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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第四章 太陽王の戦い
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第9話 東ナルガ河防衛軍⑤

 友軍の回収を終えた船は南岸要塞のグランドーンへの帰路についた。

ティラーノはその船の一室に通されて救援部隊の指揮官と二人で会っていた。


「まさかお前が来てくれるとは。クラウディオ、助かった。礼をいう」


「何、構わんともさ。ここでは友軍だ。第33軍の軍団長にも防衛軍司令にも救援を要請したのだが連中我が身可愛さに拒否しおった。艦隊司令が利く耳を持っていてくれて良かったな」


救援に来た艦隊の旗艦にはイルエーナ家の将軍クラウディオ・ザカリス・バルカがいた。過去にリークが内戦を引き起こした際にさんざんストラマーナ家を苦しめた為、国に留まる事が出来ず現在は帝国に亡命して客将となっていた。


内戦時ティラーノはまだ幼児だったので彼と個人的な確執はない。


「将軍は我が身可愛さというが、彼らも雪の中では救援を渋っても仕方ない」


ティラーノは自分が彼らの上官でもその判断を是とするだろう、と理解した。


「お前の上官ファドラーンもアルカディウス司令も司令部付き天文官から降雪予報を聞かされていたにも関わらず、今年出した多くの被害を挽回する為早期撤収を嫌って判断が遅れた。艦隊に借りを作り自らの失敗を認める事も出来なかった。それくらいならお前たちが華々しく戦って散ってくれた方が良かったのだ」

「・・・司令部にはベリサールがいた筈だ。彼は?」

「彼も救出に反対していた」


クラウディオは独自に帝国海軍に救援を求めて、海軍は東ナルガ河防衛軍に所属している部隊だったが独断で救出作戦を計画し、河沿いを哨戒して辿り着く友軍を探し回っていた。


「それでグランミセルバには寄港しないのか?」

「海軍から出向してきた副司令がいるグランドーンの方がいいだろう。そして国へ帰って王を倒すかどこかへ亡命するんだな」

「亡命?私はここで蛮族と戦い続ける覚悟だ、国へ帰りもしないし、亡命もしない」


内心は妻の下に帰りたいと願うティラーノだったが、人前で弱みを見せるほど惰弱ではない。


「分かっているだろ?お前は見捨てられたんだ」

「関係ない。私は蛮族と戦う。それしか無いんだ」

「嫁さんはどうする?お姫様を貰ったんだろ、いいのか?お前の意地に付き合わせて。まだ子供もいないのに一人寂しくあの国でいびられ続ける人生を送らせるのか?」


そう言われるとティラーノも妻に申し訳なく思った。

しかし、まだエルドロと時間を置いた方がいいようにも思えた。


各国の援軍の高官の中には己の妻を後方の要塞まで呼ぶ者もいる。

ティラーノも一度ブリアルモンまでマルガレーテを呼んで会いたいと文を送った事があったが、本国は大切な預かりものであるウルゴンヌの姫を出国させることは出来ないと返事があり希望は叶わなかった。



◇◆◇



 ティラーノが率いていた残存部隊はグランドーンで休暇を与えられた。

いざとなれば駆り出されるが冬季であり、任務を免除されて要塞内で普通の市民生活を送る事が出来る。3個軍団が駐留可能な要塞はその三倍の数に達する職人、商人など要塞の運営を支える民間人が滞在し、もはや都市と呼んで差し支えない。給与を使う機会が無かった兵士達も散財して久しぶりの生活を楽しんだ。

彼らの宿舎は毎晩宴会騒ぎだった。


「いやーお互い生き残って良かったなあ」

「まったくまったく、ティラーノ様のおかげだぜ」

「もう結構稼いだし、来年は南岸警備に回して貰って再来年には家に帰ろうかな」

「私はまだ稼ぎ足りない。もっと資金を稼いで国へ戻り、王を打倒するんだ」

「王を倒す?」

「ああ、うちは独立国だったんだが隣の国に負けて従属関係になっちまってな。自らの地位の安泰と引き換えにガヌ・メリの王のケツを舐めて暮らしてやがる。あんな王もういるもんか」

「でも王様がいなくなったらどうやって生活するんだい?」

「市民連合と同じように身分の上下も無い国を作って財産を社会で共有して助け合うんだ。世の中王様なんかいなくても回るんだよ」

「おいおい、お前らこんなとこでそんな話をするのはやめとけよ、ほら」


兵士の一人がすぐ近くにティラーノがいることを顎で示した。


「あ、これは済みません。ティラーノ様」

「ん?なんだ、どうかしたか?」


ティラーノは傍の兵士達の話を聞いていなかった。

彼は炎の神に捧げるナーチケータの祭壇を見ていた。


その祭壇には石炭が敷き詰められて業火が上がっている。

そこへ蛮族の捕虜たちが次々と投げ込まれていた。復讐に逸る兵士は蛮族を拘束し身動きできない蛮族をさんざん殴って縛って骨を何本も折った。

蛮族への復讐の為に目玉をくり抜く拷問器具が作られ、ぽんという音と共に飛び出すそれを見て兵士達は嘲笑った。

もがき苦しむ蛮族は灼熱の祭壇に投じられ、業火の苦しみにさらにのたうちまわっていた。


「ははっ、踊れ踊れ。よくも戦友を無残に食い殺してくれたじゃあないか。だが、俺も戦士だ。お前らと違って獣じゃあない。そこで朝まで耐えられたら恨みは忘れて特別に解放してやるよ」


断罪、浄化を象徴する炎神の祭壇はかつて唯一信教と従来の神々を信じる神殿勢力の間で多用されて、罪も無いものが死んでいった。

最初は神殿勤めの愛の女神を信仰する神聖娼婦達が淫行の罪で、続いて唯一信教との争いの中、他の神官の女性や魔術師にも拡大され最後には女性に限らず投げ込まれるようになった。断罪を象徴とする炎が通じないならば無実である証明だといわれて。


それを見てぼうっとしていたティラーノは我に返った。


「あ、いえ。お聞きでなかったのなら構わないんです」

「そうか。しかし諸君とも長い付き合いだな。そういえばまだ名を聞いていなかった者もいるな」


他の砦の者達も合流してここにいるのでティラーノは一人一人名を聞いていった。


「私はエスペラスの弁護士ニコルです」

「拙僧は燃え盛る車輪の神の使徒カイサーン」

「ガヌ・キョウの発破師ガイ」

「フランデアンのパン屋ヤンです」

「市民連合のシャボウスカといいます」

「ディシアの男の名前はアンドレーだったか」

「ええ、そうです。大国の王族に名を覚えられて彼も光栄でしょう。さあ、飲みましょう。飲みましょう。彼への、彼らへの弔いの酒です」

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2022/2/1
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