A.D.4020.衝撃を操るドール
「……何の手品だ?」
王は触れる事も無く、マシンウォリアを破壊したフィフスを見た。
まだその目に恐怖は無い、絶対的な戦力の有利は変わっていない。
「種明かし。よく見てわたしの手首」
王座の方向へ差し出した、しなやかなフィフスの両腕、その手首には複雑に絡み合った金色のリングが巻かれていた。
「このリングの中を小さいけど、巨大な質量を持つ重粒子ボールが高速で廻っているの」
フィフスが右手返し甲を王へとかざした。
「その振動を集めて前方へ解き放つ! こんなふうに!」
瞬間、王の横の一機のウォリアが振動し砕けた。
「ほう、面白い、ただタネを見せては興ざめだな」
王は広大な部屋に集う、マシンウォリアに指令を与える。
「前方に陣を造り、フィフスの衝撃波から我を守れ。同時にフィフスを攻撃。エネルギーゲージは最小限。この由緒正しい王宮は破壊するな!」
38機のウォリアが一斉に動き出し、王を守る強固な陣を敷き、そのレーザーサイトをフィフスに向けた。しかし、王の言葉で動いたのはウォリアだけでは無かった。一瞬で空中に飛び上がった褐色のドールは王の真上に浮かんだ。
「空中からよく見える。間抜けなマシンと王様……ウフ、さあ全身で味わって、衝撃のドールの由縁を」
最高まで高めた振動を衝撃破に変えて、空中で次々と放つフィフス。無数の衝撃波が王に向って打ち出された。マシンウォリアが王の頭上に飛び、衝撃波を自ら受けた。空中でフィフスの衝撃波により、次々と弾かれるウォリア。
「なぜ、空中に止まっていられる!?」
疑問を漏らした王の頭上、空中で美しい踊りを舞い続けるフィフス。
マシンウォリアも攻撃を開始、赤い色の熱線と衝撃波が交差する。
絶え間なく衝撃波が打ち出す、フィフスの両腕のリングは、敵を破壊するだけではなく、自分を空中に止めるための衝撃波も生み出していた。
衝撃破を作り出す時、フィフスのリングは超伝導で浮いており、フィフスの腕には接触していない。ウォリアを一撃で破壊する、強烈な衝撃波の反動を、その身に受けずに済んでいる。そして空中に身体を浮かせる時は、リングを腕に密着させ衝撃波を打つ、その反動を身体に受けて空中に飛び上がるのだ。
リングの接触モードでは強い衝撃は使えない、反動でフィフスの腕はもぎ取られてしまう。フィフスは、超伝導の回路を瞬時に調節し、密着、非接触モードを使い分けている、そして衝撃波の威力も同様に調整していた。
人間を遙かに越える、優勢遺伝子による神経速度と肉体が実現している、超科学の生んだ美しき兵器は、空中でさらに舞い続ける、美しさも人間を遙かに超越していた。
「見事じゃ……衝撃を操るドール」
思わず賞賛を与えた王、その者はそれだけの戦果と美しさをその場に残した。
フィフスは王の賞賛の言葉が終わると同時に、地上に降り立つ。
広大な王の謁見の間には、マシンウォリアの残骸が散らばっていた。
しかし王が座る玉座の回り半径二メートルだけは、破片一つ落ちていなかった。
フィフスは空中で舞いながら、ウォリアを破壊、自分の位置を空中に止め、なおかつ破片が王の側に及だ時には、それを衝撃破で弾き飛ばしていた。
完璧な舞は五分ほどだった、フィフスの優雅な動きと正確な攻撃に王は見とれ感歎したのだ。
「まこと素晴らしい。さすがだなフィフス。この国を反乱軍から一人で守り通した強者」
膝を落して、王の前にひざまづくフィフス。
その呼吸は少し乱れ、褐色の胸は早い収縮を繰り返す。
「お褒めの言葉。恐悦至極です、エール王」
