A.D.4021.無敵のクイーン
セブンスとの通信を終えたフィフスが対面している、帝国の大部隊を見回した。
「敵が動きそうだな。陣形とラバーズのリンクが終わった。あの大部隊だと将軍クラスがリーダー機が乗っているだろうな。そこを狙うか」
クロムとレニウムが戦闘準備を始めた。二千機相手では遠距離ではなく、混戦に持ち込むしかない、各々、剣と斧と盾を準備する。
「まてまて戦うのは鈴々が突っ込んで敵をかく乱してからだ。それまでは後方からチミチミ、遠距離射撃でもしていたまえ。キミたち」
黒い円盤型の空中戦車の甲板に座ったフィフスが、二人に注意する。
「はぁあ? なんだそれは。鈴々にそんな事させられない。かく乱ならお前がやれよフィフス」
ふーーとため息をつく褐色のドール。
「今は人待ちなんだ。それにあんたら何か勘違いしている」
レニウムが首をかしげる。
「鈴々に二千機と戦うのは無理だ。だが、フィフスおまえなら可能だろう?」
わかってないと首を振るフィフス。
「あんたらさ聞くけど私の事どう評価している? 強いとか思ってない?」
クロムとレニウムはお互いに考えて同じ答えを出す。
「そりゃ、総合的な戦闘の強さなら、フィフスは稀代な戦士だと思う。ただし性格は最悪だがな……アハハ」
二人の笑いに「うるさい」と右手をシッシと振るフィフス。
「性格は余計だよ。でも実力は認めているんだったら鈴々の心配いらない」
褐色のドールが両足を揃え、甲板に座る絵が映るディスプレイをグーで殴ったクロム。
「だからなんでだよ!? 鈴々にまた、あぶない事はさせられないだろうが。おまえがやらないなら俺がいくぞ! おまえは人でも出前でも待ってやがれ。そこでな!」
「勝ったことがないんだよ」
唐突なフィフスの言葉の意味が理解できない二人。レニウムが聞きなおす。
「何が勝ったことがないないんだ? 誰が誰に?」
「もう少しかな」と空を見ているフィフスが答えた。
「私が鈴々にだよ。子供のころの喧嘩や戦士になってからの模擬戦。こっそりやった真剣勝負でもな。しかもタイマンなら無類の強さ試しにおまえらが二人で向かってみればいい。五分持ったら褒めてやるよ」
二人は敵とこちらの中間に仁王立ちする鈴々の紫の機体を見た。
「まかせとけよ。鈴々が突っ込んだら、私がサポートして、隊長機の将軍とやらをぶっ壊す。それからは脳筋のおまえれの出番だ大混戦でいこう、だから今は大人しくロングライフルの準備をしておけ」
疑問をもちながらもクロムはレールガンをレニウムは集約型ブラスタ砲をロングレンジに調整を始めた。
二人の行動に納得したフィフスが立ち上がった
「さて、そろそろ、待ち人来たるだな」
突然、クロム達三人の上に大きな影が舞い降りた、警戒する二人と右手をかざし、降りてきたものを確認するフィフス。レニウムが叫んだ。
「これは……サンタナ? なぜ姿を現した」
急降下してきた自由連邦の新型艦サンタナは、フィフスのすぐ傍に着陸した。
艦の底のハッチが開き、小型のホーバークラフトが近づいてくる。
黒きマシンの前で止まった、ホーバークラフトから二人の少女が降りてきた。
「やっと来たか……待ちわびたぞ。リン、アイアンサンド」
フィフスは高い位置の甲板から地面へ飛び降りた。
リンが駆け出し、フィフスの胸に抱かれた。
「今まで何してたの? わたし心配したんだから。いっぱい泣いたんだよ!」
小さなリンの髪をなでながらフィフスが呟く。
「そうか。それは悪かったな……アイアンサンド、おまえもおいで」
フィフスの誘いに両こぶしを強く握り、我慢する黒髪の少女。
「……なにやってたんだよ。私たちがどんな思いをするか、わからないあんたじゃないだろ?」
ストレートの髪が風に揺れ、アイアンサンドの頬を涙が流れ落ちる。
「うん。すまなかった。ここへおいでアイアンサンド」
