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13-13 ヨゼニーに町を託す


 山賊モドキの行為をしていた連中の頭領は、元王国軍の下士官だったらしい。

 オルバスと名乗ってくれたが、家族はあの旱魃の再に餓死してしまったようだ。孤独ではあるのだろうが、集団を率いている以上、彼等を家族と呼んでも良いのかもしれない。

 陽動を行ってくれた際も、負傷者を出さなかったらしい。ある程度兵の進退の心得を知っているのかもしれないな。


 先遣隊を50人近く率いてヤケンの砦に向かう姿を、東の城門の上から見送る。ヨゼニーが部下を2人程同行させていったから、砦で不都合な事にはならないだろう。

 暮らせることが分かれば、直ぐにでも本隊が移動を始める。

 荷馬車は既に渡してあるから、静々と東へ移動する姿がここから見えるかもしれないな。


 逃げ出した公爵や町役達は、貴金属類を上手く持ち出したようだ。

 残った屋敷を調査して革袋1つほどの硬貨と20個ほどの宝石を付けたアクセサリ―を見付けただけだ。

 これがヨゼニー達の統治資金になるのだが、場合によっては集めった税をメルザへと回さねばなるまい。

 領地内の暮らしが一様なら不平は出ないだろう。富の格差が生じると色々と問題が出てきそうだ。

 

 何時ものように、指揮所でメルザの町の復興と柵や空堀の進捗を地図で確認していると、2人の兄さんが入って来た。

 

「トリニティ様。そろそろ柵作りを終わりにしませんか?」

「300リオン(600m)は南に延びている。あれなら敵がやってきても、農民は町に逃げ込めるんじゃないか?」


 さすがに兵士達も疲れているということだろう。

 そろそろ潮時ということになるのだろうか。


「私の方は、サーデスにさんの作った柵も復旧しているぞ。陛下は北よりは南だと言ってはおるのだが」

「北の耕作地を全て貧民に下げ渡しているのは知ってるよ。さすがは陛下だと父上も感心していたからね。とはいえ、彼等の仕事を残しておいた方が良いと思うんだが」


 ラドニア小母さんが、ワインを入れたカップをテーブルに並べてくれた。

 昔の遊び友達が全員揃っているから、私達を眺めて笑みを浮かべている。


「寝る場所、働く場所は用意出来ました。今年は僅かでしょうが収穫もあるでしょう。ですが当座の収入を確保するうえでも、ガロード様の考えは理に適っているように思えますよ」


 そこまで言われると、考えてしまうな。

 ラドニア小母さんの話は、1か月ほどではなく、この先もずっと続くような仕事ということになるんだろう。

 単なる、柵作りと空堀掘りでは、あまり長く続かない。

 永続する仕事となれば農業が市一番ではあるのだが、町の南と異なり北は余りかきこんが進んでいないのが現状だ。


 とりあえずは、柵と空堀作りでも良いだろう。それが終われば……、ということだ。

 待てよ。コーデリア軍は敵との距離を開けて戦をするのが基本だ。

 一番消耗するのは、矢とボルト、それに銃弾になる。

 さすがに銃弾は無理だけど、矢とボルトの製作はどうだろう。短弓や長弓の矢は長さが必要だから職人加工が必要だけど、ボルトは45cmほどの矢と比べると太めのシャフトだ。軸の加工と矢じりの取り付けに矢羽根の取り付けは、それほど熟練しなくともできるかもしれないな。

 矢じりを青銅製にすれば、矢じりの製作加工も行えそうだ。

 今後の戦でボルトはいくらあっても足りなくなりそうだし、ある程度熟達できたならバリスタ用のボルトもできるかもしれないな。

 道具と最初の材料を用意して、この屯所を囲う場として使うことも可能だろう。

 ヨゼニーに任せてみるか。難しいなら、あの町から職人を呼んで教授させることもできる。


「柵は、ここまで作れば十分という限りがありません。確かに潮時でしょうね。ヨゼニー達の駐屯地の形が見えて、オーガストがヤケンの砦に腰を落ち着けられれば、私達もこの地を去ることにしましょう」


「すまんな。要するに公爵館の跡地だな。明日は柵よりも、そっちを手伝ってやるか」

「私の部隊も手伝いますよ。なぁ~に、大まかな形にはなってるんだ」


 残ったワインを一口に飲むと、兄さん達が指揮所を出て行った。

 ライアン姉さんが溜息を吐いているから、ラドニアさんが笑っているぞ。

 兄さん達だからねぇ。いつも変わらないな。


「困った兄さん達だ。だが先ほどの話では、貧民の仕事を作ってあげるように思えたのだが?」

「ボルトの製作なら、容易ではないかと考えました。コーデリア軍は弓兵が多いですからね。ローデリア軍との大きな違いはクロスボウ兵の有無があります。だいぶ数が増えましたからボルトが大量に必要になります」


 2人が笑みを浮かべて頷いてくれた。

 戦が長引くというのは王国としては避けるべきだが、我等の戦はローデリア王国の治政を変えるべく起こしたものだ。

 その為に必要な資材で貧しいものが救われるならと、納得してくれたのだろう。


「山の民も矢を作っております。戦を始める時には城に1千本を超える矢があったのですが、直ぐに尽きてしまいましたね」

「東の石橋の砦の緊急時に備えただけだからね。あれから下の村、トレノの村でも作り始めたし、兄さん達も町の職人に作らせている。今度の戦で放った矢は2千本を超えるんじゃないか?」


