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運命と思い出の定義

『奏くん』視点です。鍵沼が動いてます。

それは、幼い頃に体験した初恋の思い出だった。


木の上で降りられなくなった子猫を助けようとした俺は、最後の最後で気を抜き足を滑らせて軽いが怪我をしてしまった。比較的低い位置からの転落だったので、足を擦りむいた程度の怪我だったが、血がでて他人から見たら大層な怪我だったのだろう。俺が子猫を助ける様子を見ていた一人の女の子が、急いで公園にある水道でハンカチを濡らし俺膝の傷にあてた。血をふき取れば、予想通り傷は深くなくすぐ治りそうなものだった。それでも女の子は傷を見て心配そうに絆創膏をはってくれる。その絆創膏は、その時テレビでやっていた女の子向けのアニメのキャラクターだった。少し恥ずかしくて、すぐ剥がそうとも思ったのだが女の子があまりにも一生懸命に手当てしてくれたものだったので、なかなか剥がせなかったのを覚えている。お礼を言う前に女の子は、公園にいた猫を連れてどこかに行ってしまったので、その日は何も言えず帰った。ときどき公園にいた子だったので覚えていた俺は、次に会えたときに言えばいいかと思っていた。怪我も治り、公園にも雨の日以外は友人と遊びに行っていたのだが、女の子と子猫にあの日から会うこともなくなってしまっていた。公園以外でも、女の子に会えないかいつも目で探していた。だけど会えないまま、俺は父親の出張により転校する事になってしまった。


その女の子の事は、淡い思い出として俺の中で残っていた。いつか会えたらお礼が言いたい。それだけの思いだったはずだった。成長するにつれ、あの時の思いは、恋というにはまだ拙いものではあったが、初恋であったと感じるようになった。周りが色恋を意識しだしたからかもしれない。顔を赤らめて告白をされるようになり、好意をよく示されるようになったが、特定の誰かを作る事はしなかった。女の子が嫌いな訳ではないし、男として興味がない訳でもない。どうしても誰かを選ぶという事が出来なかった。


父の出張が高校2年という中途半端な時期に決まり、母と俺は今回はこの場に残ろうという話になっていた。しかし父の出張先を聞いた俺は、即座にその考えを翻す。出張先が、あの淡い思い出の場所だったから。俺の中であの時の想いが動き出した気がした。さすがに、あの時の事を女の子が覚えているとは思っていない。変っているであろう女の子を探し出せるとも思ってもいない。出来るならお礼をいいたいが、無理だという事も分かっている。少しの懐かしさと、あの時の気持ちをもう一度だけ思い出し、感じてみたくなった。ただ、それだけ。


夏休みに入り、俺は高校の手続きの為に先に父の出張先に余裕をもって現地入りしてた。思った以上に記憶のままの場所が多く、迷うことなく思い出の公園にもつく。ちらほらと子供達が遊んでいて、古くはなっているが昔の遊具たちは健在だった。

懐かしさに浸っていると、子供の泣き声が聞こえる。振り向いてみてみると、どうも転んでしまったらしい男の子が転んだままの体勢で泣いていた。すると、その男の子の知り合いなのか高校生らしき制服の少女が近づき話しかけている。男の子が泣きやむとハンカチを取り出し水で濡らし、傷口にあてる。その一連の流れに昔の自分がかさなり、目を奪われている間に男の子は「お姉ちゃん、ありがとう」と大きな声でお礼を言っていた。絆創膏を貼った足で俺の横を走って通り過ぎる。あの少女が貼ってあげたであろう絆創膏に、色あせる事が無かった思い出が動き出したような不思議な想いが動き出した。スローモーションのように近づく彼女を見ていたからだろうか…。俺は息をのんだ。その少女は、あの時お礼を言いたくて探していた少女の成長した姿だったから。

すれ違いざま俺は話しかけようとも思ったのだが、友人と話しながら歩いていた為にタイミングがつかめず自然と足が彼女の姿を追いかけていた。これじゃぁストーカーじゃないか…っと自己嫌悪に陥りつつも、静かに目に入るか入らないか程度の距離でついていく。途中友人と別れた彼女を見て、今が話しかけるチャンスではないかとも思ったのだが、今自分でしている行動に恥ずかしさを感じなかなか踏み切れない。とうとう彼女の家らしき所までついてきてしまった。中に入る「ただいまー」っと彼女の声が聞こえ、俺は彼女の家の前まで静かに近づいた。『藤野』と掲げられた表札に、彼女の苗字を知る。見てはいけないとは思いつつ家の様子の覗くと、彼女は姉と思われる人物と何かを話しているようだった。確実にいけない事をしている事実に、俺は即座にその場を後にした。


いつかや次を期待していては、もうそんな機会はない事ぐらい今までの経験上分かっていたことだったが、どうしても彼女との思い出に期待してしまう自分がいた。今日出会えた事には何か意味があるんじゃないか、とさえ思ってしまう。自分が意外にもロマンチストなんだと分かり苦笑してしまった。次会えたら、どう話しかけようか頭の中でシュミレーションしてみては、ナンパと変らない行動に頭を悩ませる。それでも、どうしても話してみたかった。思い出の中の彼女が、昔と同じように変っていなかったから。


