8-4.
「……愛が、ほしかったんだ。」
その声は風のように静かで、でも確かに私の心に届いた。
「安心感、ぬくもり、やさしい光……」
魔物の輪郭がゆっくりと溶けていく。
怒りも苦しみも、すべてを抱え込んだ影が、淡い金色の光へと変わり、ふわりと空へと昇っていった。
「いま、すごく……幸せだよ。ありがとう」
それは、魔物の中に取り込まれていた“もうひとつの魂”――
孤独な少年の、救われた心の声だったのかもしれない。
そう言って何かが天に上り、昇華されていく。
わたしは今、何を感じているのだろう。身体の感覚も、名前すらも思い出せない。
ただ意識だけが、ここにぽつんと浮かんでいるような……そんな感覚だった。
わたしも上に登りたい。光のある方へ。
すると、後ろからハッキリとした声が聞こえる。
「あなたの行く道はこちらですよ。」
優しい声が聞こえた。
見ると、金色に輝く女性が前に立っていた。
「よくやってくれましたね。あなたはこの世界を救ってくれたのです。」
自分の体を見ようとしたけれど、そこにあるのは、淡く輝くひとつの光。
私は今、形を持たない存在、純粋な意識とエネルギーだけになっていた。
「ここはどこですか?私は…死んでしまったのですか?」
「あなたは死んでもいないし、生きてもいない。生死の狭間にいます。大切な人を想うあなたの強い気持ちが、この狭間の世界にあなたを繋ぎ止めたのです。」
「よかった。死んでいないのですね。でも、じゃあどうやって生の世界に戻ることができますか?」
「そう焦ってはいけません。わたしはあなたに伝えなければいけないことがあります。」
目の前の女性が優しく微笑む。
ここは、とても暖かくて安心感のあるエネルギーに満ちている。
「あなたが対峙した魔物は、孤独な少年と邪悪な魔物のエネルギーが共鳴し、合体したようです。その少年の傷ついた心があなたの光に包み込まれて浄化されたのです。戦うのではなく、受け入れるという、愛と調和のエネルギーが闇を包み込んだのです。」
女神のような存在の言葉は、ひとつひとつが重く、尊く、心の奥へ静かに降り積もっていくようだった。
すべてをすぐには理解できなくても、魂は確かに受け取っていた。
「あなたはこれからやらなければいけないことがあります。これからは戦うのでなくて、愛と調和の世界をつくるのです。魔物は敵ではありません。」
「魔物と戦って打ち負かすことで、次の憎しみ、争いの種となってしまいます。これからは戦うのではなく、魔物を浄化し、癒していくという社会へ変えていく役目をあなたは担っています。」
女神のようなその存在は、ゆっくりと歩み寄ると、優しく手をかざして光の存在のわたしに触れた。
「あなたが選んだ“受け入れる”という行為が、光をもたらしました。 それは、これからの時代を照らす最初の灯火になるでしょう」
「争いではなく、愛と調和で癒す世界。あなたの歩みが、その道を創るのです」
その言葉が心に深く染み渡り、胸の奥があたたかくなった。
まるで、この世界そのものが祝福してくれているようだった。
私にそんな大きな役目があるなんて……。
でも、どうやって?
もっと知りたい。
心の中でそう願ったそのとき——
「さあ、そろそろ時間です。あなたの大切な人も、一命をとりとめましたよ。二人でしっかり愛を育んでいくのですよ」
女神の声は、次第に遠ざかっていく。
金の光がやさしく私を包み、ゆっくりと、まどろみの中へと引き込んでいった。
「……わたし、戻れるんだね」
最後の意識のなかで、王子の名を心の中で呼んだ。
そして私は——眠りの底へと、静かに落ちていった。




