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昨日のわたしに、さよならは言わない。  作者: みもざちゃん


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人生と私たち(2)

岩下鈴いわしたすず:社会人1年目のOL。面倒見がよく思いやりがあり、真面目な性格。田舎を飛び出して都会に上京してきた。過去の輝かしい栄光に苦しめられている。

月岡昴つきおかすばる:中途採用されてきた新入社員。イケメンで高身長だが、不器用で仕事ができない。寡黙でシャイだが、誠実で優しい性格。とある過去の記憶を抱えている。

山田真衣やまだまい:鈴の勤め先にいるとても美人な先輩。勤務歴は10年目。基本的には優しいが、ライバルには絶対に勝ちたいという競争心を隠している。上司のお気に入りになることが得意。

川口晴美かわぐちはるみ:鈴の親友。子供の頃からの夢だった教師になり、新任として奮闘している。気配りができて人に寄り添う優しい性格。仕事で悩みを抱えている。

岩下登紀子いわしたときこ:鈴の母親。真面目で家族想い。保育士として働いている。

岩下茂雄いわしたしげお:鈴の父親。お茶目で楽観的な性格。消防士として働いている。

「鈴さーん、お待たせしました!」

「ちょっと!滑りそうだから走らないで来て。危ないからね。」

どこもかしこもご機嫌な音楽と共にクリスマスツリーが飾られている。今日は都心でも朝から雪が降って、強めの寒波が来ているらしい。道路が凍っていて、慎重に歩かないと危険である。

「嬉しいな…ついにイラストレーションが見れるなんて。」

昴くんがよちよち歩きをしながら笑った。私は「イルミネーションね。」と訂正して、彼の横顔を盗み見る。マフラーに顔の半分を埋めて口元が見えない。彼の澄んだ瞳がより大きく美しく感じてしまう。

「鈴さん。寒いし、手繋ぎましょう。」

昴くんははっきりした声で言うと、私の手を取った。お互い手袋をしているが、彼の手から温もりを感じる。

「でも、手繋いでたら転ぶときに一緒に転んじゃうよ。昴くん、本当に気を付けてよね。」

私が声を震わせると、昴くんは突然吹き出した。

「僕は一緒に転んでもいいですよ。だって、九転び十起きですから。」

久しぶりに彼の謎発言を聞いた気がする。私は彼と出会ったばかりのことを思い出した。私たちはゆっくりと数多ある光が輝く場所へ向かっている。

「最初にそれ聞いた時さ、なんて言い間違いするんだろうって驚いたんだよね。でも、可愛い人だなって思う気持ちの方が強かった。」

私が照れながら呟くと、昴くんの私の手を握る力が強くなった。

「僕は自分の間違いを馬鹿にされなくて嬉しかったんです。昔から変なことばっかり言っちゃうんで、貶されることが多くて。それでも鈴さんは…ちゃんと教えてくれましたよね。」

彼は私の方をちらっと向いて目を細めた。

「八転び九起きって。」

「そうそう…いや待って、違う!七転び八起きね。」

私が目を丸くすると、彼はキョトンとした。

「あれ、そうでしたっけ。また間違えちゃった。」

「数字が多いんだよ、昴くんは。転ぶ数と起きる数がそれぞれ多いの。」

私はそう言いながらハッとした。足を止めると、昴くんも歩くのを辞める。

「鈴さん?どうしました?」

「きっとさ…昴くんの人生はそうだったのかもしれないね。他の人よりもつまずくことが多くて、それでも起き上がってきた。それだけ、頑張ってきたってことだよ。」

昴くんは私の頭に手を乗せてニコッと微笑んだ。

「鈴さん…ありがとうございます。これからも僕はそうやって生きていきます。」

それから少し歩くと、目の前にはカラフルな光の海が広がっていた。どこまでも果てしなく続いていきそうな美しい景色が私たちを包み込んでいる。昴くんは言葉を失っている様子だ。私も何も言わずにしばらくその景色を眺めていた。無言の空間も彼となら心地よかった。私たちはゆっくりと光の中を歩き出す。

