5-3.
……わたしは、今、どこにいるの?
光がまぶしくて、目が開けられない。
——寝てた?
意識がぼんやりしていて、頭も体も重たい。
わたしの意識が浮かび上がってきた。
つむっている目の隙間からだんだん光が感じられるようになってきた。
少しずつ目を開けると、ベットの脇には、なんと両親の姿があった。
「マミーナ!マミーナが目を覚ましたぞ!」
お父さんとお母さんが抱き合って涙を流している。
お父さんは知らせに行かないと!と急ぎすぎて足がこんがらがりながら部屋を飛び出して行った。
お母さんがわたしの目を見つめ、手を握りながら
「目が覚めてよかった」
と嬉し泣いている。
どうやらわたしはかなりの間寝ていたらしい。
それは心配するよね、と自分でも納得だった。
まだ目が覚めたばかりだからと、たくさんの人が訪れることはなかった。
最初にやってきたのは騎士団長で、何が起きたのかを説明してくれた。
「君が呪いを解くために魔法陣を展開していた時のことだ。最初は紫の光だったのが、いつの間にか白い光に変わった。」
わたしは目を見開いた。
「白い光?」
「そうだ。その光があまりに眩しくて、周りにいたみんなは一斉に床に倒れてしまった。」
「えっ、みんな?」
思わず声が震えた。
「君だけが最後まで倒れずにいたわけじゃない。君もその後、気を失った。」
不安が胸に広がった。
「その後みんなが次々に目を覚ました。驚いたことに、王子の呪いは消えて、怪我もほとんど治っていた。つまり、君の魔法が確かに効果を発揮したんだ。」
「そうなんですね…でも、わたしはずっと意識がなくて…」
「だから心配だった。君が長く眠っていた間、ここでできる限りの治癒魔法はかけたが、目を覚ますのを待つしかなかった。」
わたしは息を呑んだ。「わたしはどれくらい眠っていたのでしょうか?」
騎士団長は少し間を置いてから答えた。
「一ヶ月だ。」
「一ヶ月も…!」
驚きで体が震えた。
「しかも魔力量は、枯渇どころかむしろ満ちていた。」
「不思議ですね…」
あれだけの呪いを解いたのに——信じられなかった。
「そう。今回の呪いには、魔物の魔力が混じっていた。騎士団では今、その調査を進めている。」
わたしは1番安全な王城に移され、一ヶ月間寝ている間に、魔力量を調べたり、異常がないか確認してもらったそうだ。
確かに言われてみれば、わたしの中の何かが、目覚めた気がする…
でもまだよくわからない。
ソランティア王子はというと、最近は王城図書館にこもりっきりだそうだ。
古代文字の専門家とともに、熱心に調べ物をしていると聞いた。
団長が説明していると、バシッと音がして、転移魔法の光が弾けた。
光が消えると、そこには
——ソランティア王子の姿があった。
彼と目が合った瞬間、その瞳の奥で、光がぐっと強くなった気がした。
「目が覚めてよかった」
王子の泣きそうな声がわたしの耳に響いた。
そう言って私のベットのそばへ来ると、膝をつき、ベットに両肘をついてわたしの手をとった。
わたしの右手を両手で包み込み、その手で彼の額を支えている。
安堵のエネルギーが伝わり、わたしも嬉しくなる。
「君が僕の命を助けてくれたんだ。本当にありがとう」
「あなたの命が助かってよかった」
すっと自然と出てきた言葉だった。
彼の命を助けたくて無我夢中だった。
そんな彼が今、目の前にいる。
ああ、よかった。
本当によかった。
「体調はどう?」
「今のところ、大丈夫そう」
わたしは王子に心配をかけたくなくて、にっと笑顔を向けた。
そうか、よかったと安堵した王子が言葉を続けた。
「僕が呪いで倒れた後、実はあまり記憶がなくてね。すごく苦しくて、どんどん生命力が小さくなっていくのを感じたんだ。」
王子はその時を思い出すかのように、遠くを見ながら話し続ける。
「途中で……体の奥のほうに、小さな光が見えて……。でも、どうしても掴めなくて……。
この光を掴まなければ、死ぬ——そう、直感したんだ。」
絞り出すように声を出す王子の姿をみて胸がぎゅっと掴まれたような気分だった。
「そういうことが起きてたんだ…」
王子が苦しんでいた状況や意識が、ありありと伝わってきて、わたしも苦しくなる。
「でも、生きることを諦めたくなくて絶対に光を掴むぞと決めて手を伸ばしたんだ。やっと光を手で掴むことが出来た時、光はすごく熱く感じたよ。そのあとは体全体がすっごく暖かいエネルギーに包まれたんだ。」
わたしは王子の身に起きたことに耳を傾け続けた。
「そして目が覚めたら僕はベットの上で寝ていて、体も楽だった。ほとんど治癒されていた。みんなはなぜか床に倒れていたんだ。」
「わたしも同じ!光をつかみたくて、でもつかめなくて。魔力を集中して意識を下げて行ったら、その白い光を掴むことができたんだけどそこから覚えてないの。」
「そうだったのか…」
そういってソランティア王子は少し考え込む。
「とにかく、今は目が覚めたばっかりだ。ゆっくり休んでくれ。疲れているだろうから、僕はもういくよ。」
そう言って王子はすぐに部屋から出て行った。
「ソランティア王子は、倒れた後、君のことをずっと診てくれていたんだ。」
王子が出て行った後、騎士団長が教えてくれた。
「ソランティア王子自身も回復したばかりなのに、飲食も睡眠も忘れてつきっきりなもんだから、君から引き剥がすのに苦労したよ。」
「そうだったんですね…」
部屋に残ったぬくもりと、王子の匂い。
わたしの右手には、まだ彼の温もりが残っていた。
ありがとう、と伝えたかった。
今度はちゃんと、自分の言葉で——。




