やはり古河公方は扇谷上杉を見限りそうだな、そして山内上杉が相模に攻めてきたか
さて、扇谷上杉定正は昨年の戦いの野戦ですべて勝利したものの、常に相手である山内上杉顕定よりも少数で戦うことになったから、実数での損害はむしろ山内上杉方よりも大きいとすら言える状態でもあり、鉢形城を落とせなかったこともあってその士気は高い状態とは言えなかった。
長尾景春の乱を太田道灌が各地で上杉家に反旗を翻した城を落としまくってほぼ1年で収束させた際、翌年正月には古河公方足利成氏は太田道灌に和議を打診し(太田道灌が先手を打って古河公方足利成氏へ単独講和を持ちかけたともいわれるが)先に戦線離脱していた事を考えれば、今回も古河公方足利成氏が扇谷上杉定正を見限って単独で和睦を結ぶ可能性は高いように思う。
「まあ、野戦に勝ったところで城を落とせなければ領地も増えぬからな。
古河公方足利成氏としても損害が出るだけで利益もあるまい」
俺がそう言うと大道寺重時もうなずき言った。
「山内だろうと扇谷だろうとその主人としての地位さえ得られるならどちらでもいいだろうしな。
堀越公方を俺たちが討ち取ったせいでその公方という地位自体は安泰なわけだし」
そして風魔小太郎も言う。
「元々扇谷上杉定正は器の大きな人物とは言えぬようですな。
重臣の大森氏頼が諫言して山内上杉顕定との和解を勧めているが、扇谷上杉定正はそれに耳を貸す様子も無いようで」
まあそういうことに耳をかせる人物であればそもそも太田道灌を暗殺などしなかっただろう。
もっとも太田道灌が合戦に強すぎてその地位を奪われかねないと恐怖する理由もわからないでもないが。
「堀越公方を討ったのも、その地位を狙っているとのことから公方の命令で俺が出張ってきた結果なわけだが、それで元々山内上杉の守護領国だった伊豆を取られた山内上杉は面白くないだろうし、扇谷上杉定正にはもっと踏ん張ってもらいたいところだが、古河公方足利成氏が単独で講和すれば厳しくなるだろうな」
そして風魔小太郎の部下らしき男が慌てた様子でやってきた。
「失礼いたします!
山内上杉顕定が相模に逆侵攻を開始。
現在七沢城を攻撃中とのこと」
「やはりそうなったか。
相模に救援にでなければならなそうだな」
そして続けて上杉朝昌から使者がやってきた。
それは俺に大森氏頼の息子である大森藤頼とともに小田原城の防衛をしてくれとのことであった。




