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悪運の星の一般人《エキストラ》  作者: 島草 千絵
弍章
43/47

43話 規則の範囲外の聖剣



「君たちの報告にあった通り、たしかにあれは『聖剣』間違いなさそうだ」



俺らは次の日、メインルームへと集められマリーからそう告げられた。



「マリー、マリー! 持ち主はどんな人だったの!? やっぱりいぶし銀の歴戦の戦士って感じだった!?」



「そんなこと成人男性と変わらない骨格ということ以外あの骨からはわからんよ。 ともかくあれが『聖剣』である以上のことはわからなかった」



興奮気味のダルに対して特に感情の浮き沈みなくマリーはモニターを操作して調べた結果を映し出す。

相変わらずちんぷんかんぷんではあるが、画面に映し出されるこちらの世界の言葉で詳細不明の文字がグラフや表のあちこちに表示されていることを見ると本当にあれが『聖剣』であること以外わからなかったようである。



「それは能力も、ということですか?」



「もちろん。 解析を進めようにも腐食が酷すぎて下手に扱うと崩れてしまう可能性があるので調べるのに時間がかかるんだよ。 それに今私の最優先事項は例の『邪龍』に関してだ。 普段なら過去の大戦の頃の『聖剣』なんてものは食いついたのだが、なにせ帝国からの頼みごとだし、例の戦闘機を壊した関係で懐も寒いからね。 お金がなくちゃやりたいこともままならん。だから、この件が片付いたらゆっくりと調べるさ」



マリーの言うことの裏には『君らのせいで余計な手間が増えた』とでも言いたいのだろう。普段はそこまで鋭くないのに今回ばかりはそれをなんとなく感じとったアルはただただ萎縮している。 たが、俺たちにとってはあれがなければ命がなかったと言っても過言じゃない。なのでなんの罪悪感も感じはしないのだが、それを堂々と態度に出すほど俺らは勇気があるわけじゃない。そんな俺たちに変わりサラが会話を続ける。



「でも、あの剣は『邪龍』を倒したものではないのか?」



「その可能性は低いだろうね。倒せてたなら現代まで心臓なんぞ残ってるわけもないし仮に封印の類の話をしているならそれこそあの錆かたはおかしい。 あれではまるで遥か昔に封印が解けたと言った感じでつい最近現れた『邪龍』の心臓と矛盾する。 何よりあんなものがずっと昔からどこかに眠っているとしたら私たちを含めて君たち森精種がとっくに探し出してるだろ」



「そんなわけなんですサラさん。 私たち森精種の技術を使って調べてみてもあの剣に魔力を用いた力が使われたのは今よりもだいぶ前、なので封印に使われたと言う可能性は低いのですよ…」



おそらくマリーの上からな物言いがプライドの高いサラの癪に触るとでも思ったのだろうフィーナが付け加えるように補足をする。

二人のプロが解析した結果がそうなら間違いはないにだろう。だが、何か頭の片隅に引っかかる。俺は頭の中をぐるぐると思考をかき回しある一つの『きまり』を思い出す。














「・・・・・・・・・・」



「どうしたのポルタ?学者みたいに考え込んで」



難しい顔をする俺にアミが小声で話しかける。



「その『そんな頭ないのにみたいのに』的な感じでいうなよ。マリー、あの錆びた剣は間違いなく『聖剣』でいいんだよな?」



「それは間違いないよ。それは君も確認したのだろ?」



マリーはあきれたように答える。もちろんそれは何度も言うようだが勇者である俺も、ほかの三人も確認済みのことだ。ならなおさら、目の前にあるのが『聖剣』であるというなら、俺の疑問はますます浮き彫りになる。



「それじゃあ、俺は魔法にはそこまで詳しくはないんだが骨になってまで生き続ける、あるいは何百年も時間を止める魔法とか呪いとかは?」



「時間を少しだけ止める魔法なら森精種にありますよ。 ですが、肉体が朽ち、精神だけとどめておく魔法やそんな途方もなく長い時間を止める魔法は少なくとも森精種で私は聞いたことありませんけど・・・」