「既に我の負けは決まったようだな。おまえが居るかぎり勝てる気がしないぞ。フフ……一つ聞きたい、空中で衝撃波を使い移動出来るとはいえ、ウォリアのブラスタガンの攻撃を全て回避出来るとは思えない、こっちの攻撃が効かなかったのはなぜじゃ?」
王の言葉に顔を上げ、立ち上がったフィフスは、ゆっくりと自分を一回転して見せる。
「効いていなかったわけではありません」
フィフスの身体には、ブラスタガンにより焼かれた火傷が多く見られた。
「ほう、マシンウォリアの攻撃はそちに届いたわけだな。それならばそんな火傷で済むはずがない」
「それは王の才覚が邪魔をしたんですよ」
王座に近づくシルバが答えた。
「我の才覚だと? シルバ、この後に及んで愚弄する気か!? 負けを認めた我に」
「フフ、駄目だとは言ってませんよ。人を統治する者は寛大であり貪欲です。反乱軍を数万単位で殺したり、国民を無実の罪で牢獄に入れても、夕食のディナーで出る、血が滴るステーキを美味しそうに食べる。しかし、自分が大切にしているペットが死んだり、太古の花瓶が割れただけで、食事をとることが出来ないくらい動揺する……この数百年もの歴史を持つ、美しい宮殿を破壊したくなかった王、あなたは被害を最小限に抑えたかった」
「あたりまえだ、人などいくらでも代りがきくが、星や歴史的な建造物は壊してしまえば元には戻らない」
王がシルバの言葉に反意を込めて答える。
「ええ、そうですね。もてる者のそれが論理。人の命などより貴重なアイテムが沢山存在する、あなた達には。さて、王の疑問に答えましょう。私が形見だと渡したネックレスをご記憶ですか。誕生日とか片見とか理由は嘘ですが、その辺は王もお分かりだったのでしょう。絶対的な有利な状態では、もてる者は慈悲という余裕を、民に見せなければならない。おかげで危機一髪で私はフィフスに、盾を与える事が出来た」
フィフスは自分の胸元に揺れる、金色の豪華な装飾のネックレスを手で持ち王に見せた、大きな紫色の宝石が中央に収まっている。
「これがね王様、M・G・F、マスグラビデフォース。妹セブンスの超破壊兵器、セブンスドールにも使われた、M・B・Fはヒッグス粒子を機体の周りに展開して、攻撃を受けた場合にヒッグス粒子の濃度を上げて重さを∞(無限大)まで増加させる、攻撃は運動量がゼロになり力を失ってしまうの。自分の攻撃時は、ヒッグス粒子の濃度を薄くして、抵抗を無くすから、衝撃波を放つ、近接戦闘を行う場合でも、シールドを展開したままにできるの」
フィフスの言葉に、胸のネックレスを見直す王。
「M・G・Fか……そこまで小型化出来ていたとは。最高の矛と盾を持つフィフス。最初から勝敗はついていたのだな」
王の敗北宣言。しかしシルバは首を振る。
「いえ、だから王の、持てる者の才覚だと言ったのです。セブンスドールは八百もの大型ブラスタ砲の攻撃、エイトの銀河一の攻撃にも耐えました。しかしそれはM・B・E、マイクロブラックホールエンジンの高出力のおかげ。今、フィフスが持つM・G・Fにはそんな力はありません。王が最初から、この貴重な宮殿を破壊しても良い、と思っておいでになれば……」
「フフ、反乱軍が星一つを大事に思った為にフィフスを倒せず、大きな被害を受けた、それと同じ愚行を我も犯したわけだ」
王の自虐的な言葉に、慇懃に礼をしたシルバ。
「はい、おかげで私はこうして王に、今日の演目の終わりを告げる事が出来ました……さあ、あなた達の時代は終わりだ、速やかに舞台から退場して頂こう」




