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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第三章 誓約を守る者
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第47話 湖の姫と妖精王子-キャスパリーグ-

「寒いですね・・・」

「悪い。もっと近くへ」


冬の森の中、マリアは火を熾す事も出来ずに凍えていた。

シャールミン達は出来るだけ魔獣たちに気づかれないように夜も火を使用していない。


魔獣は火を恐れない。

アルトゥールがいるので大抵の魔獣に襲われても切り抜ける事は出来ると思われたが問題は怪描キャスパリーグ。

神獣クーシャントやアラネーアに匹敵する魔獣だった。妖精の民の中にはクーシャントとキャスパリーグが互角に戦っていた場面を見た者もいる。クーシャントは妖精宮を守る為にキャスパリーグともアラネーアとも敵対しているが、アラネーアは滅多にクンデルネビュア山脈から降りてこないので目撃者は少ない。

キャスパリーグの場合は稀に内海側の街道近くにまで出現する為、ヴェッカーハーフェン、神殿領から南の内海側はあまり人も通らない。海路が主体だった。


 シャールミン達は例え倒せるとしても魔獣とは戦いを避けた。

次から次へと魔獣と戦ってはより強力な魔獣を引き寄せてアルトゥールも力尽きてしまうし、そんな戦いを続ければいずれあの白と黒と灰色の三毛猫も縄張りへの侵入に気が付いて襲ってくるだろう。

嘘か誠か5000年間クーシャントと戦い続けている魔獣が相手ではアルトゥールでも勝てるとは思えなかった。


シャールミンはマリアを外気から庇うようにマントで覆ったが抱き寄せてもお互い冷たい旅装姿だ。いつ魔獣が来るか分からないので服を脱いで温め合う余裕もない。


「方角を見失わなければ二、三日で抜けられる筈だ。辛いだろうが強行軍で進むぞ」

「はい」


凍頂山と神々の森の間をぎりぎりで抜けていくので目印はある。

時折どうしても川や岩山を避けて森の深くへ入る事もあったがどうにか魔獣に発見されずに一日目は過ぎた。


だが、しかしそういつまでも幸運は続かない。

二日目は魔獣に遭遇した。


毒針を持った巨大なさそりのような生物、腐食性のガスを放出し動き回る巨大茸。

蠍はどうにかなったが、茸の方からは逃げるしか無かった。

アルトゥールの鎧も蠍の針で大きく傷つき、茸を斬った際に魔剣にもダメージを負った。シャールミンが持つ宝剣で毒針を斬り飛ばしアルトゥールが蠍に止めを刺したが、茸のガスはマリアが風の魔術で吹き飛ばしたが、止めをさすには火の魔術でも使わないと駄目だという結論ですぐに戦闘続行を諦めた。


「弱ったな。今どの辺だろう」

「明日はこの大木を登って凍頂山を確認しましょう」


魔獣を避けて通るうちに現在位置が推定出来なくなり、二日目の夜は大木に背中を預けて眠る事にした。



◇◆◇



 シャールミンはその日も日課である神々への感謝の祈りを捧げていた。

今日の場合は追加の祈りも捧げている。


<<姿無き女神アクシーニよ、森の女神達よ。百獣の母よ。我らが父アンヴェルフよ。どうかこの神聖にして不可侵たるべき森に踏み入る我らに赦しを与えたまえ。どうか無事に通り抜けさせたまえ。我らにご加護を与えたまえ>>


シャールミンは気休めでも祈るだけ祈った。

見張りはアルトゥールに任せていったん休息をとるかと背中を木に預けると何故か揺れている。地震かと思ったが、正面のアルトゥールは驚きの面持ちで木を見上げていた。


<<懐カシイ、ヒビキ>>


「樹人だ・・・」


アルトゥールが掠れた声を絞り出した。

樹人というのは始まりの時代にいたとされる生物で、竜同様に絶滅したとされていた。目覚めた樹人の周囲は月明りだけでなくところどころ発光し少し明るくなっていた。マリアも驚いていたがどうやら敵意は無いらしいとみて安堵してシャールミンに話しかけた。


