未来と私たち(2)
岩下鈴:社会人1年目のOL。面倒見がよく思いやりがあり、真面目な性格。田舎を飛び出して都会に上京してきた。過去の輝かしい栄光に苦しめられている。
月岡昴:中途採用されてきた新入社員。イケメンで高身長だが、不器用で仕事ができない。寡黙でシャイだが、誠実で優しい性格。とある過去の記憶を抱えている。
山田真衣:鈴の勤め先にいるとても美人な先輩。勤務歴は10年目。基本的には優しいが、ライバルには絶対に勝ちたいという競争心を隠している。上司のお気に入りになることが得意。
川口晴美:鈴の親友。子供の頃からの夢だった教師になり、新任として奮闘している。気配りができて人に寄り添う優しい性格。仕事で悩みを抱えている。
岩下登紀子:鈴の母親。真面目で家族想い。保育士として働いている。
岩下茂雄:鈴の父親。お茶目で楽観的な性格。消防士として働いている。
故郷に帰ってきたのは晴美に会った日以来である。あの時は夏だったが、今はもう秋が深まり、所々に紅葉が見えて綺麗だ。田んぼの間に轢かれた線路の上を電車がゆっくりと走っている。
「すごく素敵な場所ですね、岩下さん!」
前に里帰りした時との相違点は季節だけじゃない。右を向くと、スラッとした高い鼻にぱっちり二重の瞳を輝かせている美しい横顔が目に入るのだ。
「何か、すごく不思議な気分だな。まさか月岡くんが私の故郷に来るだなんて。」
私が苦笑すると、月岡くんはキョトンとした。
「岩下さん…僕が来てしまってあんまり嬉しくないですか?」
「いやいや、そんなことない!月岡くんが本当に来てくれたんだなって思ってるだけだよ。」
「そうですか?本当に?」
月岡くんが怪訝そうに私を見つめる。私はすっかり反応に困ってしまい、「次の駅で降りるからね。」と話題を反らした。彼は何か言いたげだったが、すぐに車窓から見える風景に夢中になった。
電車を降りて、駅から20分程歩いたところに私の実家はある。築30年の古い一軒家だが、古民家カフェにでもリフォームしたらレトロな雰囲気になって良いかもしれない。エアコンは付いているが、夏は暑さが厳しく、冬は寒さが厳しい昔ながらの家である。
私にとって馴染みのある道を月岡くんと並んで歩いている。まるで地元の友達と一緒にいるようで、あまりにも不思議な感覚だった。
「あともう少しで、私のお家着くよ。」
沈黙に耐えられずに口を開くと、月岡くんは「おー!楽しみだな。」と微笑んだ。
「月岡くんは…緊張しないの?」
私はずっと気になっていたんだ。自分は両親に会わせることが決まってから、緊張してなかなか眠りに就けない日もあったほどだったのに、月岡くんはいつも余裕がある。彼にとって私の両親に会うことは大したことではないのだろうか。
「緊張…ですか?何に緊張するんです?」
月岡くんの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。
「えっと…つまり、私の両親に会うことに緊張しないのかってことだよ。どう思われるか、とかさ。前も私の両親の血液型のこと気にして、どういう人なのか考えてたじゃん?」
私の言葉に、月岡くんはニコッと微笑んだ。
「正直…どう思われるかは気にしてないです。自分は自分のままでお話させて頂きたいと思ってます。緊張は多少はしてますけど、今はお会いしたい気持ちの方が強いんです。」
「…そっか、そう思ってくれてるんだね。」
私は少し安心した。月岡くんはありのままの姿で私の両親に会おうと覚悟を決めてくれてるんだ。月岡くんは私の手をさり気なく握って、優しく包み込んでくれた。
こうしている内に、家の前まで来てしまった。私は小さく深呼吸をして、インターホンを鳴らした。胸の鼓動が外に漏れそうなほどに大きくなっている。
「はーい!鈴?鈴なの?」
