2-2.
まるで映画のワンシーンを見ているような感覚になった私はその2人に夢中になっていたが、気づくと部屋の入口に立っていた王子の手を取っていた。
「えっ……いつの間に?」
反射的に口をついて出た声に、自分でも驚いた。
慌ててもう片方の手で口を押さえるが、当然、注目は一気に私たちへ向かう。
王子は落ち着いた声で言う。
「僕たちもイッキーのイタズラにはめられたみたいだね。」
そう言ってわたしたちが繋いだ手をみんなに見せる。
その表情はどこか子どものような悪戯っぽさを含んでいて、普段の落ち着いた雰囲気とは違う。
……あれ?
こんな表情もするんだ。
わたしは一生懸命反対の手を添えて繋いだ手を引き離そうとしても、ぎゅーっとくっついたまま離れない。
考えても考えても解決策が見当たらない。
魔法で何とかできるかも?
でも、わたしはまだ解除魔法を知らないし…
隣でトラネがソランティア様に尋ねてくれる。
「ソランティア様、さっきはカリンダとグリンディーン様のイタズラを解く方法を知っていましたよね?この手を繋ぐというイタズラの解決方法はわかりますか?」
「いや、実はさっきはたまたま解決方法がパッと直感で浮かんだんだ。僕は直感が鋭くて結構当たるから、言ってみたんだよね。」
「そうだったんですね!てっきり最初から知っているのかと思いました。じゃあ、この手を繋ぐ…イタズラの解決策は直感が降りてきますか?」
「このイタズラに関しては、解決策がわからないなぁ」
思考中らしいソランティア様は、もう一方の手で顎を支える仕草をする。
(……つまり、今回は本当に解決方法が不明ってこと?このままずっと手を繋いでるのか……)
正直、恥ずかしさもあるけど「この状況をどう処理すべきか」の方が気になっていた。
他の生徒たちからの視線も気になるし、早くなんとかしたい。
そう思っていると、
「では、僕たちは手が離れるまで、誰にも見られないところへ行こうか。イッキーのイタズラとはいえ、婚約前の男女が手を繋いでいるのはマミーナ嬢によろしくないだろうからね。ちょっと失礼するよ。」
そう言ってわたしの手を引っ張っていき、友人たちが座る席の間を通って窓を開ける。そして、あろうことか開け放った窓から軽やかに外へ飛び出した。
(え、飛んだ?)
と思った瞬間、彼は聖獣クレンの背に着地していた。
そしてわたしの手を握ったまま、
「ちょっと乗りにくいけれど、クレンの上に乗れるか?」
と言う。
あまりに突拍子もないアイデアだが、手を繋いで照れている私の姿を友人たちにずっと見られるのもたまらない。
だったら2人きりで誰にも見られない方がいいと、とっさに思った私はソランティア様に従うことにした。
「はい、大丈夫です。」
「わたしたちは電車の上にいるよ。どこか遠くへ行ったりしないし、大丈夫だ。グリンディーンは令嬢たちのそばにいてくれないか?またイッキーのイタズラがあるかもしれないからな」
そう言って少しニヤっと笑った王子を真横で見てつくづく感じるのは、この人、何考えてるかわからない。ってこと。
クレンの上に乗せてもらった私の手は後ろに回し、ソランティア様と手を繋ぎ続けている。
2人でどこへ消えるのだ?と心配していたみんなは、電車の上なら安心かと納得しているようだ。
「それじゃあ。」
と言ってソランティア様の聖獣クレンはフワッと電車の上に飛び上がる。
電車の上は風が強くて振り落とされるのではないか?とイメージしていたけれど、そんなことは全然なく意外と静かで安定している。
クレンからさっと先に降りて、私が降りるときに手を添えてくれる。
同い年なのにこの流れるようなエスコート。さすが王族だ。
「電車の上はどう?」
「思っていたよりも悪くないですね」
そう言って少し照れてしまう。
男の人と手を繋いだことなんてないから、緊張してしまうのは当たり前と自分を落ち着かせる。
「ここ、特等席だよね。景色も綺麗だし。独り占めできてラッキーだね」
そう言って先にゆっくり腰を下ろして、ポンポンと床を叩いて座るように促される。電車の屋根の上で手を繋いで景色を眺めた。
