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誓約の騎士と霧の女王  作者: OWL
第一部 第三章 誓約を守る者
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第19話 妖精王子-人形②-

 吊るされた女性達を放置して街道を通り、それからしばらく・・・シャールミン達は焼け果てた村々を横目に峠道に差し掛かった。


「おい、シャールミン。いつまで黙ってるんだよ。そろそろ飯にしようぜ」

「まだいい」


先ほどの吊るされた人々が気になってシャールミンはいくら話しかけられても適当にあしらっていた。

シャールミンには敗残兵の考える事などいくら考えてもわからない。


(なんでこの状況で自国民を殺せるのだろうか・・・)


ぼんやりしながら峠道を下り始めると真下の方の別の街道で何やら言い争う声がした。見下ろすと先ほどのようなグランドリー男爵の敗残兵らしき兵達が十数名。

そして左肩だけ異様に大きい特徴的な鎧を着た戦士が囲まれている。


それに加えて戦士に庇われている様子の10代半ばの女性が一人と、10歳くらいの少女が一人。その傍には先に見たのと同じような吊るされた女性が二人。

一番小さな少女はなんとかそれを下ろそうとしている。


囲む男達の怒声はどんどん大きくなり、一人の男が強引に少女をつかんで止めさせうとした。だが、大鎧を着た男に突き飛ばされてたたらを踏む。

そこでついに囲んだ兵士達が剣を抜いた。


男も少女たちも関係なく殺す気だ。


「不味い!」


シャールミンは背負った弓を構え矢をつがえて速射した。

戦士の方は自分でなんとかできるだろうと考えて、少女に向かっていた男達を続けざまに射る。命中したのは1本だけだったが牽制にはなった。

アスパシアに言われて公都で弓を買い、先日夜襲をしていた時に数名射殺している。初めて襲った時、躊躇いはあったがそのあとはすぐ慣れた。

何でもありの戦争と戦士としての一対一の勝負とは違う。


マイヤーに雑兵相手にいい気になるなと窘められ、増長はしないよう心掛けているが、一方的に殺すのはいい気分ではなく増長はしそうにもなかった。


 さて、射られた兵士達は射手を探して周囲を見回し、盾を構えた。

これ以上自分の腕では射殺出来ないと判断してシャールミンは馬の両腹を蹴って斜面を駆け下り剣を抜いた。


「はっ!」

「な、なんだ!?」


驚いた兵士達は、咄嗟に武器を構えたが、遅い。

シャールミンには駆け抜けざまに二人を斬り、距離を取って馬首を返した。

戦士の方も兵士達が動揺している隙に二人を斬り殺していた。かなり腕利きの様だ。


「おい、お主も助けにいかんか。出番じゃぞ」


マイヤーはアルシッドにも助けに行くよう促した。敵はまだ10人以上いる。


「無茶いうな。俺はこんな斜面を馬で駆け下りれるほど乗馬は巧みじゃない」


馬に乗っているだけならともかく、自在に扱うには相当な訓練がいるし馬の維持費は高い。傭兵の彼はそんなに馬に慣れてはいなかった。王侯貴族とは違うのだ。

農耕馬はともかく軍用に使う馬を養うのに最低年収100エイク以上はいる。

庶民であれば、3人分から10人分の年収が必要だ。

それなりの地位の職業軍人で無ければ馬を維持するのは難しい。


「だったら自分の足で降りていけ」


アルシッドは仕方なく馬を降りてざざざっと斜面をみっともなく滑り落ちて行った。


「げ、不味いぞ」


転げ落ちていく最中に馬首を返して動きを止めたシャールミンを弓兵が狙っている事に気が付いた。しかし、その弓の弦はぷつんぷつんと切れていく。

マイヤーの魔術だ。


(あの爺さんの魔術か。これだけ距離があってもあの切れ味、相当高位の術者だぞ・・・)


アルシッド達の援護が間に合わず、数本の矢がシャールミンを襲うが、シャールミンの目は矢を捉えていて片手で簡単に弾いた。捌ききれなかったものも命中直前で僅かに逸れてかすり傷程度を残す。


(矢除けの加護を施された魔術装具を身に着けていたのか。まああの国の王子様ならそれくらい持ってるか)


シャールミンは有効打になりそうなものだけを正確に弾いていた。


マイヤーの視界に入っていなかった位置から狙っていた弓兵をアルシッドが後ろから斬り倒したので、シャールミンも突撃を再開した。


魔術の援護もあり、熟練の傭兵と魔導騎士に匹敵するシャールミンが相手では戦いは一方的で兵士達は逃げる事も出来ずに全滅した。

シャールミンは倒れた者に止めまでは差さなかったが、アルシッドは一人残らず止めを刺して回った。



 襲われていた戦士もアルシッドと共に全員動か無くなったのを確認して礼を言ってきた。


「助かった。礼をいう」

「気にするな、ただの通りすがりだ。あんたも傭兵か?」


シャールミンは馬を降りて一番小さな少女に手を貸してやっていたので、アルシッドが代わりに答えた。かなり高価そうな鎧を着ているので、アルシッドは相手が傭兵か今一つ確信を持てなかった。普通の傭兵には家名を世に響かせる為に目立つ必要もなく、装飾より実用性重視だ。


「そうだ。といっても貴族の用心棒を生業としている」

「なるほど」


かなり腕利きのようだし、見栄えもいい。

無精ひげを生やして、着ているものも多少汚れているが元の素材はかなり良いのが見て取れた。さぞかし裕福な貴族の護衛をしていたのだろう。


「彼女らは?その貴族の子供か何かか?」


アルシッドには少々疑問だった。

10代半ばの少女は、かなりやつれているし、10歳くらいの少女の方はそこらの村人のような風体だ。

やつれた方の少女は地面にへたり込んでいる。かなり血が流れたので動転してるようだ。アルシッドの視線を戦士は間に入って遮った。


「すまんが詮索は無しだ。家族の所に送り返してやる途中でね。場合によっては追手がかかるかもしれない」

「悪い、余計な事だったな」


訳ありのようだったし、傭兵が他人の仕事に口出しするのも仁義に反する。

意気投合しても雇い主が敵対していることもよくあるので、知らない方がいいこともある。


(隠し子か何かかな。ちゃんと食事して休養を取れば貴族の子女に見えなくもない)


シャールミンは全員降ろしてやると穴を掘り始めたが、そこで上から声がかかった。


「いつまで下らん事に関わってる!儂は急ぐんじゃ!先でこの道は合流するからそこで落ち合うぞ」


マイヤーが大声でアルシッド達に声をかけた。


「ああ、帝国商人の一行か」


戦士が馬車を見て言った。

シャールミンは最後まで弔うつもりだったが、小さな少女が断った。


「あとはあたしがやるから。あんたはもう行って・・・助けてくれて有難う」

「そうだな、行くぞシャールミン」


迷ったシャールミンだが、気丈な様子の少女を見て頷いた。


「わかった。気をつけてな」

「有難うございました。シャールミン様」


やつれたほうの少女もがらがら声で礼を言った。顔を上げるのも辛いらしく、顔は長い金髪で隠れている。隻眼だった戦士の男もアルシッドに声をかけた。


「あんたもな。今度会ったら一杯奢らせてくれ・・・ええと?」

「アル・アシッドだ。パスカルフローの傭兵団のひとつに所属している」


アルシッド達が別れ際に情報交換しているが、マイヤーはもう先へ進み始めていたのでシャールミンは一度兵士達も含めて死者に黙礼を捧げた後急いで追いかけた。

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2022/2/1
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