扉の向こうから母の良く通る声が聞こえる。私が返事をすると、勢いよく扉が開いた。
「あら、鈴!元気にしてた?久しぶり…でもないわ。テレビ局行ったときに会ったもんね。テレビ出演、すごく良かったわよね。お母さんたちも感動しちゃったわ。」
母は明らかに変だった。私は彼女に「落ち着いて。」と口パクして見せる。
「あ…後ろにいらっしゃるのが…?」
ようやく気付いたらしい。月岡くんは一歩前に出て丁寧なお辞儀をした。
「初めまして。岩下さんと同じ会社に勤めている月岡昴と申します。お忙しいところお時間を頂いてありがとうございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。」
「固い固い、かたーい!」
突然、母の後ろから父が現れた。私たちは目を丸くして彼を見つめる。
「そんな挨拶じゃダメだ。もっと人間らしく挨拶できんのか!」
「ちょっと!父さん、急に怒鳴らないでよ。」
私はため息をついたが、月岡くんは「はい、やってみます!」と目を輝かせている。
「どうも!僕は月岡昴だよ。二人に会うのがすごく楽しみでワクワクしてたんだ。今日はよろしくね!」
今度は月岡くんに唖然としてしまった。私と母が固まっていると、父は手を叩きながら笑い始めた。
「何だ、君は。なかなか面白いじゃないか。さあさあ、入りな。玄関先で話す内容でもないだろう。」
「どこであっても話す内容じゃないでしょ。」
私は小声で呟いたが、父の耳には届いていない。月岡くんは「お邪魔します。」と意気揚々に家に上がっていった。私と母は顔を見合わせて、思わず吹き出した。
「すごくイケメンだけど…何かちょっと変わってる人なのかしら?」
母が私の耳元で囁いたので、私は何度も頷いた。
「謎発言が多いけど、あんまり気にしないでね。」
「謎発言…?」
母がキョトンとしていると、月岡くんが私と母の前にやって来た。
「あの、突然すみません。岩下さんから聞いてたんですけど、岩下さんのお母さんはA型なんですよね?」
「…え?」
母は助けを求めるように私に視線を送った。私はすぐに「血液型の話。」と補足する。
「あ、あの…そうね。私はA型よ。それが…何か?」
「やっぱりそうなんですね。岩下さんのお母さん、現実的で几帳面だなって感じたんです。」
母がまた私に視線を送ってきたので、私は彼女を先に部屋へ行かせた。それから月岡くんの元に戻って、彼の顔を覗き込んだ。
「月岡くん、まだ母さんと話してないでしょ?もう…何言ってるの…!」
「すみません…すごく緊張してしまって、全てが絶賛空回り中なんです。」
「え…!さっき少ししか緊張してないって言ってたのに?」
私は思わず目をぱちくりさせた。月岡くんがこんなに追い詰められている表情は初めて見た。
「月岡くん。大丈夫。リラックスしていいんだよ。」
慌てて彼の背中を擦ると、彼は小さく深呼吸をした。すると、遠くの方から「おーい、2人ともこっち来なよ。」と父の声が聞こえてきた。私は月岡くんと顔を見合わせて、力強く頷いた。
私と月岡くん、母と父で向き合って座る形になった。いかにも、結婚の挨拶に来たような構造になっている。
「月岡くんには聞きたいことが山ほどあるんだよ。」
父は笑いながら言っているが、月岡くんはさらに緊張した面持ちに変わった。母もそれに気付いたようで、「ちょっと、あなた。」と父を手で制した。それでも父は小さく咳払いして、また口を開いた。
「月岡くんはどこの出身なんだ?」
父の質問タイムが始まってしまった。私が不安げに月岡くんを見ると、彼は少し考え込んでそれから答えた。
「生まれは東京です。でも、兵庫の大学に行っていた時代が特に楽しかったので…出身は兵庫と言いたいです。」
「あら、兵庫にいたのね。大学では何を学んでたの?」
