第10話 最前線
マリアの懐妊の報で喜びに沸き返っていたフランデアンだが、すぐに悲報がもたらされた。
せっかく占領したアル・ダラスで地震があり、土石流が都市を飲み込み住民を生き埋めにしてしまったという。次々と早馬がやってきてその速報が同日中に鉱山の発破用の火薬暴発事故となり、スパーニアの破壊工作という情報も伝えられて前線の混乱が伺えた。
「ガルド、正確な情報を寄越せ」
「申し訳ありません、陛下。私が前線に行って確認して参りましょうか?」
「いや、それは困る。・・・ガルノーを派遣してくれ。とにかく住民の救助をさせるんだ」
「それなのですが・・・」
「なんだ?」
「イルソンが、アル・ダラスはもう駄目だと見切りをつけて守備兵も撤収させてしまいました」
「馬鹿な!民間人だろうが!救助させろ!」
「はっ!直ちに!」
シャールミンの怒気に恐れをなしたガルドはすぐさま伝令を送りに去っていった。
「まったく・・・ヴェイル。代わりにガルノーを呼んできてくれ」
「はい」
信頼できる人間に前線を見てきて貰いたかったシャールミンだが、最初にリカルドを考えてあちらも新婚生活で子供が出来たらしい。妻が妊娠中にリカルドを送るのは躊躇われたし、まだあまり長旅をさせたくもなかったので諦めた。
ヴェイルが連れて来たガルノーは相変わらず暗い顔をしていた。
「お呼びでしょうか」
「ああ、お前に頼みがある。最近前線の部隊が占拠していたアル・ダラスで地震だか、発破の暴発だか、スパーニアの破壊工作だかで都市と住民が生き埋めになってしまったらしい。その件の調査を頼みたい」
「私に・・・そういった事件の調査が出来るでしょうか」
「イルソンが失態を誤魔化している可能性もある。真実の状態が知りたい。他の誰でもない信頼できる人間に見てきて貰いたい。いいな」
「はっ!若のご命令とあらば!・・・して、ラブセビッツ殿を連れて行ってもよろしいでしょうか?」
ガルノーが調査の為に専門家を連れて行きたいといったのはヴェッカーハーフェンで知り合った技師の名前だった。シャールミンも帝都で聞いた事がある。
「ああ構わないが、今は何処にいるんだ?」
「まだヴェッカーハーフェンに滞在しておりましたから途中で寄って拾っていこうかと思います」
「わかった。だが、彼は建築家ではなかったか?」
「多才な男の様です。もちろんツヴァイリング公やコブルゴータ侯爵にも技師の派遣を要請して頂きく存じます」
「そうだな、あの鉱山を占拠した以上こちらに採掘した鉱石を輸送して貰いたかったし、国内の技師と国外の技師それぞれの視点で見て貰おう」
◇◆◇
ガルノーと技師の派遣を進めていたシャールミンだったが、それは無意味なものとなった。12月末、フランデアンとウルゴンヌの遠征軍が全滅したと凶報がもたらされた。