「銃弾も1会戦分近く使っている。2会戦分を運んできたが、次の戦は更に消耗しそうだ」

「補充には1年は掛かるでしょうね。銃を持つ兵士が多くなりました。ヨゼニーの部隊は半数をクロスボウ兵です」


「クロスボウ兵は、バリスタも扱えるし、槍も持つ。守備には適しているぞ」

「欠点は多勢を相手にする時でしょうか? ボルトは強力ですが、どうしても間が空いてしまいます」


 白兵戦対策は銃剣で対処することにしているが、クロスボウには付けられない。短槍を持たせているのが現状だ。

 城壁の上で短槍を振るっていた兵士も多かったに違いない。


「まぁ、長剣を使わせるよりは安心できる。王国軍の兵士は長剣を下げる者も多いが、振り回せば良いというものではないからな」

「サーデス様が短弓兵に、長い槍を持たせてましたね」


 柵に取り付く敵兵を突くには丁度良さそうだけど、街中や石垣の上では短槍が理想的だ。

 民兵上がりの兵士が多かったから、敵兵から少しでも距離を空けてやろうと兄さんが持たせたに違いない。


「槍も2種類あると便利だろうけど、兵士が使えるのは1本だ。だけど荷車で運べるなら長短を用意してあげるべきだろうね」


 2人が小さく頷いているのは、ライアン姉さん達の部隊があまり短槍を使わないからだろうな。

 長短2種類の槍はカイゼルに頼んでみよう。トレノの町で作れないなら貿易港に頼めそうだ。


「少し遅くなりましたが、もう少しで帰れるなら、山の民の畑作を彼等が手伝えそうです」

「開墾は捗っているのかい?」

「今では村と言っても良いでしょう。長老達が新たな畑を婚礼を上げる度に分配できるまでになりました」


「待遇が良すぎると言って、自主的に収穫物を砦の運ぶ始末だ。受け取るまでは帰らぬので、酒を対価として渡しているのだが、それも彼等が育てたブドウ畑から作られたものだ」

「厚遇を与えるのも問題と?」

「我等もコーデリア王国の住人というところだろうな。戦士を派遣するだけでは待遇に合わぬと考えているようだ。ある意味、山の民独自の考え方なのだろう。境遇と対価は同等が彼等の理念でもあるようだ」


 すでに飢えを凌げるまでになった、ということなんだろう。

 とはいえ、見習い戦士は私達の1部隊を作るまでになっている。


「毎年短弓の矢を500本というのはどうだろう? 今までも作って貰っていたが、500本を超える本数に対価を与えるなら、実質的な税となるはずだ。短弓の矢は短い間隔で放てるから、いくらあっても困ることは無い」

 

「酔い考えです。冬の仕事にもなるでしょうから、物納を春分とすれば、彼等も納得してくれると思いますよ。私が長老に話してみましょう」


 ラドニア小母さんには世話を掛けるなぁ。

 ライアン姉さんは少しおもしろくなさそうな顔をしていたが、道具類は私が準備すると言ってくれた。

 大量のボルトと矢……。王都攻略の駒が1つ増えそうだな。

                 ・

                 ・

                 ・

 メルザの町を攻略して20日が過ぎた。

 公爵館跡地に、昼夜を徹して作り上げた武骨な建屋がメルザの新たな砦になる。

 兵士が住む屯所が2棟。ヨゼニーが住む2階建てのログハウスは大きなものだが、1階の屋根が城壁の高さと同じだから、3台のバリスタが西の街道を狙っている。


「大きすぎます。私の実家が指揮所に入りますよ!」

「それだけヨゼニーが立派になったと考えるべきだよ。王都攻略の最前線だ。私が再び戻るまではこの町をヨゼニーが守ってくれ」


「ついでに嫁を貰えば大したものなんだが」

「私達も陛下に御ぜん立てして貰いましたから、大きなことは言えませんが……。それでも家族ができる前と後では戦に対する心構えが変わりましたからね」


 兄さん達にからかわれて、ヨゼニーが顔を赤くしている。

 貰いたいという意思はあるみたいだな。

 

「我等は明日に帰る。子供に顔を忘れられない内にな」

「兄さん、子供を抱く前に姉さんを抱かないと、後が怖そうですよ」


「それぐらい分かってるさ。お前も気を付けるんだぞ。兵士に剣を教えるぐらいの妻なんだからな」

「だいじょうぶです。だいぶ不意打ちになれましたからね。今回、無傷で済んだのも妻の賜物です」


 将軍の娘だったからかな?

 ヨゼニーがどうしても妻を得られない時は、兵士の娘というのも考えた方が良さそうだ。


「私達は、兄さん達が去った翌日にする。陛下は?」

「姉さんと北回りでトレノに戻ります。城の状況も見ておくべきでしょう」


「御妃様には10日程遅れるとお伝えします」

 カイゼルが気を効かせてくれる。


 たまにはオーロラと遊ぶのも良いんじゃないかな。

 小さく頷いて謝意を示した。


 翌日。新たな町役達にヨゼニーと協力するように伝える。

 平伏して、私の顔を見ようともしないのが問題だな。かなりの悪者に思われているのかもしれない。

 

 東に向って軍を進める兄さん達を見送って、指揮所に戻るとラドニア小母さん達が荷物を纏めていた。

 邪魔になりそうなので、外でパイプを楽しむ。

 私達も、明日はこの町を出る。

 次にこの町に戻るのは、王都攻略になる。それまでの間、一時の平和を皆で味わおう。


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