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14-4 帰還した夜


 城の西の兵舎は、2階を兵舎にして1階を倉庫や厩舎すると聞いたから、作業場を2つ作るように伝えておいた。

 1つはガラス細工を作り、もう1つは織機をおく。

 最初から良いものはできないだろうけど、そんな品なら安く領内に還元すれば良い。

 2つの研磨機と大きなストーブがあれば、冬でも暖かなお湯を使って研磨をすることができるだろう。


 収穫の秋が終わるころ、私達はカイゼルの館を後にして城へ戻ることにした。

 カトレニアも妹と別れるのは辛そうだったけど、その内また会えるだろう。

 3台の馬車を連ねて、城へと戻る。

 ある意味、辺境の地に立つ居城だ。遠くからでも良く見えるし、石材をたっぷりと使っているから何となく威厳も感じられる。

 これなら祖先にも顔向けできるだろう。


 城の門を潜ると、広い広場がある。昔からだけど、東西に兵舎を作ってもそれほど変わらないところを見ると、東西の石垣を動かしたに違いない。

 玄関の石壇にはレブナンが家族総出で出迎えてくれていた。


「お帰りなさいませ。まだ建築中ではありますが、館の方は大まか内装まで済んでおります」

「苦労を掛ける。先ずは私室で一休みするつもりだ。夕食後に主だった者達を呼んで欲しい」


「了解しました。部屋を少し広くしております。御指示の通りに謁見の間を作らず、会議室を大きくしました。隣に小会議室と陛下の執務室を設けました」

「集合は小会議室を使おう。会議室はあらたまった席と考えた方が良さそうだ」


 謁見の間なんて無駄も良いところだ。可能であれば貴族さえ必要ないと言いたいが、世間体を考えるとそれもできないだろう。

 1代限りの称号ということで何とかしたいところだ。


 2階が客室に変わり、3階全てが私達のプライベートになる。真ん中に東西に延びる通路を設けて区画を整理したようだな。

 3階の西に2つの区画があるのは、将来を見越した寵姫用の部屋になるらしい客室2つ分を使い、侍女の部屋まで持つ区画だ。ライアン姉さんとオーロラが暮らしてくれれば良いのだが……。

 南のテラスに面した部屋はお茶を飲むためだけに作られたような部屋だ。左右に3つの小部屋を持つのは、将来の子供達の部屋ということになるのだろう。

 北面の部屋が私とカトレニアの部屋になる。真ん中の大きなリビングを挟んで、東にカトレニアの部屋があり西に私の部屋を作ったようだ。


 リビングは前の2倍近い代物だ。10人程が座れる大きなテーブルがあるのは、ここでの食事を考えてのことだろう。

 改まったことが無ければ、食事はリビングで済ませられそうだな。

 人が立って入れるほどの暖炉の前に、ソファーセットが置かれている。

 部屋が広くなれば、それだけの暖炉を必要とするのだろうが……、少し大きすぎrんじゃないかな?


 カトレニアと一緒にソファーに腰を下ろすと、ポットを下げたリンドネスさんが入って来た。ポットを暖炉の火に掛けたばかりだから、直ぐには飲めないんだよね。

 小さなグラスにワインを入れて、私達に渡してくれた。

 笑みを浮かべて、リンドネスさんも飲むように勧める。


「私は下がって頂きます。お湯が沸いたころに戻りますから」


 そう言って私達を2人にしてくれた。

 心配りはありがたいんだが、まだ昼下がりなんだよね。


「大きくなりましたね」

「ああ、大きくなった。またカトレニアには子供達の勉強をお願いしたい」


「だいじょうぶですよ。将来の人材ですね」

「良い人材は、お金を積んでも得ることが出来ないからね。武を誇ることも必要だが、それを支えるのが文官であることを忘れてはならない」


 特に、これからの特産物製作には多くの人材が必要だ。

 職人ということになるのだろうが、技術を後世に伝えるには文字の読み書きと算数は必要になるだろう。


「それにしても、色々とやることがあるね」

「城で職人の養成を行うようにも思えるのですが?」


「その認識で構わないよ。コーデリア領内の現状は、どう考えても農業主体だ。これを工芸品の産地に変えたい。下の2つの村にそんな工房ができるのが目標ではあるんだけどね」


 山の民も羊毛製品を作り始めているようだ。

 冬は雪に閉ざされるような土地柄だから、男達も編み物ができると聞いている。

 秋口に、何度か行商人が山の民の村を訪れて、出来上がった品々を買い込んでいくようになったらしい。


「再来年には弟が16歳になります……」

「約束通り、騎士になるべくオーガストに任せるつもりだ。この城の改装は来年には終わるだろう。終わり次第、東の砦の改装を始める。小さいながらも館を作れば、カトレニアの母上達も一緒に暮らせるはずだ。妹も一緒に暮らしてくれれば通商に関わる事務処理も行ってくれるだろう」


「ありがとうございます。家を再興するようなことは無いと思います」

「少なくともコーデリア王国では無理だろう。今、国法の整備をしているが、コーデリア王国の貴族は全員が1つの位階である男爵で統一するつもりだ。貴族の数を限定して、しかも1代限りとする。これで無能な貴族が治政に参加する愚を避けるつもりだ」


「でも、もう1つの問題があります」

「王族が問題だ。王位継承者は3人までを貴族とし、残りの子供達は成人後は領民と地位を同じにする。特権を認めることはしないし、王位の継承は長子に拘らない。領民を考えられる者を次の国王にするつもりだよ。それと、一番重要な事だが、男女を問わずに3人だ」


