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忘れじの戦花  作者: なよ竹
第3章 少年と新設の魔法師団
32/141

第32話 少年と窮地

 死。

 絶対的な、仲間の死。

 目の前で起きた光景を見るに、その言葉しか想起しなかった。


 滴る血が。

 貫通した胸が。

 光を失った瞳が。

 嫌という程、現実を認識させる。


「王の命令で来てみりゃ、ガキばっかじゃねぇーか。あ! てかあいつの首! んだよ、こんな雑魚にやられたのかよ、俺の副官は」


 ワーウルフが牙を見せながら、口を開く。

 エルアをいとも容易く殺したワーウルフ。

 彼の体躯もまた、大きかった。

 先程ゼデクたちが倒したワーウルフと同じくらいに。


 でも、明らかに違った。

 纏う雰囲気・魔力が、通常のそれを遥かに逸脱している。

 第一だ。

 これだけの人の中に気配もなく、急に現れたのだ。

 なぜ?

 どうやって?

 1つだけハッキリしていることがある。

 レオハート不在の今、自分たちではコイツに太刀打ちできないと。


 エドムは頭をフル回転させる。

 隣にいるゼデクは、ただエルアを凝視していた。

 きっと、仲間の死を受け入れられないのだろう。

 あのワーウルフに、どうしようもない怒りを覚えているのだろう。

 彼はそんな人だと、エドムは知っている。

 だから、答えは既に決まっていた。


「ガゼル!」

「合点承知!」


 どこか野性味を帯びたガゼルは、やはり起きていた。

 彼は、ああ見えて敵をちゃんと理解した上で戦っているのだ。

 ただならぬ感と危機管理能力を備えた彼は、いち早く目を覚ますと、寝ていたウェンディとオリヴィアを抱え走り出した。

 無論、逃げる為。


 その間に、エドムはゼデクを強引に抱える。


「エドム! まだエルアが!」

「うるさい! 今は黙ってて!」


 敵に背を向けてでも必死に走り出す。

 周囲の団員の反応は、様々であった。

 同じように逃げる者もいれば、手柄欲しさに命懸けで挑む者、そもそも力量差を理解できない者。

 ゼデクには悪いが、彼らを囮にする。

 彼には何としても生きてもらわなければいけない。

 それが、エドムの導きだした答えだ。


「あ、おい! 逃げんな!」


 後ろから悲鳴を掻き分けるように、通った声が聞こえるが、無視する。

 走る。

 必死に必死に走る。

 自分が一歩踏み出す間に何人が犠牲になっているかなど、知らなかった。

 しかし、自分たちが遠ざかる以上の速度でワーウルフは団員を殺しながらこちらに来るだろう。


 前で、ウェンディとオリヴィアが目を覚ますのを確認した。

 2人はガゼルの手から離れ、状況を把握する。


「オリヴィア!」

「もうやってます!」


 あの化け物に、オリヴィアの幻惑魔法が通じるのか?

 考える余地などない。

 出来得る手を使うに使って、逃走を図る。


 ガゼルがこちらに向かって走ってきた。

 背後に殺気も迫る。

 それらが意味することは1つ。


「......っ!?」

「ほぉ、感が良いなぁ」


 ワーウルフの攻撃を殺気だけを頼りに躱した。

 つまり幻惑魔法が通用しなかったのだ。

 そして、ガゼルとすれ違う。


「......ごめん」

「気にすんな」


 エドムの縋るような声も、ガゼルには伝わったようだ。

 これからの展開を知って尚、彼の表情に迷いはない。


「おい、エドム! ガゼル!」


 ガゼルが何をしようか察したのだろう。

 ゼデクが肩で暴れ出すのがわかった。

 流石に制御するにも限界を迎えたエドムは、


「あーもー、君には生きてもらわないと困るって前に言ったろ!」


 ウェンディとオリヴィアの方向に、ゼデクを放り投げた。

 ウェンディの馬鹿力なら、多分なんとかなるだろう。

 というより、して貰わなければ本当に困る。

 これで残る憂いは時間だけ。

 だから、エドムもその場に留まる。

 時間稼ぎをするために。


 でも、それは微々たるもので、敵うはずのない2人は直ぐに、地面に叩きつけられた。


「くそっ!」

「だーめーでーすー! 絶ッッ対に勝てません!」


 それを見たゼデクが制止に掛かろうとするが、2人掛かりで防がれた。

 このままではエドムたちが助からない。


 エルアが死んだ。

 今度はあの2人を失う。

 自分の大切なに仲間を、いきなり現れたワーウルフに奪われる。

 あの訳のわからないワーウルフに。


 いつもそうだ。

 理不尽に敵わない。

 自分が力を扱いきれないから。

 自分が弱いから。

 どこかで妥協を強いられる。

 それで良いのか?