予想通りというか、やはりそんなに簡単には彼女に会う事はなかった。夏休みもあけ新しく通う事になる高校に通えば、そこで思わぬ援軍に出会う事になる。同じクラスに、彼女の姉がいたのだ。思っても見なかった事に饒舌になり、転入早々彼女の姉に昔の思い出までも話してしまう。彼女に伝わればっとの打算もなかった訳ではない。少しでも彼女へ繋がるものが欲しかった。俺の昔話を横で聞いていたもう一人のクラスメイトの鍵沼と名乗った男は、実は昔よく公園で俺と遊んでいた一人だった。名前も忘れていたぐらいの関係だったが、懐かしさもあってかすぐに意気投合した。子猫の事も覚えていた事に話が弾み、芋づる式に忘れていた事が思い出される。その日は、3人で帰宅する事になりもしかしたらこのままいつか、彼女にも会えるかもしれないという思いが募った。

次の日には鍵沼が何かを思いついたかのように、彼女の姉である藤野さんの家に行く事を提案された。もちろん、それはさすがに断ったのだが、藤野さんの了承もあり彼女が居るかもしれない場所の魅力にあらがえず、誘われるまま俺は彼女の家へと行った。鍵沼は藤野さんと同じ中学だった事もあって仲がいいらしく、何度かこの家に遊びにきているらしかった。鍵沼が藤野さんのお母さんに挨拶しているのを便乗して挨拶すると、何故かすごく歓迎された。藤野さんが制服を着替える為部屋のほうに行っている間、俺と鍵沼は藤野さんのお母さんと3人で話をしていた。それも俺の昔の事を鍵沼がべらべらと話し出したのだ。こいつっ!とも思ったのだが思わぬ収穫があり鍵沼に文句が言えなくなる。昔の俺の話を藤野さんのお母さんは覚えていたのだ。「あぁ、みぃちゃんの事ね!」っと昔を懐かしむように話をしてくれる。絆創膏のキャラクターの話には、みぃちゃんが大事にしていたから使ったのはあの一回だけだった事に密かに優越感を味わっていたりする。


居間のほうに通されお茶をご馳走になっていると、玄関のほうから「ただいま~」っと声がした。彼女だ…そう思うと心が落ち着かない。ここに顔を出してくれるだろうか?出来れば、挨拶ぐらいはしたい。


「ごめん、お母さん。有と約束してて、急いでいるから!」


そんな願いは虚しくも叶う事はなかった。それだけで少し落ち込んでしまった俺は、用事があるからと鍵沼を残して帰った。鍵沼はそんな俺に気が付いたのか、「また機会はあるよ」っと言って送り出してくれた。


それからというもの、藤野さんの家には鍵沼に誘われちょくちょく行くようになった。それで分かった事なのだが、鍵沼はどうも藤野さんに好意をもっているらしい。俺をダシにして藤野さんの家に行っているようだ。俺もダシにされているのを分かっていて、鍵沼を利用しているようなものなので文句も言えない。彼女に会うまで…そう思いながらお邪魔させてもらっているのだが…。藤野さんの家に行くようになっていつの間にか夕飯までご馳走になってしまうようになった。それはさすがに遠慮したかったが、鍵沼が土下座をしそうな勢いで頼んできたのでコレまでの鍵沼の事を考えると無碍に出来なかった。

そんな日常が普通になってくる頃には、俺もいい加減に気づく事がある。どうも彼女…みぃちゃんに避けられているという事を…。何かしただろか?いや、ずうずうしくも家に入り込んでおいて、何もしていないとは思っていない。今の状況は彼女にとっては不服であり迷惑でしかないのだ。失敗してしまった。もう彼女の中で俺の印象は最悪だろう。藤野さんにもきちんと言われたわけじゃないが、勘違いされている様子だ。鍵沼に誤解を解いてもらったはずだったのだが、何も変っていないよう感じる。藤野さんと2人きりだった事は一度もないのだが、周りも勘違いし始めている。そろそろ潮時だろう。


季節はもう冬に入ろうとしていた。


「藤野さんに、告白してみないのか?」


っと前々からの疑問を口にすると、鍵沼は眉間に皺をよせて言った。


「藤野は、イケメンが好きなんだ…。俺なんて振られるのがオチだよ」


鍵沼の容姿は特に悪いわけではない。何が悪いのかは俺にはさっぱりなのだが、一重であったり身長であったりニキビであったりそんな事を鍵沼は気にしているらしい。誰とでも仲良くなり人を楽しませる事の出来る鍵沼は、十分いい男だと思うのだが…。


「奏はいいよなぁ…。イケメンだし、会えばみぃちゃんだってきっと…」


「それはない。どうも避けられているようだし…」


「そんな事ないと思うんだけどなぁ」


「もういいんだよ。鍵沼には悪いけど、俺はもう家に行くつもりはないよ」


そう告げると、鍵沼は少し考えてから俺に最後の提案をした。それは、最後を覚悟した俺だったからのった提案だった。藤野さんが部活でいない時間に彼女の家に一人で行くというもの。ただ、お礼がいいたい。それだけの事を告げる為の最後の行動だった。

