魔獣の影響を見せ服従の姿勢を示していた。


次にクーシャントがもう一度吠えると騎手を振り落して逃げ出す乗騎まで出る始末。落とされた騎手は味方に踏みつぶされてある者はそのまま死んでしまう。


敵の混乱をみてクーシャントと共にいた騎士達が突撃を開始した。

アルドゥエンナ公もいよいよ突撃を開始する。


「行くぞ者ども!王に続け!!」


これまで放たれる寸前の矢の如く、ぎりぎりの状態で待機していた兵士達も喜び勇んで主に続いて歓声を上げ後に続いた。


「「応!」」「王だ!」「おう!?」「陛下だ!!」

「あの金の獅子兜は陛下だぞ!」

「続け、続け、続け!!」

「かかれ!!突撃だ!待ちに待った時が来たぞ!」


アルドゥエンナ公の歴戦の勇士たちも街の民兵も、一度倒れた兵士達も立ち上がり、勇気を取り戻して突撃に加わった。士気が上がり過ぎてバシュランも槍を構えて突っ込もうとしたが、それは部下に止められていた。


喧嘩公と名高いアルドゥエンナ公自身も大王目掛けて突撃していったが、その途中、先ほど自分に舐めた口を叩いた戦士を見つけて進路を変えてその首を狩り取った。大王の方は一度見失ってしまい再度見つけた時にはその輿は遠い地平線の彼方へ逃げ去ってしまったいた。


クーシャントは大きく跳躍して、戦う意思を見せた大型の魔獣を噛み殺して食い千切っている。岩竜テイルラレックはその固い肌がまるでバターのように引き裂かれて頭は噛み切られ胴体は遠くにすっ飛んで行って投石器が着弾したような振動を立てた。


王が率いた騎士達も敵兵を次々と斬り倒している。

この戦いはもはや掃討戦に移っていた。軍神の神官戦士は戦槌を構えて飛び上がり、戦象の頭に雷気が混じるその槌を叩き落して一撃で倒してしまった。


丘の上に残っていたバシュランが的確に指示を出して敵兵の逃げる方向に追撃部隊を送っている。アルドゥエンナ公も部下に追撃を命じた。



◇◆◇



 戦いが終わるとアルドゥエンナ公とバシュランは馬から降りて、王の前に跪いて応援に感謝した。王は傍らの少年に槍を渡して代わりに布を受け取って返り血を拭いている。


「陛下よくいらして下さいました。九死に一生を得た思いです」

「誠に」


防衛の総指揮は地元のバシュランが執っていた為、バシュランから先に口を開き、アルドゥエンナ公も言葉少なに頷いた。


「なに、よく仕えてくれている臣下を助けるのは当然のこと。今後もナーメン伯を助けよバシュラン」

「はっ」


守将のバシュランはよく敵から領地を守った、後で感状を出すと王から褒められている。


「さて、アルドゥエンナ公」

「はっ」


アルドゥエンナ公は今までの敗北の数々を思い出し、少しばかり身を竦めてからその後なにくそと気を入れ直した。彼は東部諸侯の要の大貴族の筈だったが連戦連敗してここまで押し込まれてしまった。

最初から兵力を一ヵ所に集められていればもう少し戦いようはあった。

が、彼は堪え性がなくある程度軍が集まればすぐに反撃をしかけてしまい、敗退を繰り返した。あまり戦上手ではない。

そこを王に咎められても仕方ない、彼は連戦連敗なのだ。


「今後も東部を任せる。領土を奪還しろ」

「はっ!はっ!?」

「どうした?」

「私でよろしいのですか?」

「ああ、卿の戦いようはよくわかった。特に不満はない」

「有難き幸せ」


アルドゥエンナ公は膝をつき最敬礼をした。

シャールミンは彼の肩を軽く叩いて立たせた。


「よく聞いてくれ。ダニーロ。卿の不屈の闘志は称賛に価する、卿こそが私が求める騎士の姿だ。苦境にある今こそ騎士の不退転の覚悟が必要なのだ。我が王国は西にも東にも北にも敵がいる。味方は少なく敵は増える一方。今はひたすら耐え続けて好機を待つのだ」


王は好機を引き寄せる算段はつけているといって配下を安心させ、ブランネンに一泊して戻ると告げた。そうなるとバシュランはひとつ尋ねたくなった。


「あの・・・」

「なんだ」

「陛下とクーシャントであればガヌ・メリを叩くのは十分に可能だと思いますが・・・陛下に東部軍を率いて頂くわけにはいかないのでしょうか」

「こらっ、バシュラン!」


アルドゥエンナ公がバシュランをたしなめる。東部の守りは東部諸侯の義務だ。

王は構わないと言って取りなす。


「バシュラン、クーシャントはキャスパリーグとアラネーアを警戒して妖精の森から遠く離れられない。今回もついさっきそこで合流しただけだ。頼んだわけじゃない。もう奴らに興味を失ったようだ」


クーシャントは戦場に興味がなくなったのか返り血を舐めて毛を綺麗にしたり、地面をひっかいたりそわそわしている。早く帰りたいのだ。


「承知しました。申し訳ありません、少々神頼みが過ぎたようです」

「悪いが後はアルドゥエンナ公と奪還作戦を進めてくれ。余裕が出来たら援軍を寄越す」

「はっ」

「ところでアスカニエン公はどうしたのだ?」


東部総督は彼なのでアルドゥエンナ公が中部にまで後退しながら徹底抗戦をしているのにアスカニエン公の情報が伝わってこないのを王はいぶかしんだ。


「各地が分断されていて、情報が来ません。ガヌ諸国は六カ国に分かれてそれぞれの王が軍を率いて各地を攻撃しています」

「そうか、では仕方ない。当面はアルドゥエンナ公にリージン河より東の事は任せる。リカルドと連携を取りながら反撃を続けてくれ」

「承知」

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2022/2/1
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