第2話 戴冠式②
新帝国歴1413年4月。
緑萌えるうららかな季節にシャールミンはエイラシーオの神官達に祝福され晴れて婚姻の誓いの完遂を認められた。婚約者を伴い、古き森をクーシャントと共に駆け抜けて帰還した冒険譚は詩人達が歌と共に国内に広めており、大規模な結婚式を行う事でそれはいよいよ国外にも広められ始めていた。
大神官は天に向かって両手を広げ、新王の即位を神々に奏上する。
「婚姻の女神エイラシーオよ、誉れ高き太陽神の子、契約の神アウラもご照覧あれ。フランデアンの王子マクシミリアンはあなた方への聖なる誓いを全うした事をここにご報告します。この誓いを守り続ける事がいかに困難を伴ったか・・・今や世界中の人々が知っています。若き王子はいかなる誘惑にも心動かされませんでした。孤独な状況の中、勇気を失わず、弱者への献身を忘れず、強大な敵を前にしても悪を打ち倒して退かず、この世に信仰と正義ありと示し、至上稀なる美しき宝石を手に入れ帰還しました。誓いを果たしたマクシミリアン王子は今や三民族の王として、妖精の民の王として、国家の父として、古き森の守護者として名を改め君臨します。どうか今後も我らが父の道を照らし、守り給え」
大神官が朗々と謳いあげる間も神々も祝福しているかのように風も穏やかでよく晴れていた。エイラシーオの神殿に近い平原では戴冠式の為にたくさんの飾りが付けられた机や椅子が置かれ様々な競技会も開かれ、商人達も集い、宴会料理を準備する為炊事の煙もあちらこちらから立ち昇り大賑わいである。
神官が儀式を始めてからは皆手を止めて静かにして聞き入っていた。
シャールミンは既にギュイから王笏は受け取っているので、ここでマルレーネが王冠をシャールミンに被せ王家の権限を全て受け取った。
そしてフランデアン王として即位した事を集まった諸侯、兵士、民衆に宣言した。
「我が騎士としてアルトゥール・ザルツァとオジェール・ダノを任命する。アルトゥールは我が盾として常に側にあり、オジェールは我が剣としてガヌ諸国への牽制とする。西は皆知っての通り今後もツヴァイリング公が監督する。東部総督はアスカニエン公である。さあ、我が妻にしてウルゴンヌの女王マリアを紹介しよう」
シャールミンはマリアを隣に呼んで、丘に設けた高台で王妃のお披露目をした。
演出として背後の祝祭魔術師達が黒と青の魔術の光を放ってウルゴンヌを象徴する水の女神達の聖印を作り、それは水が流れるようにさあっと空に広がっていった。
「皆さまの温かい歓迎を持ちまして無事ここにフランデアン王妃として迎えられました。詩人の皆さま方が歌ってくださっている通り、皆さまの若き王は単身ウルゴンヌに私を救いに来て残虐で冷酷な恐ろしい悪漢達を追い払いここまで導いて下さいました。この勇敢な王を育てて下さった皆さまに深く感謝いたします。こうして嫁ぎ迎えられた私も、国家の父となった夫を支え、この国に尽くし皆さまの母となれるよう励みたいと思います」
マリアが救出と歓迎について礼をいうと民衆も歓声を上げた。
静まれ、と片手を上げてその歓声をいったん止めたシャールミンが言葉を続ける。
「そして我が后の祖国は今も敵の侵入を受け圧政に苦しんでいる。私はあの連中を追い出し、我が后の正当な財産を取り戻す。既に西部総督には撤退に応じない場合開戦するよう申し伝えた。今ここに10万の勇士が集った。改めてここにスパーニアに対し軍を起こす事を宣言する。この大平原に集った勇士の壮観な顔を見て私は既に勝利を確信している。さあ祝おう、我が国の輝かしき勝利を!」
「我が王の即位を!」
「我が王のご成婚を!」
アルトゥールやオジェールが王の祝言を祝って剣を掲げ、様々な軍装の兵士達も天に向かって神々の加護を願い、王に勝利を誓った。
「大神ガーウディームよ、軍神トルヴァシュトラよ!我が軍に勝利を!」
「「勝利を」」「「乾杯!!」」
「さあ、皆も今日は飲め!出発は明日だ!」
諸侯も民衆の間でも乾杯が始まって、料理が振舞われた。あちらこちらの旅芸人達も待ちにまった時が来たと自慢の技を披露しはじめた。