A.D.4020.死に方を見つける為
「あと少し……もう少しなんだろレニウム? このまま進めよ。おれ達の未来はすぐそこだ」
強がるクロムの疲れ切った姿を見てたまらず叫ぶテルル。
「クロムもう無理よ。レニウム降伏しましょう!……セブンスを渡せばいいじゃない!」
レニウムがスクリーンのクロムから、テルルへ振り向く。
「セブンスは、オレ達の最後の希望だ。今、諦めれば全てが終わってしまう」
レニウムの言葉にスクリーンの奥で頷くクロム。
「そうだ……セブンスを失えばオレ達は……帝国にミネルバに勝てない」
切れ切れに聞こえるクロムの声に、頭を抱えて左右に振り続けるテルル。
「だって、だって、このままじゃ……みんな死んじゃうよ」
メインスクリーンが強く輝いた。
攻撃衛星が四基ずつ、横に並んで編隊を組み直し、照準を合わせて、同期攻撃をクロムに始めた。左に右に機体をかわし、光の束を回避するクロム対して、四機四編隊、十六機からの一斉攻撃始まった。
回避を続けるクロムは防戦一方で、徐々に回避不可能な地点に、追い込まれていく。空間を封じられたクロムを、ついに数十の衛星の照準が捕らえた。
「ちぃぃぃい!」
空間を封じられたクロムは、迫る攻撃衛星へ真っ直ぐに向き盾を両手で構える。
十六のブラスタ砲が輝きクロムを撃った。
十六の光の束が集まり一本の強い光になり、クロムの持つ盾を簡単に貫通する。輝きを放ち、真っ赤に溶解し、粉々に弾け飛ぶ盾。後方に吹き飛ばされたクロムの黒いヘルダイバは、全身を被弾して、胸の分厚い装甲が吹き飛んだ。
セブンスが生まれて初めて、心の底から叫ぶその名前を、
「クロム!」
光は消えない。盾が破壊されても、衛星は攻撃を続行する。次々と打ち込まれる光の筋、ただ撃たれ続けるしかないクロム。
「クロム! 返事をしてクロム!」
閃光が輝く最中、セブンスのクロムを呼ぶ声は続く……しかし応答はない。
「クロム……」
セブンスの声がだんだんと微かなものになった時に、やっと衛星の攻撃が止み、消えた光のシャワー。闇に戻った空間。クロムの機体も消えた。
「どこ? クロムはどこなの」
セブンスの消え去りそうな声に、応えた声は女性のもの。
「まったく、人形が何を猫みたいな声を出しているの」
メインスクリーンに警告が表示されている。
出撃ハンガーのハッチが、オープンされようとしていた。
「クロムがそんなに簡単に、死ぬわけないでしょ?」
ヘルダイバに騎乗した鈴々がセブンスへ言葉を続けた。
「鈴々!? おまえ何をする気だ」
レニウムがハンガーのモニターを見ながら、鈴々に呼びかける。
ハンガーには反乱軍の戦旗カラーである、ミッドブルーに輝くヘルダイバが、発信準備をしていた。
F102式、反乱軍のメインウェポンであるヘルダイバ。
クロムの101式より、量産タイプの為に装甲がやや薄く、肩の光子砲も装備されていない。メインウェポンのブラスタ砲と、クロムの専用兵器“リアルレールガン”を抱えた鈴々の機体が動き出す。
「レニウム早くハッチを開けて! 今すぐに行かなくちゃいけないの」
「鈴々、おまえ……勝機は無いぞ」
レニウムが首を振り、スクリーンの鈴々の顔をジッと見た。
「勝ち負けは関係ないの……レニウム。私、届けるの。クロムに。このレールガン。したいことはそれだけ」
「だがクロムは生きているか……わからない。それでも行くのか鈴々?」
艦橋のレニウム、テルル、そしてセブンスが俯く中でも、鈴々は明るい顔を見せてハッキリと答える。
「生きている。私には分かる。クロムは生きているの。だから行かなくちゃ!」
鈴々の明るさに、絶望から顔をあげる三人。確信を持って話を続ける鈴々。
「クロムは待っているの。私には分かる」
「鈴々、あなたって……そうね、クロムは生きている。レニウムお願い、ハッチを開けてあげて!」
テルルの言葉に、レニウムが鈴々の顔を再び見た。
「鈴々、もう……戻れないかもしれないぞ」
嬉しそうに幸せそう鈴々が答える。
「いいよ。クロムと一緒に死んであげられるなら、私はそれでいい」
レニウムが目を閉じた。
「もう止める理由は無いようだ、死に方を見つけたのか……鈴々。テルル、ハンガーのハッチをオープン、発進用リニアにパワーを送れ」
ハンガーのハッチが開き、蒼きヘルダイバを撃ち出すリニア発射台にランプが点灯する。
「ありがとうレニウム。またねテルル」
スタンバイランプが消灯して「Ready」が点灯。直後、鈴々の機体がリニアの超伝導で撃ち出された。
鈴々の機体の残像が蒼い流星となり、艦橋のスクリーンに映る姿を見て、震え出すセブンス。その場に座り込む。
「死ぬのが?……嬉しい?……一緒に死ぬのが嬉しい?」
震える身体、理解出来ない鈴々の行動と言葉。
左目の微かに光る星が、セブンスに囁く。
(セブンス……死に方を選びなさい……)
「死に方? 鈴々は死に方を見つけたの? 私は……私はどうしたいの?」
床から立ち上がったセブンスが、レニウムを真っ直ぐに見た。
「レニウム。あれを使わせて欲しい。私は生きたい……そしてクロムを助けたい」
セブンスが指さすスクリーンに写る、ハンガーの奥に紅い色のコンテナがあった。
「どうして分かるのセブンス? でも無理よ。アレを見た事も無い、今まで存在すら知らなかったのでしょ?」
