A.D.4021.砂漠のアカエイ
所在も見せずに、砂の中から攻撃してくるアカエイに、クロムが思う。
「このままでは……前回の遠征では戦力の3/4が削られた。どうする?」
クロムは隊に防御態勢をとらせたまま、思案していた。
「フィフスだけ倒せば……なんて甘ちゃんだったわねクロム」
クロムが乗る新型のヘルダイバ、GX900黒い機体。搭載されているOSは定期的にバージョンアップされているが、オリジナルは、十年以上クロムと戦ってきた相棒。
総称をラバーズと呼ばれるそれは色々なスキンを備えているが、少女の姿が多い。
通常は操縦席のパイロットの横に3D画像で立つ。合成されたもので実体はない。
サイズも自由だが、操縦の邪魔ににならないように、だいたい五十センチ程度。
自ら小さくなってパイロットの肩に乗ったり、計器類にあがったりする。太古の戦闘機は二人で操縦したが、操作が複雑なヘルダイバには同じくサポート役が必要になった。クロムのラバーズは、乱暴だが何度も危機を乗り越えて、戦闘や作戦立案に、高い能力を持っていた。
「クロム。ここでとどまっているのは×。隊が固まっているののも×。隊を分けて片方がステングレイを押さえて、残りがフィフスを目指すのがいいと思うよ」
そうだな、頷くクロムに補足するラバーズ。
「ステングレイは倒そうとしないで。被害が多くなる。足止めでいいの。徹底させてよ」
「分かった。全員、聞いていたか。アルファ1から8まではフィフス攻略に進む。残りは散開してアカエイを牽制する。ラバーズの指摘どおり破壊しようとは思うな」
クロムの指示で隊が動き始めた。アルファ9、10、11、12が囲むようにステングレイを包囲する。
「そうだ、地下に潜っているなら、地面の振動を拾ってラバーズに解析させれば、位置が大体測定できるね。みんないい?」
クロムのラバーズが隊のすべての少女達に伝えた。
「了解。8から12でラバーズ間でのリンクを張り、ステングレイの場所を予想します」
アルファ8のラバーズが、アカエイの包囲チームのリーダーとなり行動を開始。
あきらかに動きが変わったのを見たアカエイのパイロットが呟く。
「あらら、いままでとちがうねぇ。突っ込んできてくれた方がやりやすいのにぃ」
後席に座る攻撃を担当するパイロットが返す。
「いいじゃないか。向こうも頭を使ったんだろう。でもやり方は色々ある。色々とな」
クールな口調のに、ひらめいたパイロット。
「そうか。別に相手につきあう必要はないってことだよね」
「そうだ。私たちが指示されたのは、前線基地に近づく敵への攻撃。歩行でしか移動できない、あいつらに回り込んで攻撃する、一匹、一匹とな」
アカエイは砂の地面から出て、高速で自由軍の囲みを突破し、先頭を走るクロムの機体を目標とした。
アカエイの尻尾があがり、高エネルギーの光の束がクロムのヘルダイバへ打ち出された。
「く、敵の目的はなんだ? 我々の殲滅ではないのか?」
クロムの動物的な反射神経、巨大人型で通常では考えられない、側転でのビームの回避。勿論、サポートするラバーズの力もあっての事。
「さすがエース。さすがクロム。これをかわすとは」
アカエイの後席に座ったパイロットが照準器から目を離す。
尻尾についてる高集積型ブラスタは、メインエンジンの核融合炉から直接エネルギーを取り出して使用する。21世紀では核融合炉のエネルギーは、その熱で水を沸騰させ蒸気でタービンを回し電気として得ていた。現在はエネルギー変換器であるブラスタを用いて、直接、電気へと変換できる。ただし核融合炉の出力は内燃エンジンのように上げ下げが難しい為、高出力のビームーを打つ場合はバッテリーにエネルギーを大量に蓄積後に開放する必要があった。
「チャージ」の表示を見ながら、アカエイの後席パイロットは前席の操縦担当に指示を与える。
「位置が知られた、クロムの右にいるヘルダイバに向かってくれ」
地中に姿を隠し進むアカエイを攻撃された角度から素早く計測するラバーズ、そして野生の感により修正をかけ、クロムが叫ぶ。
「ここか! くたばれエイやろう!」
右手に持ったブラスタガンを連射モードで打ち出す。
短いタイミングで連続的に短いビームーを打ち出すと、砂漠の地面に穴が点々と空き、数発目にかたい金属に当たった音がした。
「くぅ~~あれだけで位置がわかちゃううの? きびしーー」
アカエイの操縦者が愚痴る、後席の攻撃担当が励ます。
「大丈夫だ。クロムは特別だし、正確に分かっていたわけじゃない。連射モードを使ったのがその証拠。分かっていたら集積モードで一撃でステングレイは破壊されていた」
操縦者が頷くが、心配も口にする。
「それはそうだけど、さっき当てたじゃん、あいつのラバーズは優秀だから、もう追尾に入っているはずだよ」
不断は笑わない後席のパイロットは、楽しそうな顔をした。
「ふふ、いいんだよそれで。最初に私達とは戦わないと決めたのに、ステングレイを堕とせそうになり、隊全体が私たちに夢中になっている。クロムからは距離をとり、まわりの雑魚から、逆に堕としていける」
前席のパイロットは頷いた。
「そっか。了解! クロムを中心に大きく回る軌道で、線上に乗る敵機を一機ずつやればいいんだね!」
ブラスタガンの集積が終わり、フルパワーで打てる状態になったクロム。だがアカエイは仲間のやや外側を走っている、仲間の機体に当てないように打つには移動しながらでは難しい。
「くそ、やりやがる。このまま走られたら……」
クロムが呟いた時に悪い予感は当たった。
「敵ステングレイの位置消失。まずいぞクロム」
ラバーズの言葉に右手を握りしめるクロム。その時、斜め後方のアルファ5が吹き飛んだ。
「畜生! このままではフィフスどころじゃない。これ以上戦力は……」
クロムに無線で割り込んだセブンスが言葉を続けた。
「このまま戦力を減らしたら、フィフス姉さんには勝てない。ここは私が食い止める、ステングレイは私に任せて全員フィフス姉さんの元へ行って!」




