第九話 疑問
「……えっと……これは……」
目の前に置かれたアフタヌーンティーのセットを見ながら、俺は困惑の表情を浮かべた。俺が現在居るのは、王城にある温室である。空は晴れ渡り、温かい光が優しく差し込む。
「どうかなさいましたか? アレン様」
俺の向かい側に座るジュリアが、不思議そうに首を傾げる。
「いや、何でもない……」
「そうですか? お菓子も沢山ありますので、お好きに召し上がってください」
現在の状況に関して、尋ねる勇気がない俺は口を閉じた。そんな俺の態度に気にした様子もなく、ジュリアは紅茶を淹れ始める。そう俺が戸惑っているのは、ジュリアの存在だ。
先日のビュレット公爵の起こした事件から、一か月ほどが経過した。ジュリアと魔王によりビュレット公爵は捕縛され、協力者であるジェームズたちも捕まえることができたのだ。両親もジュリアの力で目を覚まし、元気である。ルーク騎士団長や他の退けられていた人たちも無事に職場に復帰を果たした。
それから両親は魔王の行動に感謝し、魔王国との和平交渉に前向きである。近日中に締結されるだろう。戦争を回避することができて良いことだ。だが、一つ分からないことがある。それはジュリアについてだ。
陰謀を企てたビュレット公爵たちが捕らえられた。そして国王と王妃が目を覚まし、信頼できる臣下たち戻ったのだ。魔王国で魔王と幸せに暮らして良いのだが、何故か彼女は未だに俺の傍にいる。
ジュリアが魔王と共に帰還する時期が大分早かったが、現在のルートはジュリアが唯一幸せになれるルートの筈だ。だが、彼女は一か月もブルーリナ王国に滞在している。そして、以前と同じように俺の警護をしてくれているのだ。加えて、少し瘦せた俺に対して過度に心配するのである。そのことが不思議でしかない。好きな魔王を放置して、俺に構っている場合ではないだろう。
「ジュリア……」
「はい、アレン様」
悩んでいても仕方がない。俺は意を決すると、ジュリアに話しかけた。彼女は優しく俺を見つめ返す。
「その……そろそろ、帰らなくいいのか?」
俺はジュリアの瞳を真っ直ぐに見ることができず、思わず逸らす。
「え? 私が帰る場所はアレン様のお傍ですよ?」
ジュリアは平然と自身の居場所を口にした。如何やら彼女は、俺の質問の意味が分からない様子である。
「いや……そうではなくて……。魔王のことはいいのか?」
「……っ!」
随分と直接的な言い方ではあるが、魔王について訊ねる。するとジュリアは目を見開いた。俺が魔王と彼女との関係を知っていることに驚いたのだろう。
彼女の幸せルートには、魔王は不可欠な存在だ。ジュリアが傍に居るべき存在が俺ではないことに、直ぐに気付くだろう。
ジュリアと魔王により、俺はビュレット公爵の傀儡人形になるというバッドエンドを回避できた。二人の結婚式にも出席することができる。祝いの贈り物は形に残らないものがいいだろう。俺の気持ちと共に消えてしまえばいい。
「やはりな、おめ……」
「魔王様が何か? あ! 魔族たちについて知りたいのですね。流石はアレン様です!」
ジュリアの反応を見た俺は、祝いの言葉を口にしようとした。しかしそれは、ジュリアの弾んだ声によってかき消される。
「え? えっと……そうではなくて……?」
何故か、魔王のことを敬称で呼ぶジュリア。同僚の話では、ジュリアと魔王はお互いに名前で呼び合うと聞いていた。加えて、自身と魔王の話ではなく俺を褒めている。ジュリアが魔王と共に幸せになるルートの筈だが、何かがおかしい。そう思いながら、俺は首を傾げた。
「我がどうした?」
背後から魔王の声が響いた。