テルルの驚きにセブンスが頷いた。
「やっぱり知らないんだ! そんなので、まともに戦えるわけないでしょう!」
「だが、もうこれしか方法がないかもな。セブンスとアレに賭けるしか」
レニウムの言葉に、テルルが大きく首を振る。
「ある! セブンスを……その……返すのよ。敵が欲しいのは、セブンスでしょう?」
テルルの言葉に、今度はレニウムが首を振る。
「今渡せば、セブンスの脳を掻き回され、全ての記憶を失い、新たな戦闘ドールズとなる。そして我々の強敵として、対峙する事になる。最強の敵としてな」
操縦席から、立ち上がったテルルがヒステリックに叫ぶ。
「じゃあ、どうするの!? 見た事も無いアレに、セブンスを乗せて、戦わせるわけ? それこそ一瞬で破壊されて、全ておしまいだわ!」
テルルの猛反対。判断がつかないレニウムがセブンスの方を向いた。
まるで自分自身を納得させ、確認するように話を始める。
「あの赤いコンテナの中身は、シルバに造られた最新型ナンバーズドール」
セブンスが頷きレニウムに言葉を重ねた。
「ええ、私たちは究極兵器”ドールズ”の専用端末。私たちは一人に一対の戦闘マシンが存在するわ。そのマシンの性能は驚異的なもの。あなた達反乱軍は姉たちに多大な被害を受けてきた。今、帝国と解放軍の境の前線基地は、姉のフィフスにより守られ、多くの解放軍が敗れてきたのよね」
セブンスの正確な分析に、レニウムが自分たちの行動の意図を付け加えた。
「そうだ。解放軍からは戦略上重要な星だが、フィフスを倒すことがどうしても我々の力では出来ない。そんな中で、新たナンバーズドールが、ロールアウトするとの噂を聞いた」
テルルが言葉を続ける。
「あなたを探している途中、別の”セブンス”のロールアウトの情報を得たの。そして奪取したのが、あの紅のコンテナ。その中身は……」
静かに肯いたセブンス。
「私と一対で造られた戦闘マシン”セブンスドール”」
頷きレニウムが話を続ける。
「我々は、奪取したセブンスドールを解析した。恐怖の殺戮マシン、ナンバーズドールを解明する為に。しかし、その結果は信じられないものだった。セブンスドールはヘルダイバと同じ構造持つ、近接戦闘兵器だった。だが、メインエンジンが無い。武装が無い。それどころか装甲すら持っていない状態だった」
テルルが首を振り、大きく落胆を示す。
「つまりセブンスドールはまだ“未完成”なのよ。戦う事など出来ないの。装甲の無いボディは、敵の攻撃を受けて一撃で破壊されるわ」
未完成なセブンスドール、その機体は戦う力を持っていなかった。
セブンスは黙ったまま、エレベーターへ向かう。
「何処へ行くのセブンス? 私達の話を聞いてなかったの? セブンスドールは戦えないのよ」
テルルの言葉に一瞬立ち止まったセブンス。
「私は行くわ。死に方を見つける為に。そして、みんなを救う為に」
セブンスの姿を見ていたレニウムが、テルルに言った。
「テルル、コンテナを開封。セブンスドールを起動する」
「そんな!」
「命令だ。テルル、セブンスドールを起動する」
無言で操縦席に座り、コンソールを操作するテルル。
ディスプレイに、テルルは自分の絶望的な表情を見た。
赤いコンテナの解放作業に入ったテルルを見て、レニウムがセブンスに伝える、
「セブンス良く聞いてくれ。セブンスドールは装甲を持っていない、敵の攻撃は回避するか、盾で防げ。うかつに攻撃を受ければ、数分しか機体が持たない。移動用の機能は外付けで、機動ブラスタをくっつけた。速度は出ないが、移動は可能になっている」
レニウムはセブンスに操縦する際の注意を与えていた。
帝国から奪取した、究極の破壊マシン“セブンスドール”その真紅の機体には、何の装備も取り付けられていなかった。攻撃、防御はもとより、移動の機能すら無い“未完成”その余りにも非力な性能。戦闘兵器とはとても呼べない現状にレニウムは、絶望感を再度思い知らされる。
「武器だが……ヘルダイバは通常三機の核融合炉を持っていて、一つをコクーン(操縦席)の超伝導の糸や機体の制御に使っている。二つ目は武器のエネルギーに使用。三つ目は移動用の推進力に使う。しかし、セブンスドールには、一つの小型の核融合炉しかない。ビーム武器に使用するにはパワーが足りない。そこで実弾のミサイルランチャーを用意した。弾数に限りがある、リロードに時間も必要だ。よく覚えておけ」
セブンスドールのコクーンの中で、出撃を待つセブンス。
オート操作で射出用のリニアへ移動するセブンスドール。
発信準備が整い、射出用リニアの「Ready」のランプが点灯する。
歩く、飛び立つ、そんな簡単な操縦さえ、解っていないセブンスに、テルルが心配そうな視線を投げる、レニウムはその視線を感じながら、逆に強い口調を見せた。
「セブンス、未だクロムの位置は解ってない。しかも鈴々との連絡も切れた。五分前に、鈴々のビーコンが伝えてきた座標へ射出する。気をつけろ……必ず、戻ってこい!」
レニウムの言葉で、セブンスの周りに浮かぶ半球体の3Dスクリーンに、座標が表示された。
「ありがとうレニウム。テルル……私いくね」
リニアにパワーが送られて、赤い軌道を残したセブンスドールが、暗き宇宙へ飛びたつ。