母も質問タイムに加担してきた。月岡くんは「植物です。」と言って、ジュウガツザクラへの愛を語った。父も母も月岡くんの熱量に目を見張った。
「好きなものを極められる姿勢、本当に素晴らしいわ。鈴も見習った方がいいわね。」
母の言葉に私は苦笑することしかできない。楽しそうな父は「そこまで桜が好きになったのはなんでなんだ?」と鋭い質問をした。すると、月岡くんは自分のバックの中から小さなお守りを手に取った。
「これです。最後に母からもらった物なんです。」
それは桜の刺繍が施された白いお守りだった。私は会社の床に落ちていたそのお守りを拾って、月岡くんが戻ってきた日を思い出した。
「最後に…。それじゃあ、もしかしてお母様はもう…?」
父が申し訳なさそうな顔をすると、月岡くんは大きくかぶりを振った。
「いえ、たぶん生存してます。中学生以来、会えていなくて分からないんです。」
「中学生以来…!?8年くらい会ってないってことになるわね。」
父も母もその理由までは追求せず、別の話題に変えてくれた。
「鈴とはいつから付き合ってるんだ?」
さらっとすごいことを聞いてくる父を私は軽く睨んだ。父は私の顔を見ると、いたずらっぽく笑った。
「僕が夏に会社に来て、社員旅行に行った後だったので…2か月前くらいですかね。」
月岡くんが私の方を向いたので、私は小さく頷いた。
「鈴のどこが好きになったんだ?」
デリカシーのない父の質問が続く。母と私が眉間にしわを寄せていると、月岡くんが即答した。
「とても優しくて、とても可愛いところです。」
相変わらずの直球な言葉に私は思わず顔を伏せてしまう。父と母がキョトンとしていると、月岡くんはまだ話を続けた。
「実はこのお守りを会社で落としてしまった時に、偶然見付けてくれたのが岩下さんだったんです。それが僕たちの出会いでした。僕はその時から運命を感じて、岩下さんのことが気になり始めたんです。」
「え…そうだったの?」
目を丸くして彼を見ると、彼はニコッと微笑んだ。
「はい。でも、自分に自信を持てなくて、自分の感情もはっきり分かっていなくて、なかなか伝えられなかったんです。岩下さんのことが…好きだって。」
「はあ~若いっていいなぁ。」
遠くを見るような目で呟く父と、目を輝かせて月岡くんを見る乙女な母。私は恥ずかしさのあまり、勢いよく立ち上がった。
「あのさ!お腹空いたから、何か食べようよ。もうお昼になるし!」
「そうね。月岡くん、何か好きな食べ物ある?唐揚げとか、カレーとか?」
母が尋ねると、彼は少し考えてそれから答えた。
「僕は梅干しが好きです。」
「梅干し…?」
3人で声をそろえると、月岡くんは私たちを見て慌てふためいた。
「い、いや…唐揚げもカレーも好きなので食べれますよ!でも、梅干しには敵わないです。」
「分かったわ!梅干しを使った料理、作るわね。」
母が台所に向かうと、父は「2人はゆっくりしてな。」と言って母に付いて行った。月岡くんは肩の力が抜けたようで、私に寄りかかってきた。
「月岡くん…ごめんね。父さんも母さんもあんなに質問攻めしてきて。」
私が謝ると、彼は大きく首を横に振った。
「大丈夫ですよ。関心を持ってくださっているってことなので、ありがたいです。まあ…何を聞かれたかは、緊張しててあんまり覚えてないんですけど。」
「そんなに緊張してたの!?」
月岡くんは眉を八の字にしてこっくりと頷いた。私は無性に彼を抱きしめてあげたくなったが、ここが実家であることを忘れてはいけない。見られたら大騒ぎされてしまう。
するとその時、インターホンが鳴った。
「あら、もう来たみたいね。鈴!出てちょうだい。」
母が台所から叫んだ。私は立ち上がり、「はーい!」と返事をして扉を開けた。宅配便だろうか。
「こんにちは。」
聞き馴染みのある声がした。私は思わず「え…!?」と叫んでしまった。
「は…晴美!なんで…ここにいるの?」