 黙って見ているだけなのか?


「奥のガキんちょども。囮置いて、また逃げるのか? 情けねぇなぁ、目の前で女殺されて逃げるだけの男はよぉ!」


 その一言にゼデクは――



 ◆


 ここは真っ白な空間。

 周りには何もなく、中央に1つだけ。

 それは燃え盛る鍵のようなもの。

 曰く、自身の魔法。

 曰く、恋する乙女。


 その前に、ゼデクは立った。

 自身がそう望んだのだから。

 それに手を伸ばした時、声が聞こえる。


「逃げた方が良いわ」

「しばらく会えないんじゃなかったのか?」


 金の長髪に赤い瞳。

 白いワンピースと揺らめく炎を身に包んだ女がゼデクの隣にいた。


「条件満たさないとね。ビックリよ、短期間で偶々、貴方が条件を満たしてしまったの」

「条件? そういえば、さっき思考を制止したのもお前だったな。何故、このタイミングで来た? あの化け物じみた子供はなんだ?」


 すると、魔法(かのじょ)は悲しそうに笑う。


「まだ教えてあげれない。だって貴方、弱いもの。すぐに情報が外に漏れちゃう」

「......時間がない。力を貸してくれ」

「貸してる。貴方が私を引き出せてないだけ。そして戦うことは推奨しない。勝てないから」


 弱い。

 まただ。

 ゼデクはこの言葉を聞くたびに顔をしかめてきた。

 現実を押し付けるが如く、魔法(かのじょ)は言い切る。

 貴方はまだ弱いと。


「でも、このままだとエドムたちが死ぬ。エルアを殺した、アイツに殺される」

「そうね」

「だから、戦う。仲間は救いたい。この気持ちに、お前は応えてくれるか?」


 ゼデクは鍵のようなものを掴む。

 ここから思いっきり、力を引き出すのだ。

 今の自分に出来得る、最大限の力を。

 魔法(かのじょ)は言った。

 ゼデクの恋心に、愛に価値を見出したと。

 ならばゼデクの愛という感情に、友愛という感情に、大きく応えてくれるはずだ。


「うーん、友愛。友愛かぁ。恋とは少し違うけど......うん、応えてあげる」

「じゃあ、戦ってくる」


 ゼデクは鍵から手を引いた。

 その時点で、表に戻るゼデク。

 消えゆく主人に、魔法(かのじょ)は呟く。

 本人に届かないような、微かな声。


「でも今の貴方には、十分に応えられない――」


 ――敵への憎しみが勝ったその(こころ)で、貴方は誰を護るの?



 ◆


 意識が表に戻る。

 さほど時は経っていなかった。

 だが、ワーウルフの動きは早く、今にも2人は襲われそうでーー


「やめろぉぉぉぉぉあああ!!!!」

「嘘っ、力強っ! 待ちなさい!」


 ゼデクは、自身を抑えていたウェンディとオリヴィアを振り切り、ワーウルフ目掛けて一直線に突っ込んでいく。

 全身に魔力を張り巡らせ、吹き荒れる炎を纏わせ、一閃を放つ。


「へっ! まだ根性残ってたか!」


 ワーウルフは爪で簡単に受け止める。

 ただの爪では断ち切れそうなものだが、傷すら付かない。

 恐らくは彼も魔法を使えた。

 これでもか、という程に強化された爪で、ゼデクの連撃を全て撃ち落とした。


「くそ......! くそっ! くそっ!!」


 何度も何度も刀を叩き込むゼデク。

 それを笑いながらに受け流すワーウルフ。

 と、そこで、


「......え?」


 ゼデクが纏っていた炎が消えた。

 身体から、力が抜けるのを感じる。

 憎しみが心を占めたのか。

 無理をして引き出した力だからか。

 それを考慮する余裕など、ゼデクに残っていなかった。


 あるのはこの後に予想される、結末だけ。

 死だ。

 自分が死んで。

 自分を守ろうと駆けつけてくる仲間が殺されて。

 レティシアが救われることはなくて。


 最悪な展開だった。

 目の前で、ワーウルフが嗤う。

 自分の仲間を殺した、ワーウルフが嗤う。


「なんだよ、終わりか? じゃあ楽しめねぇな。死ね」


 振り降ろされる爪に、ゼデクは抵抗できなかった。


「......くそっ」


 甲高い音が響く。

 ゼデクの意識は......まだあった。


「......?」


 ゼデクの前に1人の男が割り込む。

 銀の短髪に、上品なデザインの眼鏡。


「......お、お前は」

「おいおいおい、子守にしては、ちと豪華すぎねぇか?」


 その奥に潜む、強き瞳。

 この男はーー


「愚かだな、ゼデク・スタフォード」


 七栄道が1人、グラジオラス・ウィンドベルが、ゼデクの窮地を救った。

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