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13-9 公爵館を攻撃せよ


 ふと目が覚めた。

 いつの間にか眠り込んでいたらしい。体に薄い毛布が掛けられ、近くに小さなコンロが置かれていたから、マギィさんが見かねて動いてくれたんだろう。

 いつの間にか夜が明けて、朝日が昇っている。

 眩しさに起きてしまったのかもしれない。屯所の裏に回って桶に水を汲んで顔を洗う。

 寝ぼけ顔が少しはマシになったに違いない。


 状況は変わったのだろうか?

 それならば起こされるはずだから、昨夜のまま推移しているに違いない。

 先ずはそれを確認するところからだな。


「お目覚めですか? お茶を指揮所にお持ちします」


 広場を眺めていた私に、マギィさんが声を掛けてくれた。


「おはよう。それなら部隊長を集めて欲しい。状況確認と今後の打ち合わせをしたい」

「了解です。直ぐに集めます!」


 指揮所のテーブルに座って、地図を眺める。

 自軍の駒は昨夜の動きで少し変わっているから、3方を囲む敵の駒も合わせて配置する。

 敵が攻め寄せた城門は、東門から突入する時にほとんど破られている。現状はガラクタを積み上げ敵の突入を阻止しているのだが、昨夜の攻撃で炎上しているから、新たにガラクタが積み上げられているはずだ。

 南北の城門は陽動だろう。時間差を付けての陽動に、私も北の城門に駆けつけたぐらいだ。

 しかし、積極的な動きが無かった。

 それは東門の攻撃を知って、本命が東だと分かったぐらいだからなぁ。

 銃を使うことで最初の攻撃を跳ね返し、バリスタも破壊できたようだがその後の動きが気になるところだ。

 オーガストが積極的に動いてくれているなら、東門の外で長く陣を張ることはできないと思うのだが……。


 屯所の扉が開き、部隊長達が入ってきた。

 かなり疲労の色が顔に出ている。昼過ぎまで眠らせたいところだ。

 全員が席に着くと、マギィさんの部下が食事を運んできた。

 薄いパンと乾燥野菜に干し肉を使ったスープ、それにお茶という野戦食の定番だな。


「状況を確認したい。銃声が止んでいるようだから現状は睨み合いということだろうが、敵の様子が気になるところだ」

「なら私から……」


 ライアン姉さんが東の状況を話し始めた。

 バリスタが全て破壊されたことで、敵軍は更に後退したらしい。300リオン(450m)ほどらしいから、ライフルでの狙撃は行わない方が良いだろうな。当たるものではない。

 

「数は1個中隊と推測しますが、昨夜の攻撃で1個小隊は倒しています。薄い陣を張って多く見せかけているのではないかと」

「南北も似た感じですね。やはり後退しています。我等が作った柵を破壊して焚き火を作っていますが北は2つで、南は5つでした。

 焼かれたガラクタの上にまたガラクタを積み上げ、水をたっぷりかけています。火矢を受けても早々燃えることは無いかと……」


 姉さんの話が終わると、食事の手を休めてヨゼニーが説明してくれた。

 兄さん達は手助けしている状況だから、状況説明の聞き役に回っている。


「最後は私ですね。町の制圧は三分の二というところです。西の建物は東と比べて大きなものが多いですから、建物に籠って抵抗を続けております。

 そんなわけで、屋根を壊して、上階から占拠している状況です。西の城門に立つのは、このままで推移すると3日は必要でしょう」


 やはり難儀しているようだ。


「オーガスト部隊の動きは確認できたかな?」

「東の部隊が何度か後方で動きがありました。火矢の明かりで見ただけですから詳細は不明です」


「南門の方は、2度ほど敵の後方に火矢が見えました。たぶんオーガスト部隊だとは思われますが詳細は不明です」

「北門の方は、数度にわたって敵に火矢が放たれていましたよ。数はかなり多かったですから果たしてオーガスト様達とは……」


 話を聞いて笑みを浮かべてしまった。

 東と南はオーガスト部隊が、北は山賊達が動いてくれているのだろう。

 昼は目立った攻撃はしないだろうが、火がくれれば再び動いてくれるはずだ。

 となれば……。


「町の制圧を優先する。総攻撃はカイゼルの指揮でカイゼル部隊、ガロード部隊とする。サーデス部隊は東と南北の城門警備をしながら兵士を休ませてほしい。日が暮れれば再び敵が近づくはずだ。南門の部隊が東に回って我等を背後から襲う可能性が高そうだ。

 ライアン部隊は1個分隊を休ませ夜に備える。残った1個分隊を東西の屋根に乗せて敵を狙撃。カイゼル部隊の掩護を行う。

 ラドニア部隊も1個分隊を休ませて、残った1個分隊と銃兵部隊それとヨゼニーの部隊の半数を使って4つの班を作ってくれ。

 各班の指揮はヨゼニー部隊が行う。役目は建物の屋根を破って上階からの制圧だ。

 カイゼル達の戦線移動を考えながら進めてくれよ。あまり突出すると全滅しかねない。

 町の制圧途中で、我等を囲んだ敵が総攻撃を加えた時には、休んでいる兵士を叩き起こして対処する。

 制圧開始は昼過ぎだ。公爵館の攻撃を合図とする。

 火の手が上がったら、カイゼル達が一斉に火矢を放て。バリスタも派手に使ってくれ。だが、この通りまでは、建物に向かっては放たないでくれよ」


 地図上の通りをパイプで示した。

 区画が整理されているのは、火事の被害を区画で制限したいとの考えなんだろう。西の広場から東に向う最初の十字路だ。

 その西には公爵館と大きな建物がいくつかある。

 町の中枢ともいえる区画ならば、一般の住民が暮らす場所ではないはずだ。


「この通りから西は焼いても良いのですな?」

「最後に居座るのはこの区画になるはずだ。西から増援部隊が入ってきても、廃墟ならこっちも攻撃しやすいだろう。それに、公爵館が日に包まれれば、逃げ出す輩もいるはずだ。できれば兵達も逃げ出して欲しいところだけどね」


 公爵への忠誠次第だろうな。

 公爵より先に逃げる連中もいるんじゃないかな?