「さすがフランデアンですね。まだこのような生き物がいるなんて」

「いや、僕も初めて見た。あの茸とか妖木とかの話は聞いた事はあったけど古代神聖語を話す事から伝説の樹人で間違いない」

「古代神聖語?」

「そうか、マリアは知らないか。そのうち教えるけど今は彼?と話をさせてくれ」


<<樹人よ、名は?>>

<<?>>


マクシミリアンは色々問いかけてみたがどうも神聖語は使えても概念が人間のそれとは違い過ぎて意思の疎通はかなり難しかった。

そもそも古代神聖語自体も口から発したものではない。

目や口のような形はあるが、喉は無い。独特の魔術でそれらしき音を作って伝えているだけだった。


<<ここを通って妖精宮まで帰りたい、わかるか?>>

<<?>>

<<困ったな・・・あ、そうだ。イルミンスール宮に行きたいんだ>>

<<イルミンスール行。リョウカイ>>


妖精宮は妖精の民達の宮殿として世間では知られているが、実際は名を変えられた森の女神達の宮殿であり、真の世界樹イルミンスールの化石だった。

伝説の樹人であれば妖精宮で通じないのも無理はない。


 目的地を理解した樹人はシャールミン達を大きな枝の上に乗せて根を抜いて歩き始めた。シャールミンは慌てて朝になってからでいいと言ったが、アルトゥールはもう諦めてこのまま任せましょうと達観している。

彼は疲れ切っていたし、どうせ大きな物音が立ってしまった後だ。


「魔獣が来るかもしれないぞ」

「樹人に任せましょう。きっとこれが古代の秘密だったんですよ」

「そうですね」

「マリアまで・・・」


素体となった猛獣は夜行性のものが多いため、夜に現れる魔獣の方が危険だった。

シャールミンは妖精の民の力も熟達してきて夜目も使えるが、二人は夜目が利かない。それでも樹人の上は安心感があり、疲れ切っていた一行はそのまま身を任せた。



◇◆◇



「来たぞ、キャスパリーグだ」


三日目の朝、のしのしと神々の森を歩く樹人に近づいてくる魔獣があった。

他の魔獣は樹人を見るとすぐに避けたが、キャスパリーグは違った。

樹人の方もキャスパリーグを見ると警戒し動きを止めた。


「マリア殿はなんとか樹人にしがみついていてください」

「アルトゥール様は?」

「休めました。戦うしかないでしょう」

「そうだな。そうせざるを得ないようだ」


シャールミンとアルトゥールは降りて樹人を援護する構えを見せた。


キャスパリーグは普通の猫のようにシャーっと威嚇の声をあげた。

巨体故にその声は普通の猫のそれより遥かに大きく、さらに声には魔力が籠っていた。様子を伺っていた魔獣は一斉に逃げ出し、マリアは気を失って転落した。地面に墜落する前にどうにかシャールミンが受け止めたが、クーシャントはそれが弱みだと理解し一気に襲い掛かって来た。


樹人がシャールミンを庇うがキャスパリーグの鋭い爪は大きく幹を削り取ってしまう。苦戦する樹人を援護する為アルトゥールが横合いから斬りつけたが、劣化していた彼の魔剣は体毛で滑り、柔軟な毛皮で止められて傷一つ付けられなかった。

そしてキャスパリーグの反撃にあい、その爪を受け止めると魔剣は折れ、傷ついていた鎧も最後の魔力を発揮して青い火花を発しそれで完全に破壊された。

フランデアン王が自身の騎士として国随一の名工と魔術師に命じて作らせた逸品も古代の魔獣の前では一撃を防ぐのが精一杯だった。


「アルトゥールはマリアを!」

「はっ!」


シャールミンはアルトゥールと役割を後退し前に出た。

アルトゥールはとにかく樹人を盾にしてキャスパリーグから逃げ回った。

シャールミンの宝剣はキャスパリーグの一撃を受け止めてなんともなかったが、いかんせん力で及ばない。吹っ飛ばされて地面を転がった。

柔らかい腐葉土が積み重なった森でなければ大怪我をしていた所だ。


「くそっ」

「逃げられませんか?」

「お前がいうな!敵に背を向けられるか!」


樹人がキャスパリーグを抑え込んでくれているが、勝ち目はなさそうだった。

これはもう駄目かもしれん、とアルトゥールは諦めかけたがそこで援軍が来た。

クーシャントだ。


唐突に飛び出してきた金と白の体毛を持つ神獣はキャスパリーグと地面を転げまわって乱戦になった。


その間に樹人はシャールミン達を乗せて再び妖精宮に歩き出した。


<<お、おい。クーシャントが!>>

<<遊ンデイル、放置>>

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2022/2/1
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