彼女はニコッと微笑みながら頭を掻いた。
「鈴のお母さんに呼ばれてたの。今日、鈴が帰ってくるから来てほしいって。」
「そうだったんだ…。あ、外寒いから中入って。」
私が扉を閉めると、晴美は「お邪魔します。」と玄関に上がった。すると今度は晴美が「え…!?」と大きな声を出した。後ろを振り向くと、そこには父と月岡くんが立っていたのだ。
「おお、晴美ちゃん。久しぶりだね。調子はどうだい?」
父の問いかけに答えながらも、月岡くんから目が離せない様子の晴美。私は晴美に全く月岡くんのことを話せずにいたのだ。月岡くんには晴美について話したことがあったが、彼が果たしてそれを覚えているのかどうかは分からない。
「あの…初めまして。岩下さんと同じ会社で働いている月岡昴です。よろしくお願いします。」
両親にしていた時よりも緊張した面持ちで月岡くんが挨拶する。
「岩下さん…?どの岩下さんと同じ会社なのかな?」
晴美の頭の中には私、母、父の3択が浮かんでいるようだ。
「鈴さんです。岩下鈴さんが僕の先輩なんです。」
私の胸の鼓動が一気に速くなる。月岡くんに下の名前で呼ばれるのは初めてだったのだ。晴美は顔を伏せている私を不思議そうに眺めながら、月岡くんに挨拶した。
「みんな!ご飯できたわよ!一緒に食べましょう!」
母の声で私たちはリビングに戻った。母の料理は昔から上手で美味しいが、今日の料理も大層なものである。
「すごいですね、全部美味しそう!なんでこんなに梅だらけなんですか?」
晴美が聞くと、母は「月岡くんが梅干し好きだからよ。」と微笑んだ。晴美は月岡くんの方を向いて、目を丸くした。
「こんなイケメンが梅干し好きだなんて…!想像つかなかったな。」
「イケメン…?誰のことですか?」
月岡くんがキョトンとするので、私は慌てて手を叩いた。
「はい、もう冷めちゃうから食べちゃおう!母さんも父さんも、作ってくれてありがとう。」
「あら…いつもはそんなこと言わないのに、どうしちゃったのかしら。」
母が箸を並べながら小さく呟く。私たちは椅子に座って、「いただきます!」と手を合わせた。
早速月岡くんが鶏肉を口に運んだ。その瞬間、彼の目が一気に輝きを増す。
「肉が軟らかくて、とっても美味しいです!大根おろしと梅ってこんなに合うんですね。」
「そのチキンソテーは俺が作ったんだ。上手いだろ?」
父が自慢気に言うので、私たちはみんな吹き出した。久しぶりに両親の料理を食べると、昔のことを思い出す。それでも私は、もう以前のように吐き気も悲しみも感じなくなっていたのに気付いた。
「そういえば!鈴のテレビ出演、同級生の間でも話題になってたんだよ。」
麦茶を飲んでいる晴美を見て、私は目を丸くした。
「え…そうなの?なんでだろうね。」
「だって鈴は、いつも一目置かれる存在だったじゃん。生放送だったのにリアタイで観た人たちも多かったみたいだよ。」
「そうなんだ…何かめっちゃ恥ずかしいかも。」
私が顔を赤くすると、父が大笑いした。
「それで、まさか生放送で付き合ってる人がいるって言っちゃうとはな。母さんも父さんもびっくりして後ろにひっくり返るところだったよ。」
父の言葉に月岡くんがむせ始めた。慌てて背中を擦ると、晴美が何かに閃いたような表情をするのが見えた。
「もしかして…テレビ出演で言ってた人が、月岡昴さんってこと!?」
「そうよ。晴美ちゃん、今まで知らなかったの?てっきり鈴が話してるかと思ってたわ。」
母が口に手を当てて目を丸くした。月岡くんがようやく落ち着くと、私は晴美の方を向いた。
「ごめん、晴美。言うタイミングが分からなくなっちゃって。」
「全然大丈夫だよ。それより…こんなイケメンが彼氏さんなの?」
「イケ…メン?」
また月岡くんが反応したので、私はすぐに大きく頷いた。
