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なぜか北条早雲こと伊勢盛時になってしまったが、大樹の無茶振りがひどすぎて正直しんどい  作者: 水源
文明7年(1475年)

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伊豆制圧は焦らず行くこう、まずは狩野城の城主狩野道一を何とかするか

 さて、伊豆の堀越へ討ち入りを行い、堀越公方を滅ぼした。


 ――まあ、足利政知は取り逃がしたが。


 それでも、伊豆の支配者が一人消えたことに変わりはない。


 討ち入りに先立って、伊豆の国人たちもある程度は麾下に加えている。


 だが。


 当然ながら、伊豆中の者がすべて俺たちに従ったわけではなかった。


「まず、障害になりそうなのは狩野城の城主、狩野道一か」


 大道寺重時の言葉に、俺はうなずいた。


「ああ。何しろ、平安の頃から伊豆に根を張っている連中だからな。簡単には従わないだろう」


 伊豆で古くから勢力を持つ豪族は、それだけで厄介だ。


 何代にもわたって土地を支配し、土地の者と縁を結び、家臣を抱えている。


 当主一人を屈服させれば終わる――という話ではない。


 その土地に根を張った一族そのものが、俺たちにとっての障害になる。


「まずは本拠地を修善寺へ移すとしよう」


「狩野城を睨みながら、伊豆の中枢を押さえるわけですな」


「ああ」


 堀越御所からも比較的近い。


 そのうえ狩野城を押さえれば、伊豆中央部への睨みも利く。


 狩野道一を放置しておく理由はなかった。


 狩野氏は、遠江・駿河・伊豆に広く勢力を持つ一族だ。


 しかも、遠江で今川義忠と戦った狩野氏も同族である。


 その祖を辿れば、藤原南家の藤原為憲に行き着く。


 承平天慶の乱では平将門討伐で功を挙げ、従五位下木工助に叙任された。


 その後、藤原の「藤」と木工の「工」を合わせて工藤姓を称するようになったという。


 さらに時代が下り、工藤維景の子孫が駿河守を退任した後、修善寺から天城湯ヶ島に至る狩野郷へ移り住み、狩野姓を名乗るようになった。


 つまり。


 狩野氏は、昨日今日生まれた豪族ではない。


 伊豆に根を下ろしてから、何百年にもなる。


 それだけに、厄介だった。


 そして、その名をさらに高めたのが狩野茂光だ。


 平安末期、狩野茂光は伊豆の武士たちを束ねる棟梁だった。


 保元の乱で伊豆大島へ流された源為義の八男、源為朝の監視役を務め、為朝が反乱を起こすとこれを鎮圧。


 源為朝を自害へ追い込んだ人物でもある。


 その後、源頼朝が挙兵するとこれに従った。


 だが、石橋山の戦いで頼朝軍が敗れると、狩野茂光も自刃して果てた。


 その家督を継いだのが嫡男の狩野宗茂。


 以後、狩野家は鎌倉幕府、そして室町幕府でも重用され、代々「狩野介」を称してきた。


 要するに。


 狩野氏は、伊豆における名門中の名門なのだ。


「だからこそ、狩野道一は厄介だ」


 俺は狩野城の方角へ目を向けた。


 現在の狩野道一は堀越公方、足利政知に重用されていた。


 そのため、俺たちが伊豆へ攻め込むまで、重い軍役に苦しめられていたわけではない。


 ならば。


 俺たちに味方する理由も薄い。


「もっとも、狩野氏の庶流である宇佐美氏や伊東氏は、こちらについているがな」


「一族すべてが同じ考えではない、ということですな」


「そういうことだ」


 これがまた、厄介なところだった。


 一族の中にはこちらへ付く者がいる。


 だが、本家である狩野道一が抵抗している。


 ならば、俺としても簡単に手を緩めるわけにはいかない。


 すでに狩野城は包囲している。


 だが――。


「それにしても、落ちませんな」


 大道寺重時が苦笑する。


「ああ」


 狩野城へ続く道は狭い。


 大軍を展開して完全に包囲するには向いていない。


 無理に兵を突っ込ませれば、こちらの被害ばかりが増える。


 狩野城そのものも、長年この土地を支配してきた一族の居城だ。


 地形も城の構えも、こちらより向こうの方がよく知っている。


「そう簡単には落ちないだろうな」


「では、兵糧攻めですか?」


「それも一つの手だ」


 だが、俺はそれだけでは終わらせるつもりはなかった。


 狩野氏のような古豪を、そのまま伊豆に残しておくことには危険がある。


 なにしろ、土地との結びつきが強すぎる。


 俺が恐れているのは、狩野道一本人ではない。


 その背後にある「地縁」だ。


 当主を討っても、親族が残る。


 親族を追っても、旧臣が残る。


 旧臣を追っても、土地の者との縁が残る。


 そして何かあれば、


 ――「昔の狩野家に戻そう」


 そんな声が上がる可能性がある。


 それは避けなければならない。


「狩野城が落ちた場合は……予定通り、根切りですか?」


 大道寺重時が、少しだけ声を落とした。


「いや」


 俺は首を横に振った。


「反抗した者をすべて殺す必要はない」


「では?」


「沼津へ送る」


 重時が目を細める。


「地縁から切り離す、と」


「ああ」


 伊豆に根を張った一族を、そのまま伊豆に残しておけば、いつか必ず禍根になる。


 ならば土地から切り離す。


 沼津へ移し、そこで新しい生活をさせる。


 それならば、旧領を失わせることにはなるが、命まで奪う必要はない。


「もちろん、早い段階で従えば話は別だ」


 俺は狩野城を見据えた。


「早めに従えば、元の所領は安堵する」


 これは本気だった。


 俺としても、すべての国人を滅ぼしたいわけではない。


 むしろ逆だ。


 これから伊豆を治めていくなら、古くから土地を知る者たちの力は必要になる。


 だからこそ。


 従う者には、それに見合った恩賞を与える。


 抵抗する者には、それ相応の処置をする。


 単純な話だ。


「ただし――」


 俺は言葉を切った。


「反抗的で、しかも古くからこの土地に根を張っている連中を、そのまま残しておくわけにはいかない」


 地縁とは、力だ。


 そして今の俺にとって、それは敵にも味方にもなり得る。


 だからこそ。


 狩野道一には、選んでもらう。


 ――伊豆に残るか。


 ――それとも、伊豆を失うか。


 狩野城を落とす戦いは、単なる一城の攻略ではない。


 これから俺が伊豆を支配するうえで、


 最初の試金石になるのだ。

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