45話 昔話
「とはいっても仮に邪龍の仕業だったとして、それが何になるんだって話よね」
とんでもない発見をしたというのは理解できたがこれから降りかかる邪龍の脅威に対してなんになるのだというのはアミに同意である。どうせ見つけるなら相手に致命的なダメージを与えられるようなものであってほしかったのであってこれではまるで進展がない。
しかし、そう思っているのは何の専門知識を持たない俺たちだけであってマリーたち専門家にとってはそうでないらしい。
「関係大ありだろうに。もしかしたら君たちは素手で戦うことになるんだぞ?」
「どういうことだ?」
そんな疑問を返すと分かりづらいマリーに対してベガが付け足す。
「つまりは皆さんが持っている聖剣が邪龍に対して全くの無効となる可能性があるということでありますよ」
「ええっ!? なんで!?」
大きな声で驚くダル。
今のマリーの説明をどう訳したらそうなるのか分からないがなんだか雲行きの怪しい話である。
そんな驚きを隠せない俺たちにベガは話を続ける。
「当たり前だろ。なんで君たちの聖剣が無事だと思った?聖剣の仕組みは何百年経とうが大差ない」
「じゃあ聖剣抜きで戦えばいいだろ?ほら前みたいに戦闘機使えるならそれでも十分だろ。いくら何でもミサイルが聞かないほど硬いというわけでもないだろ?」
最悪例の錆びた聖剣が封印されたものかもと聞いた時に自分たちのも使えなくなるかもしれないことくらいある程度覚悟をしていた。しかし、何も聖剣だけに頼る必要は無い。かつては聖剣が最強の武器だったかもしれないがそれは何百年も前の話である。今は当時と比べ物にならないほど技術が発展し、数はまだまだ少ないものの戦闘機や戦艦、戦車まであるほどだ。さらには人間種だけでなく他の種族もやはり技術の進歩はしてきている。なので単一種族だけで戦うならまだしも現在魔王軍に対して一時休戦中の三種族が共闘すれば恐らくは倒せる相手のはずなのだ。
だが、現実はそうはいかないらしい。
俺の発言にベガが申し訳なさそうに口を挟む。
「それがそうも行かないのですよ。そもそも聖剣はこの世界に存在するあらゆる武器の中で封印に対する耐性が飛び抜けてるのでありますよ。なので邪龍の使う封印魔法が聖剣だけに特化したものならいいのでありますが、仮に聖剣をも封印できるとち狂った封印魔法ならもう打つ手なしということであります」
「まぁ今のはあくまで仮の話だけどね。仮にそんな力が使えるとしたら先人たちはどうやって邪龍を倒したんだということになるんだがね」
二人の話を聞くにどうやら状況は芳しくないようだ。前にも話したとは思うが基本『勇者』と呼ばれる人たち、つまり地球から来た人たちはこの橋に来た時にはすでに身体能力がある程度上がっている。これが重力の関係なのかどうかはさておいてそれでも魔物相手に素手で戦えるほど強力なものではない。よって戦う時には各自に渡された各々の『聖剣』の力を借りことにより圧倒的な力を得て戦っている。しかし、それが奪われてしまう、あるいは使えなくされてしまったらと言うことになると邪龍どころか普段の戦闘にも重大な支障が出ることは間違いなしなのだ。さらにはそのほかの兵器、魔法をも封印されたとなってはお手上げである。
「つまり場合によっては勇者たちでもどうにもならないということだな。全くこれで伝説の救世主と言うのだから呆れる」
「サラさん、そんなこと言ってる森精種にもなすすべがないですよ? 聖剣レベルを封印できる魔法の使い手が特大魔法を封印できないわけがないです…」
呆れたように悪態を吐くサラにフィーナが申し訳なさそうに忠告をする。プライドオバケのサラやマリーに挟まれてフォロー仕事なんてフィーナたち早死にするんじゃないんだろうか……。
「そもそも邪龍はおとぎ話でも災害として扱われるようなやつだからね。 最悪、大人しく蹂躙されるかどこかに隠れ潜んでやり過ごすということも考えなくてはならないかもね」
マリーはニヤニヤしながらそう言うがとても笑える話ではない。
そんなマリーにいつものようにダルが食いつく。
「でもでも! お話の中じゃ、最後には伝説の勇者が邪龍を倒してハッピーエンドじゃん! てことは私たちでもなんとかなるはずだよ!」
「たしかにお話の中では倒してますし、現に今までは現れてなかったわけですからね。 ダルの言う通り何かしらの倒し方が、しかも勇者にあるのかもしれませんね…」
2人の言うおとぎ話とは前にも話題になった邪龍についてだ。おそらく帝国の人間なら誰しも子供の時に読み聞かせられたであろうありふれた昔話。
「おとぎ話通りならね。まぁ君たちを怖がらせたような言い方をしてしまったがあくまで可能性の話だ。あの剣をどうにかして詳しく調べなきゃほんとにあの剣が封印されてるのかも分からない」