すると昴くんがようやく口を開いた。

「良かった…。」

私は輝く光から彼の横顔に視線を移した。

「僕、生きてて良かったな…。」

そう呟く彼の肩が細かく震えている。私は彼の背中に手を回して自分の方に引き寄せた。

「私も昴くんのおかげでそう思えるんだ。ありがとね。」

昴くんはうるんだ瞳をこちらに向けて笑顔を作った。

「鈴さん…僕と出会ってくれてありがとうございます。」

すると彼は私を優しく包み込んだ。私も彼を強く抱き締めて背中を擦る。

「愛してます。これからも長く一緒にいたいです。」

昴くんの直球な言葉に私は相変わらず赤面してしまう。それでも私は彼の言葉に何度も頷いた。

「私も傍にいさせてほしい。楽しいことも悲しいことも一緒に乗り越えていきたいな。」

私と昴くんはしばらく見つめ合って、それから唇を重ねた。彼は顔を離すと、いきなり歩き始めた。私は慌てて彼の横に並ぶ。

「昴くん!急に歩かないでよ。びっくりするじゃん。」

私が口を尖らせると、彼は私から目を反らして頭を掻いた。

「すみません…何だか突然恥ずかしくなっちゃって。」

彼の言葉に私は思わず吹き出してしまった。今度は彼が「そんなに笑わないでくださいよ。」と口を尖らせている。私は「ごめんごめん。」と謝りながら、まだ笑いが収まらない。すると昴くんも私につられて笑い出した。

「そういえば、晴美が教師の仕事復帰するんだって!あと、私の両親がお正月に昴くんも来てほしいって言ってたよ。」

私が我に返って声を弾ませると、昴くんは目を丸くして大喜びした。

「ありがとうございます!晴美さんも良かったですね。また3人にお会いできるのが嬉しいです。」

私たちはキラキラ光る道を何度も歩いた。寒さなんて感じなかった。たわいのない話をして、冗談を言い合いながらただただ笑っていた。まるであの日の夜のように。


「ちょっと、月岡くん!ここまた間違ってるって!」

「月岡くんが送った封筒、何も中身入ってなかったみたいだよ!」

今日もいつもの調子であたふたしている昴くんの姿が見える。山田先輩が小さくため息をつきながら私の机にやって来た。私は彼女の表情を見ただけで何を言いたいのか、もう分かってしまうみたいだ。彼女もそれを感じたらしく、苦笑いして見せる。

「私たち、以心伝心してるわよね。さーて、私は何を聞きたかったでしょうか?」

山田先輩がいきなりクイズを始めたので、私は笑いを堪えながら即答する。

「月岡くん、プライベートで何かあった?…ですよね?」

案の定、山田先輩は大爆笑して何度も頷いた。私も思わず吹き出してしまう。

「相変わらず何もないですよ。今の様子が昴くんの通常運転ですから。」

「そうよね、あれが月岡くんらしさなんだもんね。」

山田先輩はそう言って私に微笑みかけた。

「自分のありのままも、人のありのままも、最初は受け入れるのに戸惑うけどさ。やっぱり素顔のままが1番よね。過去の自分も、今の自分も、未来の自分も全部自分だし。」

私は彼女の言葉に頷いて、言葉を続けた。

「私もようやくそう思えるようになりました。昨日の自分に、さよならは言わない。そう決めて生きていこうと思います。」

山田先輩は私の背中をポンと叩いて「良いんじゃない?」といたずらっぽく笑った。

「山田先輩!鈴さん!こっち来てください、コピー機が一生コピーし続けちゃって。」

昴くんの叫び声が聞こえてくる。私と山田先輩は顔を見合わせ、慌てて彼の元へと向かっていった。


『昨日のわたしに、さよならは言わない。昨日のわたしに、愛してるを伝えていくー。』

私たちはきっと彷徨い続けるだろう。過去と今の狭間を、今と未来の狭間を、ずっとずーっと彷徨い続けていくだろう。

抱え切れない不安も、忘れられない栄光も、答えが見えない悩みも、消そうとしても消えない傷も。

それでも受け止めて生きていくんだ。自分の至らなさも、自分の不器用さも、全てを受け入れて前に進んでいくんだ。

支えられて支えながら。傷ついて傷つけながら。愛されて愛しながら。


最後までお付き合いいただいてありがとうございました!

この作品が少しでもみなさんの”生きる”を支えたり明るく照らしてくれる作品になってくれたらとても嬉しいです。ぜひご感想もお寄せいただけら幸いです。

ありがとうございました。(続編も書くかも?しれません!お楽しみに♪)

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