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第四話 「邂逅Ⅰ」

次話まで皇女視点。

それは本当にあったという間の出来事でった。

腰に差してある剣を抜いたと思うと雷鳴の如く駆け抜け魔族どもを殲滅していった。

如何なる達人よりもなお優れている剣技を持って魔族を切り刻み。

宮廷魔術師ですら足元にも及ばない魔術を持って魔族を駆逐する。

その姿はまさに戦乙女ヴァルキリーの名に相応しいものであろう。

そして総勢百を超えていたであろう魔族どもが僅か数分をもって殲滅され尽くした。

その瞬間此処が幾多の屍に溢れている地獄ではなくまるで幻想の世界であるかのようにすら思えてしまった。


「何と……美しい」


本来これほどの力を見せつければ恐怖の一つでも感じるべきなのだろう。

自分たちが決死の覚悟で挑んでなお届かなかった相手を造作もなく殲滅してしまったのだから。

だが私の心には僅かたりともそのようなものは全くと言って良いほどに存在しなかった。

ただただ悠然と立ち振る舞う彼女の姿に見惚れてしまっていたのだ。


「先ほどの気勢を発したお前がこいつらのリーダーで良いのか?」


私が呆然としていると何時の間にか目の前にまで来ていた彼女がそう聞いてきた。


「っ! そ、そうです。私はウィンダム皇国皇女アリアと申します」


まさに幻想の世界に住むであろう彼女に突然話しかけられ声が震えるほどに驚いた。

それでも、いつまでに呆けているわけにはいかない。

まずは助けて貰った礼をしなければ。


「先ほどは危ない所を助けていただき本当にありがとうございます。

此処に居る皆を代表してお礼申し上げます」


「なに礼を言うほどのこでもない。私は主の命に従ったにすぎないのだから」


そう言って彼女はこちらの礼を聞き流した。


「主の命ですか?」


そう。彼女は先ほども主の命だと言った。つまり彼女には主と呼ぶべき相手が居るとなる。

しかもこのような人間を助ける為に魔族を蹴散らせと言った命令にすら従うほどの主がだ。

だが彼女は戦乙女ヴァルキリーなのだぞ。

嘗て神に仕えし伝説の幻想種である彼女は、何者よりも誇り高い存在であったと言われている。

そんな彼女が主などと言う相手とはいったい――


「そうだ。主はお前たちを助け自らの元に連れてくるように仰った。

だから悪いが私についてきたもらうぞ」


この誘いは一体何を意味するのか。

何故彼女に主と呼ばれる人物は私たちを助けさらには会いに来いとすら言うのか。

ついて行った先にどういった危険が待っているのか。

まるで何も分かりはしないが、それでも今は彼女の言葉に逆らうことは出来はしない。


「分かりました。ですが、まずは先に負傷者の手当てをしてもよろしいでしょうか?」


「ああ構わない。私にも治癒術の心得がある。手当てならば私も協力しよう」


そうして私たちは一刻ほど負傷者たちの治療を行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そうして私たちはセレスの先導により魔の森へと入っていった。

彼女の言葉によると主はこの森の中心に居るらしい。


「それで、貴方の主とはどういった方なのでしょう?」


「ふむ……。あの方がどういった方なのかを説明するのは私の言葉では出来そうにないな。

だからあの方が如何なる存在なのかは君自身が直接会って感じるしかないだろう」


今更になって不安になってきますね。

戦乙女をしてどういった方なのかを表現できない存在など本当に居るのだろうか。

さらに彼女によれば、この森に住む魔族どもを滅び去ったのもその方だという。

だから此処百年魔の森からの魔族進行がなかったのだと。

全く持って信じられそうにもない話だ。


「ああ。もうすぐだ。此処ならもうあの方の屋敷が見えてくるだろう」


そう言われ私は前方へと目を向けた。

そして本当に言葉をなくしてしまった。

なんだあれは? 何なのだあれは?


