第9話 破竹の勢い②
フランデアンの王宮には次々と勝報が届けられた。
引き続きサムソンとイルソン兄弟が指揮官となって、イルラータ公の勢力圏であるグランマース、オルトー、アロッカ、ペルリフェール州を陥落させていた。
この辺りの貴族は特に緒戦でウルゴンヌの国境線地帯を荒らしまわった貴族なので恨みを持つウルゴンヌの武将たちが攻略を主張した。
これは仕方なかったが、続けてスパーニア国王の直轄領にまで踏み込んでいったのは少々やり過ぎに思えた。
シャールミンはガルドに尋ねた。
「大丈夫なのか、これは?」
「ちょうどペルリフェール伯領からは直轄領の鉱山都市アル・ダラスが近く、スパーニア王の重要な収入源に当たります。敵の主力を撃破した以上占拠しなければ勝った意味もありません。また周辺貴族を監督し、スパーニア中東地域への入り口となるフォル・サベルは落としておく必要があります」
「軍を二分しているようだが」
「アル・ダラス方面はイルラータ公の命令なのか早めに収穫をして奥地へ撤退しているようです。当面の危険はなくそれほど兵は割いていません。フォル・サベルについてはツヴァイリング公から増援が向かっています。パスカルフローの艦隊がどうも海賊行為で敵を引き付けてくれているようですから敵軍もすぐには集結してこないでしょう。五大公は内紛で軍をばらばらにしているようですし、王の一族ストラマーナ公家はウルゴンヌ国内で二万以上の損害を受けています」
スパーニアの新王はいまだ諸侯の統制を取れていないというのがベルゲンの評価だった。グランマース伯領は領主が処断されて未だ空白地帯だったし、見捨てられたオルトー伯らも降伏して王への恨みを口にしているという。
「そういえばイルラータ公はアル・アシオン辺境伯領に増援を出していたのだったか」
「はい。今が好機です」
「いや、蛮族と戦っているうちに襲うのは卑怯だ。やめておこう。これ以上イルラータ公の領地へ進撃するな」
「しかし、ウルゴンヌを荒らしたのはイルラータ公ですよ?」
「ストラマーナ公もイーネフィール公もそうだった。一度近くまで行って見た事があるがフォル・サベルは容易く落ちないだろう。余計な事はしないでそちらに集中させろ」
「承知しました。それとジャール人の部族連合が軽騎兵三万を派遣してまいりましたがどうしましょうか」
「フォル・サベルの攻略戦では役に立たないだろうからウルゴンヌ国内で待機させて将軍に任せてくれ」
「は」
シャールミンは改めてベルゲン将軍に伝令を送りこの辺りで守りを固めるよう伝令を出した。ベルゲンはフォル・サベルを包囲したが、容易に落ちないとみるといったんオルヴァンに戻りケンプテン伯、ギュイとウルゴンヌ領の統治について話し合った。
フランデアンから今年は十分な食料が届き今年の冬はあまり餓死者を出さずに済むであろうこと、野盗達も徐々に解散しつつあり、自由都市との商人の往来も回復傾向にあった。
リーアンについては群雄割拠状態となっており、未だエンシエーレとサンクト・アナンでは警戒を要した。
◇◆◇
新帝国歴1413年11月のはじめ。
シャールミンやベルゲンが容易に落ちないとみたフォル・サベルだったが、アル・ダラスを落としたイルソンが増援に送った三万が包囲に加わると観念して城兵の安全な退去を条件に開城し退却していった。
この都市にはフランデアンがほとんど保有していない大砲が設置され最新鋭の銃兵も多い城塞で力攻めを断念していた為、サムソンとイルソンはその条件をのんで7日間の追撃を禁じた。
兄弟は早馬で速報をフランデアンまで送った。
そろそろ高山地域では雪が降り始める。
ツヴァイリングにも雪が降るし、アル・ダラスの守備も考えると今年の軍事活動はこの辺りで終わりにすべきだった。
シャールミンも早馬で改めて進軍停止を命じた。
そして12月。
昔は温暖な季節だったのか、世間では播種祭が開かれている。
今では逆に収穫が終わった後の農家の仕事納めで最後にぱっと宴会をしている時期だった。
18歳の成人式が行われている時期でもあった。
成人の定義が遅れた地域でもこの年齢になると誰もが成人扱いとして法律上でも区別される。
この頃、マリアの懐妊が発覚して、新年祭準備中の王宮では沸きに沸いてさっそく国民にも広く知らされた。