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転生令嬢は精霊に愛されて最強です……だけど普通に恋したい! 【番外編】   作者: 風間レイ


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妖精姫はキューピッド  1

 結婚まで五か月に迫った今日、私はキースの領地に建てた大型商業施設の最終チェックに出かけた。

 ここまで形が出来上がってオープンまでの予定がはっきりすると、感慨深いものがあるわね。

 でもこれだけ大きな事業になると、様々な分野の専門家を集めたプロジェクトチームを作り、いろんなことが平行に進行しているせいで、自分がオーナーの店という実感はあまりない。


 そりゃね、結婚式があるっていうのに高級温泉ホテルまで手掛けて、同時に大型商業施設まで全部把握するなんて無理ってもんよ。我ながら無茶をしたと思うわ。

 把握出来たとしても、ルフタネン貴族が好みそうなデザインの内装にするなんて、センスのない私には無理な話だし、ひとりでどうこうできる規模じゃない。


 最終決定は私がする以上、私だってオーナーとして出来る限りのことをしたわよ。

 プロジェクトメンバー全員と個別に話す機会を設けたし、出店してもらう相手にも私が出向いて説明をさせてもらった。


 どういう店にするかという企画書は作れるのよ。

 それを説明して、相手を納得させるのも得意よ。

 そこまではしっかりとやらせてもらって、おセンスが重要なところはカミルに任せるのは適材適所でしょ?

 それにカミルが中心になって人材を集めたおかげで、やはりイースディル公爵が中心で事業を行っているんだという話が広まったのもよかったんじゃない?


「素晴らしいわ。照明もいい感じね」


 センスはなくても、こんな店にしたいという大雑把な希望はあったので、それは最初の会議でみんなに説明した。イラスト付きで。

 同人で培った画力が、こんなところでも役に立つとはね。


 こうして出来上がった店舗を見て回って、イラストに沿ったデザインがされているのを見ると嬉しくなるものよ。

 カミルやキース、ネリーにまでダメ出しをされて何度描き直したことか。


 絵が描けるということがばれてしまって、ネリーには疑いのまなざしを向けられたけど、カミルたちはエルダの小説は知らないから大丈夫……大丈夫よね? 

 今になってちょっと心配になってきたわ。


「こちらがレストランエリアになります。向こう側の窓からは街を見下ろせますので、昼も夜も景色を眺めながら食事が出来ます」


 支配人は王宮の運営にも(たずさ)わっていたことのある実力者だ。

 裏方なので目立たないけど、あのどでかい王宮を維持するために働いている人間を取りまとめていた人の中のひとりだからね。

 大型商業施設なんて、王宮に比べたら小さい小さい。


 支配人の説明を聞きながら周囲を見回している私の後ろでは、ファースが企画書などをチェックしている。

 商業施設のほうは彼が、温泉ホテルのほうはケイトが私への報告の窓口になっているので、現場の人と直接やり取りする機会が一番多いのは彼らだ。

 カミルもキースも私も忙しくてね。

 ふたりが仕事の出来る人で助かっているわ。


「いいわね。バックヤードも見たいわ。従業員が気持ちよく働けるように、そちらも手を抜くつもりはないわよ」

「ここだけの話ですが、王宮よりも待遇がよろしいので不満なんて出るわけがありません。食堂も休憩室も非常に使いやすく出来ております。どうぞ、こちらのドアから従業員用の通路にはいれます」


 ホテルも商業施設も、客用の部分と従業員しか使わない部分では別の建物みたいに違うものだ。

 予算の問題だけじゃなくて、従業員用の通路や仕事場は、壁も床も耐久性の優れた素材を選ばないといけないし、装飾の出っ張りに引っかかって転倒するような事故があっても困るからシンプルにしなくてはいけない。

 でもだからって天井から床までグレーの場所ばかりじゃ、気分まで暗くなるでしょう。


 その分食堂は明るく、窓から日差しが降り注ぐカフェテリアのような造りにして、休憩所には中庭の見える広いテラスを作ったの。

 クッションをたくさん置いて、仮眠だってとれるようにした。

 お客様用のテラスよりは見える風景は劣るかもしれないけど、休憩中くらい外の風にあたって気分転換して、また頑張って働いてもらいたいじゃない?


 もちろん給料だってかなりいい。

 ただしその分規約は厳しく、問題があればすぐにクビになる。

 相手は貴族。手を抜くことは許されないわ。

 他所の国からくるお客様もいるのだから、プロ意識を持ってもらわないとね。


「問題ないようですね。従業員の人達も顔つきが明るくて安心しました」

「これだけいい待遇で働けるのですから、皆がやる気に満ちているのですよ」


 今はね、夢いっぱいだろうけど現実はそう甘くない。

 我儘な貴族はたくさんいるから、接客で嫌な気分になることもあるだろう。

 貴族よりも出店している店の関係者のほうが、態度が大きいこともあり得るわよ。

 ルフタネンの貴族って細かいことを気にしない人が多いけど、平民で実力で金持ちになった人や、店が成功しているデザイナーのほうが威張り散らすこともあるから。


「従業員に無理難題を押し付けるような失礼な態度を取る人がいた場合、相手の立場に関係なく報告してね。私の店の人間を傷つける人はすぐに出禁よ。その分、従業員たちにもしっかりしてもらわないとね」

