3-9.
「クレン、ありがとう」
そう言ってクレンを戻そうとしたが、
「シソも出てこよっか」
と、わたしはシソを召喚して出してあげた。
クレンとシソはいつもなら、どちらが一本取るかのバトルが始まるのに、今日はキャンドルナイトだからか、シソとクレンはお互いをただ静かに見つめていた。
キャンドルナイトってわかってるからかな?
キャンドルナイトのイベントを上から眺める形になり、「きれい」と自然と言葉がもれる。
たくさんの人がイベント会場にいるし、屋上や学校の公園内など、他にも集まっている場所がある。
一人一人がキャンドルを持っていて、その光がキラキラ光っている。
その景色を一望できる場所に私たちはいた。
「ところで、ソランティア様のパフォーマンス、素敵だったよ!初めて歌声を聞いて、意外だった」
「僕も作詞作曲して歌ったのは初めてだったよ」
あの3曲が、王子の作詞作曲だったと知って驚く。
言葉選び、メロディが、王子から生み出されたものだったとは。
才能ありすぎでしょ!と思った。
「自分で作った歌だったんだ。すごい!映像も演出もとっても素敵だったよ」
「準備にとにかく時間がかかってさ、間に合わないかもと思ってずっとエントリーしてなかったんだよね。だから、今朝になってエントリーしたんだ。なんとか間に合って良かったよ。」
いつもは一言多かったり、余裕ある感じにイラッとすることがあるのに、今日はなんだか王子と普通に話せてるな。
「ソランティア様も恋するんだね。」
しみじみと言った。
だって、歌詞の内容が、普通の男の子の心情みたいで、あまりにもリアルで、わたしのソランティア様のイメージと違ったから。
「ははは」
苦笑いをする彼。
否定も肯定もせず、そのままキャンドルナイトを見つめている。
「実はさ、来週からラングリンド王国へ留学へ行くんだ。僕はラングリンド王国の王女と婚約してて、そこへ留学へ行く感じかな。」
王子が留学に行くことを告げられた瞬間、胸がキュッと締め付けられた。
でも、それを顔には出せなかった。
キャンドルの炎が遠くて揺れているのを感じる。
「……婚約してたの?知らなかった…」
「僕は第二王子だからね。婚約も最近決まったんだ。隣国の王女との結婚で、国同士の関係を良好にできるからね。といっても、まあ、僕は人質みたいなものだと思ってる。」
キャンドルの光を見つめている王子の横顔が、どこか遠くを見ているような感じがした。
「どうして?ラングリンド王国は危険なところなの?」
「危険なところじゃない。素敵な国だよ。ただ、やはり自国ではないから何があるかわからないし、自分は自分で守らないといけないと思う。」
いつもは余裕そうに見える彼の声が、少しだけ遠く感じた。
「そうだよね、自分の国で生活するのとは違うよね。」
「そうなんだ。でも、ラングリンド王国へ行ったら、向こうの魔法学校へ転入するから学びは続けられる。ラングリンド王国の隣のバレンシャン王国は軍事力があって、少々威圧的な国だ。ラングリンド王国はその勢力に対抗するために軍事にも力を入れている。向こうでは攻撃魔法についてより学べるいい環境だと思ってる。護衛のグリンディーンもいくから、その点は心強いよ。」
今更ながら、王子であるという彼の立場の重みを感じる。
婚約者がいて、国同士の関係性のために留学に行く。
わたしには想像できない世界だ。
一般市民のわたしが魔法学校で偶然王子と知り合って、こうやって話せる仲になったことが不思議に思える。
「来週から行くんだね。それにしても急だね。どのくらいの期間行くの?」
最近は朝の鍛錬をよく一緒にしてたから、それがなくなることが想像できない。
あ、シソとクレンはお互いに離れ離れになるってわかってるのかな?
だから今日はバトルしないの?
もしかして、知らないのはわたしだけだったのか。
「本当は夏休み明けの学期始まりから一年間行く予定だったんだ。でも、僕が青春祭にどうしても出たかったから、数週間だけ遅らせてもらった。留学は夏休み前までだから、約一年間かな。」
約一年。
長いのかな、短いのかな?
冬休みや春休みは帰省するみたいだけど、王子だから市民のわたしとは会えるわけないし。
いやいや、会いたいってことじゃないけど、やっぱり少し寂しくなるのかな?
と思ったり…
心の中がぐるぐるしてきた…!
「そろそろキャンドルを飛ばす時間だね。」
そう言って私たちのキャンドルに火を灯す。
そう言えば、キャンドルを一緒にあげると2人は結ばれるってジンクスがあったな。
わたしと王子は友人としてだから、別に何もないよねと軽く考えていた。
みんなが一斉にキャンドルを夜空へ放つ。
ゆるゆると風にゆれながら飛んでいくキャンドルを見ていた。
このまま時間が止まればいいのに。
と一瞬わたしの心に浮かんだけれど、この思いは秘めておこう。
キャンドルの小さな火が闇を切り裂くように揺れて、まるで私たちの未来を照らしているみたいだった。
切ない回でしたね。
書きながら、わたしも余韻に浸ってしまいました。