「そう。私とお付き合いしてる人なの。それで今回、母さんと父さんに会わせてほしいって言われて2人で来たってことなの。」
「へえ~!昴ってお名前もかっこいいし、アイドルみたいな美しい顔立ち。鈴、素敵な人とパートナーになれたんだね。」
晴美は月岡くんに見とれている。私がちらっと彼を見ると、彼は母の料理に夢中であまり話を聞いていない様子だった。
「岩下さんのお母さん。あの…おかわり頂いてもいいですか?」
「岩下さん?お互いのこと、名字で呼び合ってるの?」
月岡くんの言葉に晴美が首を傾げる。私が「まだ日が浅いからね。」と苦笑すると、月岡くんが私の目をまっすぐに見据えてきた。
「鈴…さん。」
突然下の名前で呼ばれると、私の心臓が飛び出しそうになる。その様子を見ながら、晴美が1人で盛り上がっているのを感じる。父は私と月岡くんを交互に見て、いたずらっぽく笑った。
「今日から下の名前で呼び合ったらどうだ。鈴と昴。良いんじゃないか?」
「ちょっと、父さん!」
私がさらに顔を赤くすると、月岡くんは真面目な顔で頷いた。
「そうしたいです。その…岩下さんが嫌じゃなければ。」
「だってよ、鈴!」
晴美が私の腕を肘でつんつんしてくる。月岡くんの茶碗にご飯を盛って戻ってきた母は「何?何の話?」と首を傾げる。私は月岡くんの綺麗な瞳に吸い込まれそうになりながら、小さく呟いた。
「嫌じゃ…ないよ。昴くん。」
その瞬間、晴美と父が同時に拍手を送ってきた。月岡くんは耳まで赤くして、大盛りのご飯をかき込んでいる。母は「ゆっくり食べなさいよ。」と苦笑しながら彼を見つめるのだった。
「お邪魔しました!今日はありがとうございました。」
月岡くんが最初に来た時と同じように丁寧なお辞儀をする。晴美が帰ってからしばらくして、私と月岡くんも家を出なければならない時間になったのだ。母と父は駅まで送ると言ってくれたが、私は丁重に断った。ご飯も作ってもらったのに、車まで出してもらうのは気が引けたのだ。
「月岡くん。また来てね。いっぱいご飯食べてくれて嬉しかったわ。」
「いつでも遊びに来いよ。それに鈴のこと、よろしく頼んだぞ。」
「父さん、私は大丈夫だからどうぞご心配なく。」
私の言葉に母と父が笑うと、突然月岡くんがしゃくり上げた。私たちは唖然として彼を見つめる。
「ど…どうしたの?月岡くん、大丈夫?」
私がハンカチを出して彼に渡すと、彼は涙をふき取りながら呟いた。
「すみません…突然泣いてしまって。僕、最初は緊張してたんですけど、すごく楽しかったです。家族ってこんなに温かいものなんだって初めて感じることができました。」
月岡くんの言葉に母と父は顔を見合わせる。すると母が月岡くんのことをそっと抱きしめた。
「良かったわ、そう感じてくれて。それぞれの家庭にそれぞれの家族の形があるけれど、私たち岩下家の家族の形はこんな感じなのよ。離れていても、お互いのことを大切に思い合ってる。しんどかったら、いつでも帰ってきていい居場所なの。だから月岡くんも、そう思っていてね。」
私も母の言葉に涙が零れていた。月岡くんが「ありがとうございます。」と泣き声でお礼を言うと、父も月岡くんの肩をポンと叩いた。
「泣くなよ、昴。また泣くときは鈴と結婚する時だからな。」
突拍子のない発言にどう反応するべきか困っていると、月岡くんが「はい。」とあっさり返事をしてしまった。
「あなた、そんな先のことばっかり言わないの。未来のことなんて誰にも分からないんだから、なるようにしかならないのよ。」
母が呆れたように言うと、父は「そうだな!未知の世界だもんな!」と声を出して笑った。
「父さん、母さん。」
私は月岡くんの手を取って、それからニコッと微笑んだ。
「また帰ってくるね。本当にありがとう。」
つづく
ご一読いただいてありがとうございました!次回もどうぞお楽しみに♪