「かしこまりました」


 大勢の従業員に見送られて、私はすぐ近くにある新しいオフィスに向かった。

 大型商業施設と温泉ホテルを経営するにあたって、近くに拠点を作るのは前から考えていたのよ。

 どちらの建物内にも部屋はあるんだけど、私やカミルが顔を出すと働いている人たちが緊張しちゃうし、精霊王が遊びに来ちゃう。

 あの人たち、平気で従業員用の食堂にも顔を出して、大騒ぎになったこともあってね、オープンしてからもこれでは困ると支配人が必死の形相でたのんできたのよ。


 商業施設とホテルのちょうど中間あたり、宿泊客が通る道からははずれた見晴らしのいい場所にオフィスの建物はある。

 広い庭と大きなテラスのあるルフタネン様式の建物で、貴族の屋敷にしか見えないんだけど、中は部署ごとに分かれた大きな部屋ばかりが並んでいる。


 そしてこの屋敷の隣には、キースの新しい屋敷が建てられたのよ。

 隣って言っても、こっちには倉庫や従業員用の宿舎なんかも建っているから距離はあるんだけどね、キースもようやく自分の領地に拠点を持ったことになる。それもかなり本格的に。


 今までは寝に帰るだけのタウンハウスに暮らしていたのが、そちらは引き払って、使用人を全員連れてこちらに引っ越したんだから驚きよ。

 転移魔法という便利な物があるんだから最初からそうすればよかったのに。

 幼少の頃から王子であるカミルの側近をして溜め込んでいたお金を、ここで初めて有効に活用したんだね。


 北島の建物によく見られるオレンジ色の屋根と白い壁、そしてテラスがいくつもある素敵な屋敷が完成した時の使用人たちの嬉しそうな顔を見て、さすがにキースも今まで私生活を適当にしすぎたと反省したらしいよ。

 彼の両親であるハルレ伯爵夫妻なんて、カミルの手を握りしめて感謝の言葉を何度も言っていた。


 でももう少しこの建物と離してもよかったんじゃない? 土地は余っているんだからさ。

 そんなにカミルが好きか?

 子爵になったんだから、側近の仕事の比重をもう少し減らしてもいいのよ?


「おかえりなさいませ。いかがでしたか?」


 ファースとケイトは最近は毎日ここで仕事をしていて、イースディル商会のほうに顔を出すことはほとんどなくなった。

 カミルもキースも週に一回くらいはこちらに来るので、会わないってわけではないんだけど、どんどん関係性が変化しているのよね。


 特にキースとファース。

 ファースはもうすっかり私の部下になってしまっているので、キースとの関わりがない。

 幼少の頃からの微妙な距離感が埋まらないまま離れてしまって、仕事がやりにくくなるんじゃないかなってちょっと心配していた。

 でもね、自分の父親じゃなくて私の部下になったおかげでわだかまりが消えたのか、ふたりには今の距離感がよかったのか、前より普通に接しているみたい。


 仲良くはなっていないけどね。

 男同士の距離感って、私にはよくわからないわ。


「ディアの思っていたのと違う部分はなかったのか? 妥協する必要はないんだぞ」


 週の半分はルフタネンにいる私だけど、オープンが近づくにつれて仕事が増えて、ほとんどの時間をここで過ごすようになっている。

 そうなるとただでさえ忙しくてすれ違いになる日が多いからと、時間が出来た時にはカミルもこちらに顔を出すようになって、仕事をこちらでやる時間が増えたから、イースディル商会の人達は商会の建物とここを、転移魔法で行ったり来たりしているわ。

 結婚式が終わってルフタネンで生活するまでは、迷惑をかけてしまうわね。


「大丈夫よ、カミル。とっても満足しているの。オープンが楽しみ」

「それならよかった」

「ディアドラ様、こちらがホテルの決算書です。確認をお願いします」

「はーい」


 ケイトに渡された書類は、今はそのまま机の上に置いた。

 お茶を飲んで糖分を摂取して、頭をすっきりさせてから見るわ。


「私は必要な雑貨を受け取りに行ってまいります」

「届けさせればいいのに」

「細かい物をいくつか選んで注文したいんです。今日はそのまま帰宅しますね」

「わかったわ。護衛をちゃんと連れて行くのよ。精霊車も商会のを使ってね」

「あの……私にふたりも護衛は必要ないのではないですか?」


 ケイトが出かける準備を始めたのに気付いて、侍女のひとりが護衛の騎士に知らせに行くのを目で追い、ケイトはおずおずと遠慮がちに言った。


「必要ないと本当に思うのか?」


 冷ややかに言ったのは、三人掛けのソファーを占領して横になっていたカミルだ。

 お疲れのようだから今日くらいは自分の部屋で休んでいればいいのに、少しの時間でも会いに来てくれるのは嬉しいけど心配よ。

 愛想が悪いのも疲労のせいなんじゃないの?


「カミル、言い方」


 睨みながら低い声で言わないの。

 ケイトはまだ急激な環境の変化に慣れていないのよ。


「ケイト。きみは自分のしている仕事の重要性をもう少し理解しなくちゃいけない」


 カミルを横目で睨んでから、キースが急いで立ち上がりケイトの隣に向かった。


「きみの頭の中には外部に漏れたら困る情報がたくさんあるんだ。それにきみが誘拐されたり傷つけられたら、僕たちがどれほど後悔するか考えてくれ。僕はコンロン男爵にきみに危険がないようにすると約束しているんだ」

「……はい」

「きみに何かあったらディアが悲しむ。それだけでも護衛を外すことはありえない」

「カミル! ケイトは大事なスタッフなの」


 思わずクッションで寝ているカミルのお腹をべしべし叩いてしまったわ。


「キースもよ! 情報とか約束とかがなくたって、ケイトには安全でいてほしいでしょ!」

「もちろんです。出来れば僕がついて行きたいくらいだ」


 え? キースとケイトの距離感ってどうなっているの?



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