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198,内部世界

 魔神に飲み込まれる直前、フェルノは全身を魔力で覆いつくしていた。


 そのまま、ぽんと真っ白い空間に押し出される。


 体を圧縮される感覚もなけば、押し倒される感覚もない。ただ窓辺にいた姿のまま、ぽつんと取り残されたように佇む。


 しゃがみ込んだ態勢で、眼球だけ動かし周囲を伺うフェルノ。


(ここは、どこだ)


 身体を覆いつくす魔力は維持し、警戒しながら立ち上がる。

 魔物の体内にある異空間となれば、一つしか思いつかない。


(魔物の核を収める空間か。体を魔力で覆いつくしたから、侵入してしまったのだろうか。だとしたら、また妙な世界に飛ばされたものだね)


 フェルノはくすりと笑む。


 ライオットを通貫し、アノンの衣類を貫いた毛先が何かに巻きついて球体になった。アノンがポケットに忍ばせている品で、魔神が求める物など一つしか思いつかない。


(アノンは魔神の核を持っていたのか。しかし、どこで、手に入れたんだ?)


 砂漠で魔神と対峙し、遺跡にも赴いている。フェルノの知らないところで接触しているとは考えられた。なぜを考えても詮無いこと。

 目の前で、魔神の毛先と魔神の核は接触し、一つの物体を形成したことは事実なのだ。


 ライオットも心配だが、今はそれどころではない。彼の周囲には魔女も姉妹もいた。彼らなら癒すことができる。方やフェルノは一人だ。自力でこの状況を突破せねばならない。


(さて、どうしようかな)


 上を見れば際限なく高い。空はなく、白い空間が広がる。

 下を見れば、ガラスの上に立っているかと錯覚する。足裏は地についているのに、どこまでも白い。


 フェルノは、歩き始めた。

 警戒しようにも、なにもなさすぎる。


(気配さえないねえ)


 数歩あるいて止まる。腕を組んだ。


(これは、困ったぞ。闇雲に歩いても、迷子になってしまうな)


 片手をあげ、頬に添える。


(魔神の体内にある魔物の核を収納する体内の異空間なら核があるはず。その核を破壊すれば、魔神は死ぬとは、考えられないだろうか。この空間に潜む魔神の核を破壊すれば……、魔神を殺せる?)


 天を仰ぐ。


(どうやって、魔神の核を探す?)









 リオンとライオットは森を見据えて、立っていた。

 木々がざわざわと揺れており、軽い地響きも伝わってくる。空に向かって揺らぐ尾は、徐々に近づいてくる。


「魔神に取り込まれたフェルノをどうやって見つけるかだよな」


 ライオットが呟くと、リオンの手の甲が二の腕に触れた。


「どうした? リオン」


(時よとまれ)とリオンが願う。すぐさま時空間が静止した。

 突然、青白い空間に包まれ、ライオットがキョロキョロする。


「なんだ、これ」

「異世界で得た力が生きているようだな」

「時間を止める力か!」

「ああ」

「なら、俺の内部を透かし見る力も残っているのか」


 ライオットは手を見つめる。


(フェルノの居場所を探せるかもしれない)


「リオン、悪い」


 ライオットは腕に触れる側のリオンの手首を掴んだ。


(見たい)


 そう願うなり、リオンの身体内部に視界が変わる。すぐさま皮下を透かし筋肉、内臓と景色が進む。筋肉や内臓にも細く黒い筋が網目状に張り巡らされていた。

 使い過ぎは禁物だとライオットは手を離す。景色が逆回転して元へと戻った。


 ライオットはぐっと手を握った。


「魔神に触れたらフェルノの位置が見える。そこを切って、フェルノを引っ張り出すぞ」

「俺が尾を制して、魔神の動きを止めるか……」


 リオンの視線が斜め上に流れて、静止した。


「どうした、リオン」

「この力、同時に使えるな……」

「そうだな」

「魔神の姿が見えて、俺が時間を止めた状態でも……」

「でもさ、使いすぎたら眠くなるんだろ。俺だって見えなくなるんだぞ」

「多用はできなくとも、魔神にギリギリまで近づけば……」

「フェルノを助けて終わりってわけじゃない。むしろ、フェルノを助けてからが本番だ。その時に、リオンも俺も戦えない状態だったらまずいだろ」

「そうだな」

「でもさ、魔神に近づいて、好機ってときは、良い手段だよな」


 ライオットはにっと笑った。

 リオンも軽く笑む。


(ライオットも変わったな)


 尾の付け根を凍結するために先陣を切る時も自らの考えを率先して表明した。今も、能力を使うリスクと、その後の戦局を考えている。

 異世界での経験は血肉となり、ライオットの成長を促したとリオンは純粋に感じていた。


 ライオットは自身を弱いと勘違いしている。前々から決して弱いわけではない、とリオンは認めていた。

 周囲に強い者が多くて、弱さが目につくことは仕方ない。思慮深さなどを思えば、リオンより、ずっと上官向きで人を束ねる力もありそうに見えていた。


(口の悪い護衛の魔法使いが、弱いくせにと目で連呼していたせいもあったかもな……)


 リオンが手を離すと、時間が動き出す。


 目的は一つ。

((フェルノを助ける!))

 二人は、意志をかため、樹海を真顔で睨んだ。


 荒れ地の際に生える樹木が揺さぶられる。強風が吹いていないのに、ざわざわと葉や枝がこすりあう。


 樹木の間から魔神が顔を出す。元の大きさよりは小さくなっているものの、異世界で見た姿そのままだった。


(大きさは戻っていなくても、こんな短時間でここまで再生するのか)


 リキッドから毛玉になって飛んでいったという話を聞いていたライオットは魔神の回復速度を苦々しく感じる。


 魔神はライオットとリオンの姿を見つけたのか、荒れ地に踏み出そうとした一歩を、一瞬、空中で止めた。

 魔神にとって二人は忌々しい見知った人間だ。怒りの琴線に触れたのか、踏み出した足で地を踏み叩いた。


 ライオットは槍を構え、重心を落とす。

 リオンは剣を抜き、諸手で柄を掴む。



 魔神は荒れ地に立つ。引き返してきたのは、元の身体がどうなっているのか確認するためであった。さわさわと尾をしならせる。尾の芯は柔軟性を持ちながら、硬化もする。柔らかい毛まで、意志を通わせ、針金か金属のように固くもなる。

 魔神がリオンとライオットを警戒しながら、迂回するように進む。


 しかし、リオンとライオットには魔神からフェルノを助け出さなくてはいけない事情がある。

 

 魔神が荒れ地の中央に近づいたころ合いを見計らい、リオンが走り出した。


 目の前の人間たちが今までさんざん邪魔してきた者であると理解する魔神は、また邪魔をするのかと怒りに震えた。



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