シソは私の肩からさっと飛び降りると、クレンと安定のバトルを始めていた。
いつもの光景だから、電車の上だとしても、もう驚かなくなった。
「この手、いつ離れるんでしょうね?」
恥ずかしいこんな状況、慣れるはずがない。
体育座りをして、顔を膝の間にうずめる。
「でも、私を電車の上に連れ出してくれてよかったです。友人とはいえ、恥ずかしがっている所をずっと見られるのは辛いので」
恥ずかしさを紛らわすために、ちょこちょこ話を続ける私。
でも王子はとてもゆったりとしている。
緊張している様子はない。
王子は女子に人気があるから、こう言う状況でも全然緊張しないんだろうな。
私との違いを思い知る。
手を繋ぐことが普通にできてしまうんだな。
これまでいろんな女の子と、こうゆうことしてきたことを証明してるよね。
私も、モテモテの王子と手がつなげてラッキーと思うことにしよう!と自分の中で完結する。
私の顔を見て王子が言う。
「君の顔はコロコロ変わって面白いね。何を考えているか何となく想像がつくよ。」
「そうやって余裕こいてるのが嫌なんですよね」
ボソッと心の声が漏れたわたしは慌てて訂正しようとする。
「いや、余裕こいてるというのは言葉のあやで…わたしばっかり緊張してて嫌だなって意味でした。」
「そっか、君には僕が余裕そうに見えているんだね。」
そう言って微笑みかけてくる。彼が何を考えているのか、わたしには全くわからない。
この年で女たらしとは、先がおもいやられるな。
「あ!そうだ、みんなの様子を見てみようよ」
そう言って王子が魔法を使うと2人の目の前に丸い鏡のようなものが現れた。
その中には電車内の様子が見える。
イッキーたちのイタズラはまだ続いているみたいで、生徒たちがそれぞれやらかしている。
普段静かな生徒2人が急に漫才を始めて、みんなを笑いの渦に巻き込んでいる。
私たちもその光景見て、本当に笑った。
笑いのツボが一緒だった時は、お互いに見合って、それが面白くてまた笑ってしまう。
「さあ、そろそろ打ち解けてきた?」
「打ち解けてきたとは?」
「僕に対して、まだ緊張してる?」
「前よりは打ち解けてきてると思います。」
「僕さ、敬語って実はあまり好きではないんだよね。これまで鍛錬も一緒にしたりしてるし、これからも何か縁がありそうだから、よかったらタメ口で話してくれないかな?」
「うん…わかった。でも…わたしだけタメ口だとなんで?ってなっちゃうと思うから、わたしの友達もタメ口でソランティア様に話すのでもいい?」
「もちろんいいよ、大歓迎さ。さあ、そろそろ僕たちも電車に戻ろうか。あと30分くらいで着くみたいだよ。君は優秀な魔女みたいだから、これからイッキーのイタズラを止めに行ってくれないか?」
え?イッキーのイタズラは止められるの?
頭の中でいろんな疑問が浮かぶ。
カリンダとグリンディーン様は同じことを互いにしたけれど、する必要がなかったってこと?
私たちのこの繋いだ手もすぐに解除できたってこと?
ん?ん?んー???
「じゃあ、なんでわたしたちは手を繋いだままなんでしょう?どうやって解除するんですか?」
「あ、また敬語に戻ってるよ。タメ口でしょ?」
あ、そうだった、タメ口だった。
「僕たちが手を繋いで離れなくなったのはイッキーのイタズラ。ずっと手を繋ぎ続けたのは僕のイタズラだよ」
そう言って、悪戯っぽく片目を細めて笑いながら、王子の爆弾発言が飛び出した。
みるといつのまにか手も離れていた。
「あれ?手が離れてる?いつの間に?どうやって解除したの?」
私が戸惑っている姿を見て、優しく笑う王子。
こういうところに惹かれて、みんな好きになっちゃうんだろうな〜と客観的に見ているわたしがいる。
でも、わたしは違うの!
この裏表のある王子になんて、だまされないんだから!
しかも、最初から解除する方法がわかってたの?
もしかして、わたしのことバカにしてる?とだんだんイライラしてきた。
でも、あの笑顔を見たら、怒る気も抜けちゃった。
……って、何で私が負けた気になってるの!?
相手はただの王子様、ちょっとイタズラが過ぎるだけの人!そう、自分に言い聞かせる。




