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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第三章 誓約を守る者
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幕間⑦

 最初の爆発は港の倉庫だったと港湾労働に従事していた生存者は証言している。

灯台守は火薬運搬船が先に爆発したと主張した。近海で操業中だった漁師は爆風で吹き飛ばされ気が付いた時には海中にいたのでわからないと答えた。


リカルドは振動と爆風のショックでしばらく気を失っていたようで記憶が定かではなく、気が付いた時にはホテルのロビーは火の海で彼はそこで床に突っ伏していた。


「プリシラ!プリシラ!!」


火に巻かれる前にリカルドは起き上がり、真っ先にプリシラを求めて声を張り上げた。


「ここよ、リカルド」


プリシラは思ったよりも近くにいた。

服が一部燃えてしまったらしく、彼女はひらひらした燃えやすい袖を千切り捨てていた。あちこちで火の手が上がり黒煙が立ち込めて、側仕え達とはぐれてしまっているようだ。


「出入口はわかる?」

「ええ、あっちよ。どうしたの?」


リカルドは平衡感覚が狂っていて自分がどちらを向いていたのか、出入り口は何処だったのかわからなくなってしまっていた。

プリシラが指した方角は既に火の海だ。他に出入り口はあるかもしれないが、ここに着いたばかりで施設の構造を何も知らない。


「あっちは駄目だ・・・火に巻かれてしまう」

「他にもある。私が案内しよう」

「ああ、ラブセビッツさん。良かった」


彼も無事だった。

ほっとしたのもつかの間、広いロビーの天井を支えていた中央の柱が倒れようとしていた。


「不味い!」


リカルドは咄嗟に魔力を全開にして柱を支えた。


「お、おお。危なかった。これが崩れたら全員生き埋めになるぞ」


ラブセビッツが安堵の溜息をつく。


「・・・そうか。じゃあ彼女を連れていってくれ。ラブセビッツさん」


ラブセビッツは今、この時命が助かった時の事しか考えていなかったがリカルドは違った。プリシラも一瞬遅れて理解した。


「リカルド?何を」

「わかったろ、行け!」


脂汗を垂らしながらリカルドはプリシラに早く外へ逃げるように促した。

修行中のリカルドではこの重量を支えるのは長くは保たない。まだあちらこちらで爆音が鳴り響いている。

必死に支えるリカルドの腕には爆発による振動が次々やってくる。

上階も崩れかけていて柱にかかる圧力がさらに増えてきた。


リカルドは全身に魔力を籠め、声にさえも込めて大喝した。


「マルティン!マルティン・マルティネェスッ!!聞こえるか!?生きているならプリシラを連れて逃げろ!ラブセビッツ、連れていけ!」


リカルドはいよいよ苦しくなって肩も柱に押し当てて体の全てを使って柱を支えた。今このロビーが倒壊から免れているのはリカルドの力にかかっている。

リカルドの声を頼りにマルティンが炎の中から飛び出してきた。


「君・・・」

「余計な事はいい。プリシラを」

「承知」


イーネフィール公の騎士はプリシラを肩に担いで、リカルドに礼を言った。


「いや!いやよリカルド!どうせ生き延びてもこの先幸せになんか・・・」

「姫、ご無礼仕る」


マルティン・マルティネスはプリシラの口に右手をやって黙らせて左腕で小脇に抱えてラブセビッツの先導で一目散にその場を後にした。他に生き残っていた人も彼らの後に続く。


リカルドは一人火の海の中に残った。

彼は挫けそうになる弱い心を自覚し、己を励ました。


あともう少し、もう少しだけ

皆が脱出するまでの間だけでいい


あともう少しだけと思ってもいつまで耐えればいいのか・・・

耐えた後自分に先は無い


励まそうとしても、挫けそうになる弱い心

考えれば先が無い事を自覚してまた心が弱くなり、自分を励まそうとする思考は千々に乱れた。


こんな時に頼りになるのは主君と二人で常日頃口にする騎士の誓約。

忠孝、正義、信仰、不屈、献身。


-己に克ち私心なく礼を重んじ、忠孝を為す


-利に走らず、如何なる時も正義を為す


-己よりも主を重んじ、主の威光を万人に知らしめる


-何者を相手にしても退かず、媚びず、諦めない


-弱きを助け、献身を旨とし己が都合を優先しない


騎士の誓約は国や地域によって異なるが、マクシミリアンは特にこの五つの誓約を好んだ。


殿下、御免なさい。

殿下への忠誠よりプリシラを優先してしまいました。

でも殿下が悪いんですからね、今時流行らない騎士の誓約を守ろうなんて言い出したのは殿下なんですから。

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2022/2/1
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