 そんな連中が多ければ多い程、城門を潜るのが難しくなる。馬車で逃げようなんて考えたら、全く動きが取れなくなってしまうに違いない。


「投降者は一カ所に拘束してくれ。場所はカイゼルに任せる」

「民衆の逃走は止めないでよろしいですね?」

「無論だ。その場で目立つ服装をしている者、公爵の縁者と分かる者、武装した者が対象だ」


 いつの間にか食事が終わっていた。食べていた記憶があまり無いんだけど、目の前の食器が空になっていたから、手と口は動いていたに違いない。

 食後のお茶を頂いて、部隊長が屯所を出ていく。

 

 出て行こうとするヨゼニーを呼び止めて、RPGでの公爵館攻撃を指示した。


「班編成が終わったら、ここに戻ってくれ。RPGは2発で足りるだろう。昼過ぎとは言ったが、午後のお茶の時間で始めるつもりだ。その時まで屯所で寝ているんだな。時間になったら起こすからな」


 騎士の礼を取って、ヨゼニーが出て行った。

 これで3日目の動きを指示できた。攻撃開始は15時過ぎ、公爵館ではお茶会でもしてるんじゃないかな。

                 ・

                 ・

                 ・

「そろそろお時間では?」

 マギィさんの言葉に、時計を見る。

 適当に南中で合わせた時計だが、他に時間を知るすべが無いからねぇ。

 だいぶ待ったが、確かに3時を過ぎているな。


「始めようか! ヨゼニーを起こしてくれないか」

 

 一緒にお茶を飲んでいたマギィさんが席を立って屯所の奥に向かう。

 直ぐに、目をゴシゴシしながらヨゼニーが姿を現し、私に騎士の礼を取る。

 軽く手を上げて答えたところで、ヨゼニーに視線を向けた。


「始めるぞ。先ずは2発、上手く命中させてくれ。その後はカイゼルと連携を取ることに主眼を置けばいい。たまに状況報告をしてくれよ」

「了解です。直ぐに始めます!」


 屯所から走り出したけど、先ずはカイゼルのところに行くのだろう。「始めるぞ!」との連絡は必要だ。


「私達は、どうしましょう?」

「ここで待っていれば良い。マギィさんは忙しくなるかもしれないよ。ある意味力攻めだ。負傷者多数ということもあり得るからね」


「薬草の準備は出来ていますし、治療魔法の使い手が私を含めて3人おります。そうなると……、夕食が遅れるかもしれませんよ?」

「兵士にとっては一大事かもしれないね。サーデス兄さんの部隊に女性兵士がいるんじゃないかな? ごった煮スープを作って貰えるよう頼んでくれないか?」


 私に笑みを浮かべると、自分のカップを下げて私のカップにポットのお茶を注いでくれた。

 手を振って屯所を出て行ったから、料理の上手な兵士が思い浮かんでいるに違いない。

 食事はこれで問題ない。


 守備に抜けが無いか、パイプを咥えながら考えていると遠くの方から炸裂音が聞こえてきた。

 始まった……。住民の被害をなるべく少なくしたい。

 早めに町を見限って逃走してくれるとありがたいのだが……。


「始まったな。私も参加したかったが、トリニティ殿の采配だからなぁ」

 扉を開けるなりサーデス兄さんが残念そうな表情を見せる。


「先ずは座ってください。戦は逃げませんから、明日にも続くようであれば、ガロード兄さんの部隊と交替するぐらいは考えてますよ」

「今のところ平穏そのものだ。兵士の半数と副官を休ませている。今夜も問題は無いぞ」


 さすがは兄さんだな。言わずとも兵士を休ませてくれたようだ。


「やはりオーガスト部隊の状況は分かりませんか?」

「父上も頑張っているぞ。東の部隊の後方を襲撃しているのをこの目で見た。矢を放って直ぐに後退していったから、敵も追うことはできないな」


 騎馬隊の機動力ははんぱじゃない。まして軍馬だから無理が効くようだ。

 

「町の占拠に時間を掛けていたら、後で文句を言われそうですね」

「トリニティ殿には直接言わないだろうけど、私達にはなぁ……」


 それだけ息子が可愛いということなんだろう。

 それに、私への思い入れもあるに違いない。私に仕えるのだから……、とコンコンと諭されるのは少し気の毒にも思える。


 席を立ってカップとワインのボトルをテーブルに置く。

 カップにたっぷりとワインを注ぎ、兄さんの前に置いた。


「町に入って、まだ3日目です。もう少しですよ。次はこれ以上の困難が待ち構えていますからね」

「……そうだな。あえて攻略場所は言わんぞ。だが、トリニティ殿がそれを考えていると兄上にも教えておかないとなぁ」


 カップを合わせて、先ずは一口。

 サーデス兄さんに笑みが浮かぶ。たぶん私も笑みを浮かべているに違いない。


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