二度愛する人に名前を呼ばれ、我慢していた反骨心は簡単に壊れた、走り寄る黒髪の少女、二人を胸に抱えてその匂いをかぐフィフス。
「いい匂いだ。リンはアイアンサンドがちゃんと洗ってやったんだな」
泣きじゃくる二人を見ながら、微笑を浮かべた褐色のドール。
「これで戦える。今度は一緒だ。絶対に勝って生き残る……三人でな」
フィフス達三人の姿を見ていたクロムが呟く。
「もしかして意外と良い母親になれるかもな……フィフス」
間もなく三人の姿は巨大空中戦車に吸い込まれた。
空中に浮上するフィフスドール、褐色のドールが作戦開始を伝える。
「行け鈴々。クイーンドールを得て、数段強くなったおまえの力を見せてやれ」
一気に駆けだすクイーン。
「クイーンは空中移動とか盾とかブラスタ砲とか持ってないのか? 地上を歩行で近づくのは危険すぎる集中砲火を受けるぞ」
レニウムの心配に首を振るフィフス。
「あいつはクイーンなんだ。全てのドールズの原型。形は前のセブンスドールの機体にそっくりな構造をしているがブラックホールエンジンとか重力シールドなんかない。丸裸のセブンスドールって感じか。だが恐ろしく強い」
敵陣へと地上を走るクイーンに対して鶴翼の陣を敷く前衛の五百機から一斉にブラスタ砲が撃ち込まれた。一点に集中したエネルギーは巨大な爆発を起こして、地上に大きな穴を空ける、しかし、蒸発したと思われたクイーンはその数百メートル先を疾走する。
「鈴々が消えた」
戦場にいる全ての者が驚く中、フィフスだけが行動を開始する。
「頃合いだアイアンサンド、光子チャフを敵頭上へ打ち込め、リン、鈴々の跡を追え」
黒き空中戦車が回転しながら、移動を開始した、直後に発射されたミサイルは敵の頭上で爆発し、電波や視界を妨げる反射式の光子発光チャフをばらまく。
探索範囲が狭まった帝国軍のど真ん中に鈴々が切り込む。
焦った前衛部隊が慌てて応戦するが、またも目の前で消えて次の瞬間、先に進みヘルダイバへと切りかかる鈴々の機体。鶴翼の陣をとる帝国軍は、整然と緻密に整列しており、強烈な鈴々の攻撃にまともに回避すら出来ない。
鈴々に肩口から切られた帝国のヘルダイバが火を噴く、次々と切り捨て前と進む鈴々のヘルダイバ、クイーン。無人の野をいくように進む紫のマシンが陣の中間までたどり着いた時にフィフスが動いた。
黒き空中戦車が空中に浮かび上がりカッターを四方に出し、縦に回転しながら鈴々の機体を追いはじめた。帝国軍はリーダー機を守る体制をとりつつあり、中陣はヘルダイバ同士を密着させ鈴々の進行に圧力をかけてきた。
「フィフス! 準備はいい?」
鈴々が左右の二機を切り裂きながら問うと、頷く褐色のドール。
「いいよ鈴々。鈴々にリーダー機の位置を伝える。いくぞアイアンサンド、リン!」
空中に高く飛び上がったフェイスの空中戦車を下から見上げた鈴々が、一気に飛び上がり空中戦車の甲板へ着地、両足に力を蓄えて一気に足場を使ってさらに大きな弾道軌道をとって、後方に隠れるリーダー機の前へと向かう。
空中で槍を振りかぶり着地の威力を載せて、リーダー機を真っ二つに切り落とした鈴々。
司令塔を失った二千機の帝国軍は混乱状態になり、フィフスと鈴々に単独で攻撃を仕掛けるが、その攻撃は密集陣形の中では仲間を傷つける方が多い。槍を回転させながら次々に敵を切り捨てる鈴々に、視界外から複数のヘルダイバがブラスタ砲を放つ。だが鈴々の機体は消え、自軍のヘルダイバへ命中、あたりが吹き飛び炎が巻き起こる中に立つ美しい機体クイーンにフィフスがため息をつく。
「美しいな。私も鈴々の機体がよかったな。装甲とか盾とか野暮なものは一切もたない。だがクイーンを捉える事は人間には不可能。その能力”フレームバスト”を持つ限り」
クロムとレニウムも敵陣へ一気に乱入、戦いは乱戦へと進んでいく。




