第20話 妖精王子-騎士の誓い-
マイヤーは合流するとシャールミンを怒鳴りつけた。
「お主はいったい何を考えておるんじゃ!
救いに来た姫の国の兵士を全滅させて何の意味がある、それも死人の為に、とマイヤーは叱った。
「あいつらは子供まで手にかけようとした。当然の報いをくれてやっただけだ」
マイヤーに怒られても、シャールミンはせいせいとした顔であっさり返答した。
まったく悪びれていない。
「しかしよ、ウルゴンヌ側の兵士だぜ。リッセント城にも近づけずそこらの村々に潜伏しながら抵抗活動を続けていたらしい」
アルシッドも先ほどの戦士が連中は何とか解放軍と言っていた、という情報を聞いていたのでそれを伝えた。
「子供がどうのいっても発端はあの吊るされた連中の事じゃろう。お主はもう少し合理的な性格かと思い始めておったのに」
「ああいうのは戦場付近ではよくある事だし、フランデアンじゃ無いのかもしれないが、街道沿いじゃ犯罪者を見せしめに吊るして晒しものにするのは現代でもまだまだ見かける風習だぜ。いちいちあんなのに関わってたら到着が遅れちまう」
アルシッドも子供らしい正義感は捨てるべきだと諭した。
「私は女子供を守り、弱者を助け、いかなる時も正義を遂行する騎士の誓いを立てた。窮地の婚約者を救いに出た旅だからこそ、誓いをより一層守らねばならない。自分の都合で誓約を破れば二度と加護は得られないだろう」
シャールミンは他にもフランデアンの信仰を守る誓いも立てていたが、それは帝国人の前でいう事ではなかったので黙っていた。
「それは王の道ではないじゃろ」
「あんたは王になるんだろ?」
子供っぽい正義感ではなく誓いを立てているからだというシャールミンにアルシッド達は尚反対した。
「今の所、王になれる見込みはない」
ギュイの承認が必要なのにここまで敵対関係になった以上、シャールミンが王位に就くのはかなり難しそうだ。シャールミンは父や母を思うと馬鹿な事をしていると申し訳ない気持ちにはなったが、それでも自分は正しいと信じていた。
「だが、フランデアン国王じゃなきゃ姫さんは救えないんじゃないか?もうウルゴンヌの兵力じゃ、じり貧だぜ」
「公王の最後の妃はリーアンの小王の妹だ。それでなくともスパーニアが奥地まで侵攻してくればもともと争ってた相手が勢力伸長するのを良しとせず介入の口実が出来たとして喜んで救援に来るだろう」
「それで公王の長男は義理の母がいる本城に入らないのか」
リーアンの力を借りてスパーニアを追い出せば、王妃ベルタは長男のフィリップではなく、次男のシュテファンを王とするよう要求してくるだろう。だが、リッセント城が落ちて恐らくシュテファンも死んでいる。
シャールミンは自身の見解を二人に伝えた。
スパーニアと帝国の友好関係を思えば、連中はこのままどこまで行くか分からない。リーアンが介入し二国が泥沼の戦争状態に陥ってこそようやく帝国は介入するだろう。
その時にはもう時間が経ち過ぎてマリアを妻とすることは難しくなっているかもしれない。フランデアンが介入する時期を逸しているかもしれない。
諸侯も一度他人のものとなった女を王妃として迎えるのは拒むだろう。
「じゃあ殿下はどうしたいんだ」
「殿下じゃない」
「それはもういいから」
「マリアに会って彼女の希望を聞く」
「主体性が無いのう」
シャールミンはふんと鼻をならした。
「元々嫁ぎに来る予定だったんだ。この国の事は後継ぎの王子たちと独立保障をかけてるはずの帝国の責任だ。私は最悪マリアさえ無事ならこの国もフランデアン王家を誰が継ごうが関係無い。マリアは母の実家に連れて行く」
「妖精宮か!?わしもついていって良いか?」
「絶対に駄目だ」
シャールミンはわざとらしい微笑みと共に凄み、断固拒否した。
「フランデアンが1000年帝国の侵入を食い止めて守り通した宮殿かぁ、俺も行ってみたいな」
「うちだけの力じゃない。中原諸国も協力した。いや、東方全体がだ」
内海側の沿岸諸国は次々上陸されて征服されてしまったが、帝国はそこから先は徹底抗戦に遭い本土からの陸路をフランデアンや遊牧民たちに襲われた為、当時の能力では兵站が途切れた。
一旦侵攻は諦め大陸の他の地域を征服してから舞い戻ってきたが、やはりフランデアン側の戦線では結果は同じだった。
しかし沿岸諸国側からフランデアン南にある大山脈を迂回して中原諸国に侵入し帝国の勢力は徐々に東方圏に広がっていた。
いずれフランデアンも包囲され敗れる日が来るかと思われたが、征服済みの北方や西方圏で反乱がおき始めた為、形式上の従属関係となって講和している。
東方側も限界だった。
最終的に帝国側は安定的な統治機構を作って国力差は絶望的になりフランデアンも東方圏の一国家として帝国の体制下に組み込まれている。
「古代に帝国とは取り決めを交わしている。破れば勝ち目がなくとも東方侯は大陸諸侯会議を開き徹底抗戦の道を選ぶ」
「わかったわかった、だが招かれれば外国人でも訪問してもいいんじゃろ?」
「誰も招く気は無い」
聖典の記述内容や世間一般での信仰については帝国と折り合いをつけたが、聖地で無礼を働けば温和な妖精の民も激怒して第二帝国期と同じ結果になる、興味本位の外国人を招き入れてもお互い不幸になるだけだ。
シャールミンも妖精の民といわれる長老達も現在では単に妖精宮と呼ばれ、かつては世界樹があったと語り継がれるイルミンスール宮に誰も近づける気は無い。