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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第三章 誓約を守る者
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第29話 湖の姫-人形⑤-

 五大公の一角、イーネフィールの通行手形の威光は優れたもので、イルラータ公の部下や王家の軍といえどもイーネフィール公の配下に対して厳しく審査する事は出来ず、道中何の障害も無かった。


マリアはミリアンからは着替えの費用やら道中の足しとしていくばくかの路銀を貰い、中古服屋で一般庶民の服装に着替えてウルゴンヌ公領内まで戻ってくることが出来た。マリアの隊長は道中馬車の振動で揺さぶられて、その体調は未だに回復していない、どころか悪化しつつあった。馬車の修理もせずに走らせ続けた為、とうとう車軸が外れて駄目になってしまった。


「あともう少しなのに」

「ここはどの辺だ?どこまで連れて行ってやればいい?」

「ここはグランドリー男爵領周辺だった筈です」

「じゃあ、ここが紛争が始まった所か」


フアンは周辺を見渡した。

あたりにスパーニア側の兵士はいない。


「前線はもっと押し込まれている筈です・・・」

「シュテファンが亡くなったからか」

「はい。母は違いましたが、私を慕ってくれる可愛い弟でした」


マリアの母は彼女を産んでしばらくして亡くなってしまい公王はリーアンから後添えを得て、シュテファンが産まれた。公王の子供の中では唯一リーアン系だった為、昔からリーアンとウルゴンヌの土地を巡って争ってきたスパーニアには邪魔だったのだろう。シュテファンが生きている限り、リーアンはウルゴンヌに対して継承権を主張できる。彼はスパーニア軍の手に落ちた時点で死ぬ以外の運命は無かった。


 フアンは立ち止ったついでにマリアの状態を確認した。


「姫さんはまだ歩けそうもないな。馬車の牽引具を外して馬だけでいこう。抱き上げるが、構わないな」


婚約者がいるのでもちろん駄目だが、緊急避難ということで神々とマクシミリアンにはお許しを貰おうとマリアは妥協した。


「待って、何かいい争う声がします」


抱き上げようとするフアンを制してマリアは耳を澄ませた。


「厄介毎に首を突っ込もうとするな」


それどころじゃないだろ、とフアンは言った。


「でも子供の声です。あっ、あそこです。下の方で囲まれています。助けてあげて」

「馬鹿いうな」


これ以上厄介毎に関わるのは御免だというフアンにじゃあいいといってマリアは転げ落ちるように坂を滑り落ちて、子供の元へ急いだ。


「ええい、くそ」


フアンも躊躇った後、彼女を追いかけた。


「幼い子を大勢で囲んで一体なにをしているんですか!?」


転がり落ちてきたマリアは息も絶え絶えで、「なんだこいつは」と男達も困惑している。代わりに囲まれていた少女が答えた。

まだ10歳にもなっていないくらいだろう。


「母さん達がこいつらに吊るされたの!」

「売女は死刑だ。文句あるか?」

「グランドリー男爵がそんな法を決めたっていうの!?」


マリアは兵士達がつけている盾形紋章に見覚えがあった。


「男爵はもういない。領主の代わりにスパーニア人は俺たちが追い払う。だから法は俺たちが決める」


ここは俺たちのもんだと言い放ち、こいつらは罪人だと木から吊るされた人たちを指さした。


「どうせ、スパーニアの兵士達が来たら逃げ出すんでしょう。リッセント城が落ちた時、貴方達はいったい何処で何をしていたのよ」


この辺りの貴族はシュテファンを補佐するように割り当てられている筈だった。


「やかましい、お前には関係ない。お前もスパーニア人相手に腰を振る類の女か」


後ろから近づいてきた屈強そうなフアンを見て男達は多少動揺したが、たった一人だけだとわかるとすぐにまた強気になった。

周囲の状況がじれったくなった少女が吊るした縄を巻き付けた木から解こうともがき始めると一人の男が止めろと突き飛ばし、それをみたマリアが食ってかかりどんどん男達の殺気が増していった。

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2022/2/1
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