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備中鍬はなぜ備中で作られたのか

 備中の名前を持つ農具としては刃の先が2本から6本に分かれている股鍬(またくわ)の「備中鍬」やシャベルのような農具である(すき)の刃先を備中鍬の先端に置き換えた感じの「はねくり備中」などがある。


 刃先が別れた股鍬自体の存在は古く、弥生時代から既にあったが、刃先が分かれるとそれだけ折れやすくなり土もそれだけすくえなくなることもあって、長方形の1枚の刃で構成される「平鍬」や、平鍬に比べて肉厚で丸みを帯びている「唐鍬」などが主流だった。


 ではなぜ備中鍬というものが備中で作成され、その後に全国で普及したかと言えば、この地がたたら製鉄の盛んな土地であり鉄が手に入りやすかったこと、それ故に水田国重のような刀鍛冶も多くいたことで製鉄や鍛冶の技術が進んでいたというのが原因だろう。


 この刃先が別れた備中鍬の普及で湿り気のある土壌を掘削しても、金串状になっている歯の形状で歯の先に土がつきづらく、比較的容易に田起こしが可能になったのである。


 特に棚田などでは牛馬を用いて掘り返すことは不可能に近いので、棚田や小さくて正方形ではなく田んぼが多い日本ではこの備中鍬は農業の救世主となったのである。


 そして農業で生計を立てているものが多かった昔は、農業に必要な農具の製作や修理は野鍛冶(のかじ)が行い、鎌や包丁などの研ぎ師を兼任することも多かった。


 こういった野鍛冶は、農家から乾田で使うのか湿田で使うのか、畑で使うのかなどの農具の用途や土の性質などをよく聞いたうえで、その農家が使う地域に合った農具を製作していたのだ。


 実際に南部鍬、秋田鍬、相馬鍬、野州鍬、江戸鍬、京鍬、河内鍬、肥後鍬など各地でその地域の地質などに応じた形状の鍬が制作され用いられているのである。


 備中鍬も乾田用の方が刃が細く、硬い土でも深く刺さるようにできていて、湿田は土が軟らかいためあまり土がこぼれないように刃が太めにできている。


 野鍛冶でも定住して営業する 「定鍛冶(じょうかじ)」もいれば、農閑期にあちこちの村を巡回出張して仕事をする 「出鍛冶(でかじ)」もいる。


 そしてもともと中国地方では、古墳時代後期からたたらによる製鉄が一貫して続けられ、室町時代には国内随一の鉄生産地となっており、余剰分は堺などに運ばれていたが、当然地元で使う刀剣や農具などにも使われていた。


 基本的に鉄が高価で貴重であった時代は、木の板で刃床部を作り、刃先のみに鉄を接合した、風呂鍬(ふろぐわ)が多く、刃床部全体が鉄板1枚でできている金鍬(かなぐわ)は高価であった


 金鍬はさらに上下鍬と窓鍬があって上下鍬は正方形の矩形、窓鍬は刃部の途中に2つか3の穴孔があるので作業中に土が鍬につきにくいという股鍬に近いものであった。


 金属部が鋳鉄でできた鋳鍬もあり、鋳鍬は製造が容易で安価であったが、鍛造の鋼の鍬に比べもろく深耕に適さないためあまり人気はない。


 なおたたら製鉄では鉄原料として、もっぱら砂鉄を用いているが、備前や備中では鉄鉱石を用いていたりもする。


 それ故に備中は隣国である備前とともに古くは平安時代から刀鍛冶が存在し、備後から移住した水田派が備中で代々水田国重を名乗って、備中荏原荘にいたりする。


「これはまた好都合だな、母上に頼んで槍や農具を作っていただこう」


 なお備中の水田国重には、祖先を河野とする派と大月とする派の二派が存在するようだが実際どうなのかはいまいちよくわからない。


「母上、まずは水田国重に長柄槍を頼みつつ、刃先の細い股鍬作りも頼みたいのです」


 俺は7尺槍(約2,1メートルの槍)と窓鍬を発展させた先割れの備中鍬の絵を書き母上経由で水田国重にそれらを製作してもらうことにした。


「ふむ、荘園を守るためにこれらが必要になるというのですか?」


「はい、これからは用水路や濠を掘るにもなるべく掘りやすい鍬が必要となるでしょう。

 母上のような女性を守るためにも柵や濠を今より厳重にする必要があるかと」


「なるほど、それもそうかも知れません。

 では私が手配しておきましょう。

 しかし、我が身くらいは私自身で守れますのであまり心配しなくとも大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


 このあたりは長い間川の流れがあまり変わっていないこともあって粘土質の土が多い。


 だからこそ、そういった土地を耕しやすくするという目的で備中鍬などは作られたし、それには製鉄と鍛冶の技術が優れている条件を満たしていたのも大きかったのだな。

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