9-2.
アイドルのパフォーマンスで盛り上がった会場の光がすっと消えていく。
ステージにうっすらと一人の人影が浮かび上がる。
ソランティア王子の生歌が始まった。
会場がわぁとざわめく。
街中ではすっかり有名になった曲だ。
今行われている演奏では、歌い手の素性がわからないようになっていて、ソランティア王子だと知らない人も多い。
あの青春祭でも思ったが、なんて甘く響くいい声なんだろう。
多くの令嬢が惚れてしまうのは確実ではないか。
青春祭のときの映像や華やかな演出はないが、歌に合わせて色を変えながらクリスタルシャワーが降り注いでいる。
-----
あの日 恋に落ちること
誰が想像していただろう
君の瞳に映し出された僕自身は
時が止まってしまったかのように見えた
恋に落ちる音をきいた気がした
ああ これが恋に落ちた瞬間だ
-----
この歌を聴いていると、青春祭のときのパフォーマンスがありありと浮かんでくる。
木陰で腰掛けているシーン。
男の子の瞳がキラキラしていて、熱を帯びているのを感じさせる映像を思い出す。
-----
あの日 ここで出会うこと
誰が設定したのだろう
君の瞳をとらえたあとの僕自身は
想いは変わらず持ち続けたままなんだ
この恋に抗うことはできない
ああ これが恋をしている瞬間だ
-----
最近の出来事がシンクロしてくる。
ソランティア王子と一緒に実家へいき、木陰で過ごした時のことを。
わたしの瞳を誉めてくれたことが、嬉し恥ずかしくて…
腕を掴まれて、彼に見つめられた時を思い出して、また顔が赤くなってきてる気がする。
3曲目が始まった。
まるで宇宙の中にいるような暗さになり、クリスタルシャワーが夜空に輝く星のようにキラキラしている。
演出も相まって、より刹那さを感じる。
-----
期間限定の恋だと
すぐにやめられる恋だと思ってた
自分に言い聞かせてきた
僕の思いを知ったら
きっと困らせちゃうんだろうな
最初からわかってたんだ
それでも今この瞬間を大切にしたいんだ
仕草 声 姿 君のすべてが
脳裏から離れなくて
「頭に浮かんだ2文字を
君に伝えられたらいいのに」
-----
まるで、わたしの心の奥を覗かれていたみたいだった。
恋心を押し込めてきた蓋が、歌の力でこじ開けられたみたいに。
だって、この3曲目はまさに今のわたしだから。
多分ほんとうは、自分の気持ちがわかってた。
でも気づかないフリしてたし、鈍感なフリしてた。
市民のわたしと、王族の彼はあまりにも違いすぎる。
学校では同じ学舎の生徒として、卒業したら騎士団の仲間として働くだけだと思っていた。そ
れ以上でも以下でもない。
そして、私は騎士団ではなく教師になることを決めた。
聖獣が番になったのに、一緒に助け合うという道を放棄してしまった。
王子とはこれから、ますます接点がなくなることに急に悲しさが来上げる。
こんなことなら、最初から出会わなければ良かったのかな…
だけど、そんなの無理だ。
彼の声も、まなざしも、記憶の中から消えるはずがない。
出会ってしまったから、もう戻れない。
ほんとうに、歌詞の通りだ。
「頭に浮かんだ2文字を
君に伝えられたらいいのに」
この歌詞はわたしの想いを代弁している…
なんて切ない気持ちになるのかな…
生まれてきて今まで、こんなに切なさを感じたことはなかった。
わたしの恋は始まった瞬間から、痛みを伴うものだったんだ。
この曲がわたしの心に響いて、苦しくて仕方ない。
期間限定で楽しむ余裕なんて、今のわたしにはないよ…
自分の気持ちを知った今、苦しくて切なくて…どうしたらいいかわからない。
涙が目いっぱいに溜まって今にも溢れそう。
彼の生歌は続いていく。
歌詞の一つ一つが響いて、胸がいっぱいになる。
ソランティア王子は、どうやってこの歌を考えたのかな…
誰を思って、この歌を書いたのかな…
もし、これが――私のことだったら?
一瞬でも、そんなふうに思ってしまう自分がいる。
でも、それはきっと、叶わない願いなんだ。
わたしの届かない思いが、行き場をなくして会場に漂うようだった。