「ハハ……私は何時の間に御伽噺の世界に入ってしまったんだ?」


そこにあったものはもはや屋敷と呼べるものではなかった。

いや、城と言ってもなおその姿には似合わないであろう。

白き輝く壁は皇都にある城に使われている大理石よりも美しい。

そして壁の一部にはめ込まれた水晶のようなものは信じられないほどに澄み通っていた。

世界で最も美しいとされた皇都にある城もこれを見てしまえば比べる気も起きはしない。

これほどまでに美しい建物があるなどと。

ただそこにあるだけで神々しさを出す建築物があるなど信じられるだろうか。

私だけでなく、従者たちも悉く目の前に存在する建物に圧倒されたいた。

もはや私たちにこの建物を呼称する言葉がなかった。

だから、もしそれでもこの建物を呼ぶとするならば


「神の宮殿…………」


それ以外の言葉が出てこなかった。

もしもこれに名づけをするならば嘗て神々が住んでいたと言われる神の宮殿をおいて他にないだろう。


「いつまでそこで呆けているつもりだ。この中で主がお前たちを待っている」


そうしていつまでも歩き出さない私たちに気が付いたのか、セレスがそう言ってきた。


「も、申し訳ありません。この建物に圧倒されてしまい見惚れてしまいました」


「ああ。その気持ちは確かに分かる。私も初めてこの建物を見たときは圧倒されてしまったからな。

ちなみにこれは主が一人で造り上げたものらしい」


今何と言った? 一人で造り上げた? これを?

セレナはさらりと言ってのけたそれがどれほどのことを意味するか分かっているのだろうか。

国中に居るであろう建築家全てが力を合わせ、長い年月をかけてなお造りだせないであろうこの建築物をたった一人で造り上げたと言うのか。

本当に此処に住むのはどれほどの者だと言うのだ。


「さあついたぞ。此処が入口となる」


そうしてまた呆けかけていた私たちは、気が付いた時にはその建物の目の前へとやってきていた。


「この扉を開いた先に主が待っているだろう」


扉の前に来てもなお私は、その扉をすぐには開けられなかった。

未だ覚悟が決まっていないのだ。

この先に居るであろう人物を想像すると足が竦む。

魔族を簡単に蹴散らしてしまえる戦乙女ヴァルキリーの主であることを考えれば、この先に居るのがどれほどのものか考えもつかない。

それでも此処まで来てしまえばもう後戻りはできないのだ。


私は一度だけ後ろへと振り返る。

そこには私を信じ私の為に命を懸けてくれる従者たちの顔がしっかりと私へと向けられていた。

そして彼らは未だ迷いがある私に一つ頷きをくれた。


よし。では覚悟を決めようか。

そうして私は大きく深呼吸を一つすると、手に力を込めその扉を開けた。


まず目に入ったのはシャンデリアが吊るされた回廊であった。

一つ一つが国宝すら超える美しさを誇るであろうシャンデリアの回廊が続いており

その中を歩くのはまさに幻想の世界に入っていくように感じた。

そうしてその回廊を抜けた先に待って居たのはまさに神の祭壇を彷彿とさせる大広間であった。

そしてその広間の先に一人の人影が見え、

そしてそちらへと目を向けた瞬間――――私の中を電撃が駆け巡った。


そこに居たのは一人の少女だ。

腰まで伸びたその髪は澄み通るほどに純白で、その容貌はこの世の如何なる女性よりも美しいだろう。

そして体には神々が着るかのような美しい絹のローブを纏っている。


一目見て分かる。

あれは決して美しいだけの少女でないと。

いや、もはやそう言った話でなく。

あれは人間が決して辿りつけない世界に居る住人なのだと。

私たちとは文字通り次元の違う存在だ。

彼女の隣に立ってしまえば戦乙女ヴァルキリーですら霞んでしまうだろう。

そんな彼女を表す言葉があるとするならばたった一つで――――


「女神……様……」


「ようこそ私の庭へ。神に見捨てられた者たちよ」


これはまさに神との邂逅であったのだろう。

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