第十話 謎
「……っ、魔王陛下」
ジュリアと二人だと思っていた為、俺の声は裏返る。突然のことで俺は引き攣っているだろう。この国を救い、ジュリアを幸せにできる相手に失礼な態度である。俺は慌てて、ソファーから立ち上がった。
「そのままで良い」
魔王は俺の行動を手で制すると、静かに座るように指示を出す。
「……あ、は、はい……」
魔族に偏見や恐怖心はない。だが魔王とは身長差がある上に、少し威圧感がある。王としての威厳だと思うが、前世一般人には指示に従うしかない。俺は戸惑いながらも、再びソファーに座る。
「魔王様もお茶は如何ですか?」
「頂こう」
ジュリアは魔王が現れたことに驚くこともなく、お茶に誘う。そのことに了承した魔王は、主賓席に腰を下ろした。その行動に俺は疑問を持つ。魔王が主賓席に座ることは不思議ではない。ジュリアの座るソファーには余裕がある。何故、好きな人の横に座らないのだろう。
魔王と顔を合わせるのは、ビュレット公爵を捕まえた時以来である。その後は会う機会がなかった為、魔王国に帰国したと思っていた。愛しいジュリアが居るならば、この国に滞在していてもおかしくはない。
「それで……体調はどうなのだ?」
魔王はジュリアに体調を訊ねる。好きな人と離れていたならば、再会して直ぐに体調を気遣うとは流石は魔王だ。矢張りジュリアを幸せにできるのは、魔王しかいない。
俺は自分の気持ちを飲み込む為、焼き菓子を一つ口に含んだ。
「随分と良くなられました。しかし、栄養不足なのは確かなのでこうして、アフタヌーンティーで栄養補給をしています。魔王様から頂いた果実も使用して、パウンドケーキにしていますよ。アレン様は甘い物がお好きなので助かりました」
ジュリアは微笑みながら、紅茶を魔王へと差し出す。その内容が俺に関してということに、思わず咀嚼するのが止まる。
確かにアフタヌーンティーは、ジュリアが帰国するまでの一か月半ほどで瘦せた俺の栄養補給を兼ねている。だがその食材を提供しているのが魔王とは知らなかった。
「そうか……ならば、聖女。これらも使え」
魔王は軽く頷くと、魔法陣を描く。するとテーブルの上に、色とりどりの果実や木の実が並んだ。
「まあ! これは南の地が原産の果実ですね! こちらは北国の栄養価が高くて美味しい木の実ですね! ありがとうございます! アレン様の体調も良くなります!」
テーブルの上の品々を見ると、ジュリアは声を弾ませた。彼女の解説は有り難いが、その情報がより俺を混乱させる。
ジュリアも魔王も、お互いに役職名でしか相手を呼ばない。魔王が体調を気遣ったと思えば、俺のことである。そしてジュリアも俺の体調管理に熱心である。
「……え? ええ? いや、なんで……お、俺?」
俺はゆっくり焼き菓子を飲み込むと、戸惑いの声を上げた。