 寂しげな笑みを私に向けたのは、まだ子が出来ないからなんだろう。

 夜を共にするのだが、中々妊娠することがない。

 やはりツバキュロムの病魔が、カトレニアの体を蝕んだことが原因なのだろうか……。


「ライアン様を城に……」

「それは、まだできない。5年過ぎて、カトレニアに子が出来ない場合、もしくはカトレニアに子が出来たらと考えている」


 俯いてハンカチを顔に持って行ったのは、涙をぬぐうためなのだろう。

 正室である王妃の地位を持っていても、子が無ければこの世界では……、ということを悔やんでいるに違いない。

 だからと言って、今すぐにオーロラを王位継承の第1位にすることはできない。


「少なくとも、周辺諸王国では一番若い国王と王妃なんだから、あまり気にすることは無いよ。その内にたくさん生まれるんじゃないかな」


 リンドネスさんが、やって来て私達にお茶を入れてくれた。

 涙の跡を見たのだろう。カトレニアを部屋に連れて行ったから、化粧直しをしてくれるのかな?

 思い切って手に入れた、排卵誘発剤を使ってみるか。

 上手く行けば来春には、カトレニアの笑みを見ることができるかもしれない。

                 ・

                 ・

                 ・

 夕食が終わると、小会議室へと足を運ぶ。

 小会議室の扉を開くと、数人が座れるテーブルにマギィさんとレブナン、それにラクネムとビグザが私を待っていてくれた。

 3人が席を立って私に騎士の礼を取る。

 軽く手を上げて応えたところで、立派な椅子に腰を下ろす。

 部屋には暖炉が無いのだが、会議室の入り口の左右に金属製のコンロが置かれていた。

 戦用のものだが、案外使えるようだな。


「留守中はご苦労だった。王国の領地が広がってしまったことから、この城にいるのはお前達だけになる。

 現状で、これ以上の領土拡張を図ることが出来ない。来年は戦力を貯えるとともに内政に力を入れるべきだろう。

 戦力の拡大は先の戦に参加した兄さん達に指示しているが、この城も以前より大きくなっている。ラクネムの部隊、城の侍女それぞれ5人程は増やした方が良さそうだ。

 内政については、2つの目標を持ちたい。

 コーデリア王国の法律の発布と、産業の育成だ。

 法律についてはレブナンが纏めつつあるが、新年にはオーガスト達が城に集まってくるはずだ。その席で概要を伝えて修正を図りたい。

 産業育成はビグザに任せる。すでに伝えてある加工がこの城で可能かどうか、それを広めるにはどうするかを考えることになる。

 短期的に成果を出すことは期待していない。コーデリアの将来を見据えることが大切になる。

 マギィさんも、1個分隊以上に部隊を拡充して欲しい。救護所と軍の食事作りを勘案して欲しい」


「やはり戦力差は大きいということですな?」

「こればっかりはどうしようもない。傭兵を雇うという手もあるのだろうが、その後が問題だ。それに、兵士だけでなく部隊を指揮する隊長達も足りない。兄さん達の副官を使おうとは考えているのだが……、難しいところだね」


「私達も参加できると思いますが?」

「ラクネムにはこの城を守るという任務がある。見張りの老人達や、侍女達の訓練もきちんと行って欲しい。魔族の襲撃でローデリアの開拓村がいくつか廃村になるほど野被害を受けている。

 この城は、ある意味囮でもある。この城に魔族を引き寄せられれば、下の村に被害は及ばないだろう。防戦になるから城で暮らす連中を上手く使って退けて欲しい」


 かなり悩んでいるようだな。友人のヨゼニーを砦の指揮官としたからだろうか?

 同じ年頃だから、張り合う気持ちもあるのだろう。

 

「気に入らんか? 防衛戦では私がいない限りラクネムが最高指揮官になるんだぞ。先ほど5人と言ったが、それ以上でも構わない。ビグザのところにも10人以上部下が増えるだろう。それらを踏まえて、城の防衛に必要な訓練はラクネムの担当だ。

 対象外となるのは、マギィ部隊と私の家族、それに駐屯する他の部隊ということになる」


「魔族が来なければ、必要が無いように思えるのですが?」

「魔族だけとは限らないぞ。東の砦の後ろはこの城になる。東のハーレット王国はコーデリア王国の10倍以上にもなる大国だ。ラクネムの役目は東の砦の睨みでもあるのだ。

 さらに、数年後には部隊をさらに増やすことになる。カトレニアの弟を東の砦の部隊長にするからな」

 

 コーデリア王国の軍に上手く溶け込めれば良いのだが、ケニアネス家を滅ぼしたのはコーデリア家であることは確かだ。原因はケニアネス家にあると言っても、恨む心は残っているだろう。

 表に出さない限り、義弟としての待遇することは必要だろうな。

 

「最後にビグザの方だ。織機は運ばれてきたか?」

「5台が届いております。そろそろケネスの町から職人の一家がやって来るでしょう。

兵舎の1階に家族用の宿舎が5つありますから、そこに住んでもらう手筈です」


「研磨機を2台を明日渡す。木彫り職人の手筈は?」

「それも手配済みです。貿易港から今年独立した職人が来てくれます」


 できるかどうか自信は無いが、出来たならかなりの値打ちになるはずだ。

 切子ガラスの試作品を来年の夏までにはいくつか手にしておきたい。


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