「馬鹿なのがそのアホ毛から移ったか?そもそもそんな魔法あったら戦争で死者なんて発生しないだろ。骨を操るならまだしも骨になってまで生存し続ける魔法など存在しないし、時をそんなに長い間止めれるならそもそも戦争自体起こらない」



「だれがあほ毛だぁ!!」



俺の疑問に対し、フィーナとマリーはそう答える。からかわれたダルが抗議の声を上げるがそんなことはどうでもいい。2人のいうことがほんとうなら俺の疑問は間違ってはいなかった。目の前にある『聖剣』は『聖剣』ならすべてのものがもつある『きまり』がない。少なくとも俺はそんな『聖剣』はしらない。というよりもそんなものがもしあるのだとしたら、それはとんでもない発見で『勇者』の、そして『聖剣』の常識が覆るかもしれないことであった。










俺はそんな常識を覆すかもしれない疑問を言葉にする。



「あの聖剣は俺たちの持ってるものと変わらないんだよな?じゃあ何でその聖剣は何百年も残っているんだ?」



「どういうこと・・・あっ!」



「確かにいわれてみれば。でも、ポルタよく気づいたわね」



誰も馬鹿にするでもなくしばらくの沈黙のあと、アトスが一番にそれに気づく。それにアミも続いて感心したようにそのことに驚く。そんな仲間内で感心し合う俺たちの話の外となってしまったフィーナが狼狽いたように俺たちに聞いてくる。



「え?え!?み、皆さん何がわかったんですか!?」



「ポルタが気づく・・・・・・、なるほど、確かに私もそれは見落としていた。クックック、なるほど、なるほど、面白いじゃないか」



同じく輪の外で考え込んでいたマリーもどうやら気づいたようでさっきまでの不機嫌はどこへやら、新しいおもちゃをもらった子供のように心底楽しそうな顔をしている。



「マリーさんまでわかったんですか!?」



「まぁフィーナは森精種だからぱっと思いつかないのも無理ないわね」



「私もわかんない!!」



「なんで『聖剣』持ってるダルがなんでわかんないんだよ」



森精種のフィーナやサラはともかく同じ勇者のダルまでもわからないということに俺とアミはあきれるが、アトスはダルにそれを優しく説明する。



「ダル、僕たちの『聖剣』は一人一つ与えられています。ここまではいいですよね?」



「うん」



「それじゃあ仮に僕が死んでこの僕の剣をダルに譲るとします。ダルは僕の剣を使えますか」



「そりゃだめでしょ。いやしばらくは使えると思うけど・・・」



「しばらくたったら崩れてしまいますね。じゃあこの目の前にある『聖剣』はなんでしょう?」



「あ!」



そこまで聞いたダルはようやくこの聖剣の奇怪な点に気づく。

アトスがダルにしていた説明とは別にマリーが森精種のフィーナやサラ、そしてベガやアルにもそれを説明する。



「だからポルタさんは聞いたんですね!骨のまま生きることができるのかと」



それを聞いたフィーナはマリーと同じようにまるで子供のように目を輝かせる。



「そうだ。聖剣には持ち主が死亡するとその能力を失うという制約がある。その骨が生きてないとするならその剣はなんだ。確かに能力を失うという制約はばらつきがあるが何百年も持つようなものは聞いたことがない。そして、その聖剣に何百年も時間を止める魔法がかかっていないとするなら考えられる話としては二つ、マリーの測定が間違っているか、もしくは、」



「見くびっては困るな。あの骨は確実に死んでいるし魔法で操られている形跡もない。聖剣の方も勇者を専門として研究している私が間違えるわけもない。だが、君が思い浮かべているもう一つの可能性については全くないとはいえない。いや、仮にそうなら実におもしろい」








俺たちは遙か昔に正義のために戦った先輩から思わぬ宿題(プレゼント)を貰ったのであった。




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