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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第三章 誓約を守る者
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第27話 妖精王子-騎士として-

 平和なイーネフィール公領で一行は速度を上げた。

これまでより関所の審査も簡単になり、シャールミンが正体を見破られる事もなく順調に街道を走り時間を惜しんで野宿する機会も増えた。


イーネフィール公に仕える貴族達にも動員がかけられたのかただの警戒か、兵士はそれなりに見かけるが、野宿していてもいちいち怪しまれる事もない。

路銀にあまり余裕もない事もあるが、出来る限り急ぎたい。宿の都合にあわせるより野宿の方が都合が良かった。


その日も日が暮れた後シャールミンはマイヤーの魔術の講義を受け、暗示を受け、それから昔ヨハンネスに習った体術の型をなぞっていた。


「のう、シャールミンよ。『ベルベット』の報告書を呼んだがマリア嬢には異母姉妹がいて双子のように似ているそうじゃの。ひょっとしたらスパーニアに囚われておるのは替え玉かもしれんぞ」

「・・・それは考えていた。だが、それでも行く」

「無駄骨でも?」

「替え玉だったとしても、彼女の姉妹が、ウルゴンヌの姫とされるものが救けを必要としている事に変わりはない」

「それが騎士の道だと?」


黙って聞いていたアルシッドはマジかよ、という顔をしてシャールミンを見た。

替え玉の件かそれとも誰であろうと救けにいくというシャールミンに驚いてか。


「初めて彼女に会った時、無礼な娘だと思った。次に会った時は姉想いで礼儀正しく別人かと思った。彼女から何度か手紙を受け取っているが、時々筆跡が違う事、誰かと一緒に文面を考えて書き直したような跡に気が付いた」


シャールミンも友人達と一緒に彼女への手紙の内容を考えて似合わない事に恋愛叙事詩まで読んで引用する事もあったから向こうが同じことをしていても気が付かないフリを続けていた。


「それで?」

「帝都にいた時も今もずっとエイラシーオが彼女の危機をささやいてくる。彼女が自分の城で隠れているなら婚姻を守護する女神は僕に危険を知らせないと思う。僕は間違いなく自分が婚約した相手を救いに行っているし、結婚して王位も得ればウルゴンヌを保護下にいれて本人も姉妹両方僕が守る」

「へへっ、お姫さん二人とも自分のものだなんて両手に花だな」

「茶化すな、アルシッド。ところでシャールミン。暗示が緩んでおるのではないか?お主は内なるマナが大きく濃密じゃ。自分でも深くまで心を解放して儂の魔術を受け入れねば十分にかからんぞ」


マイヤーはアルシッドを制してシャールミンにもう一度暗示をかけた。

昔を思い出してシャールミンはマクシミリアンに戻りかけていた。


「血に飢えたジャール人の傭兵シャールミンは敵に容赦しない。血に飢えたジャール人の傭兵シャールミンは敵に容赦しない。頭の帽子は部族の象徴。鳥の羽は族長の権威の証。雇い主に命じられればたとえ赤子でも手にかける恐るべき戦士。血に飢えた獣シャールミンは恐るべき戦士、その姿を小さいと侮るものには鉄拳を。部族の誇りを汚すものには血の制裁を。僕はジャール人の傭兵シャールミン、僕はジャール人の傭兵・・・じゃなかった。私はジャール人の傭兵シャールミン血も涙も無い恐るべき戦士」


シャールミンはぶつぶつと自分に暗示をかけ続けた。

騎士道を守る為に、婚約者を救出する為に行動を起こしているのだが、当面は血気盛んな傭兵であらねばならない。


「こやつは本当に冗談が通じないから気を付けよ、アルシッド」

「へーい。それにしても『騎士』ってのは難儀だねえ。今時『騎士』なんて物語の中にしか出てこないってのに。傭兵としていろんな国に雇われたがどこの国でも騎士なんて貴族化してやがる。どいつもこいつも剣の持ち方なんて忘れちまって贅沢にあけくれて、詩人が褒美を貰う為に主人を『騎士』だなんて呼んで持ち上げてるだけさ」


窘められてもすぐにアルシッドは軽口を叩いた。

この時代、吟遊詩人や作家、音楽家らは権力者と契約して彼らを称える作品を世に送り報酬を得ている者がいる。多くの芸術家らは民衆相手に売れない作品を出して貧しい暮らしを送りながら権力者の目にとまる事を夢見て媚を打った作品を作っていた。それをアルシッドは嘲笑っている、誉れ高き騎士など偶像だと。


 シャールミンは暗示を止めて、アルシッドの軽口に応じた。


「・・・アルシッド。騎士とはもともと富めるものを指す言葉だった」

「うん?馬上で戦う戦士じゃなくてか?」

「馬上で戦うには長い訓練と高価な装備や馬具もいる。下手に馬に乗っても戦い辛いだけで、降りて戦う者が多かった。馬上で戦えるのは専門の訓練を受けた裕福な家の人間だけ。もともと富めるものだけが騎士だった」


一人で何頭も自分の馬を持ち、幼い頃から移動にも狩りにも使っている一部の遊牧民は別だが、大抵の国ではそうだった。


「へぇ」

「世に詠われる『騎士』も後から出来た概念を少しづつ付け加えられて確立していったもの。それぞれの国で尊ばれるべき道徳、理想の騎士の姿は違う。傭兵にも契約を遵守して最後まで死地で残って戦い続けるものもいればさっさと契約を無視して逃げる者もいる。金の為に裏切る者もいればそうでないものもいる」

「ま、世の中いろんな奴がいるもんじゃ」

「私はアルシッドからみれば子供かもしれないが、世の中変な・・・色んな人がいる事くらいわかってる。他所の国の騎士が何をしていようがアルシッドがどう言おうが私の中の理想の姿に揺るぎはない。私は誓いを果たし妻を連れ戻す」


シャールミンの決意と共にぱちんと薪が弾けた。


一行が王都に着くまであと少し。

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2022/2/1
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