鍵沼から藤野さんへ連絡をしてもらい、みぃちゃんへメールをしてもらう。藤野さんには俺が忘れ物したから、鍵沼と取りに行きたい旨を伝えている。前回お邪魔した時に家を空ける事を藤野さんのお母さんは言っていたので、上手くいけばみぃちゃんしかいないはずだ。

俺は、彼女に逃げられないように急いで藤野さんの家へと向かった。


家の前には、ずっと話をして見たかった彼女の後姿がみえた。間に合ったらしい。


「みぃちゃん?」


思わず彼女を馴れ馴れしくも、ちゃん付けで呼んでしまった。失敗したとは思ってみても後の祭りとはこの事だろう。


「えっと…どちら様でしょう?」


「あっごめん。君のお姉さんに聞いてないかな?俺は、渡瀬 奏、いつも君のご家族にはお世話になってます」


「はい、姉から聞いてます。こちらこそ、姉がお世話になってます」


軽く下げる頭から結んでいない髪がさらりと肩から落ちる。その髪を触りたい衝動にかられ俺は、みぃちゃんに無意識に近づいていた。彼女が頭を上げてギョっとしてしまったので又失敗した事に気づく。どうも彼女に関して俺は失敗ばかりしてしまうみたいだ。とにかく、場の空気を変えるため話を続ける。


「君のお姉さんの部屋に忘れ物をしてしまったらしくて…お姉さんから、メールしてもらってるはずなんだけど…」


急いで携帯を取り出し確認しているみぃちゃんの顔色がころころ変っている。きっと、このメールを見ていたら帰ってくる気がなかったのだろう。


「帰ってきてくれて助かったよ」


思わず思っていた事を口にしてしまった。みぃちゃんは俺の言葉に驚き、気まずそうにしながら玄関のほうへ近づきドアの鍵をあけた。


「どうぞ…」


ちらりっと俺を確認するように見る上目遣いが可愛い。そんな事を思いながら「お邪魔します」っと言いながら中へ入る。本当に家には誰もいないようだ。姉の友人とはいえ、男を入れるなんて無用心だなっと思いつつも、そうでなかったら俺は入れてもらえてないのか…っと苦笑する。


「迷惑かけてしまってごめんね。どうしても必要なもので…。お姉さんの部屋まで申し訳ないけどついてきてもらってもいいかな?一人ではどうしても色々と…ねっ?」


みぃちゃんのほうを振り返り出来るだけ困っているかのように彼女に向かってお願いをする。彼女のお人よしな所に付け入るような感じがするが、そうでもしないと逃げられそうだ。


「…分かりました」


いやいやなのは分かってはいるので、心の中で「ごめん」っと謝る。玄関の扉が少し開いていたので閉めて鍵をしめる。鍵をしめた瞬間、ハッとしたのだがここで又開けるのもどうかと思いそのまま二階に進もうと自然な流れを意識して彼女の肩を抱き先へとさとす。二階に上がり、藤野さんの部屋の前までくると彼女は姉の部屋のドアをあけて俺を入れてくれる。


「あのここに居ますので、忘れ物をどうぞ捜してください」


「分かった。ちょっと失礼するね」


もともと探し物なんてないので、部屋を荒らさないように簡単に探す振りをして部屋を出る。「ごめんね」っと先ほどと同じように、すまさそうな表情を作りいうと、慌てて「いえ!気にしないでください」っと彼女は言った。面倒だと言わんばかりの顔だったのに、すぐに流される彼女が可愛くて仕方がない。


「ありがとう…。えっと、みぃちゃん…でいいかな?」


「えっっと…その…家族とか親しい人にしか、そう呼ばれていないので…」


どう断ろうかと思案している彼女に、俺はここでひいては負けだと思い彼女には悪いと思いつつも表情を曇らせながら言ってみる。


「俺とは親しくなりたくない…かな…」


「そっそうじゃなくて!これから親しくなってからでも…」


真っ赤にして慌てる彼女にホッとする。嫌われている訳じゃないらしい。


「よかった…なら、俺は親しくなるつもりだから…みぃちゃんって呼んでもいいよね」


「いや、あの…私…未李みりっていうので、その…」


えっ?それって…勘違いしてしまう言葉だと思うよ?そんな意地悪な事を考え、俺は彼女の名を口にする。


「未李」


彼女の動きが止まった。いや、俺も口にしたとたんに止まってしまっている。俺の口からでた名前は、とても自然なものにも感じる。


「苗字で呼ぶと、君のお姉さんとかぶってしまうから…」


これは、完全に言い訳。彼女にたいしても、俺にしても。


「別に、かぶっても…」


「未李…」


それ以上は言わないで欲しい。名前を呼ぶ権利が今は欲しいだけだから。いい雰囲気が流れ、もっと彼女が知りたいと感じて手を伸ばそうとした時、玄関から音がした。「ただいま~」っという声にこの部屋の主が帰ってきたのだと分かった。チッっと思わず舌打ちしてしまった。未李に聞こえたらしくこちらを振り向いたので、笑顔で返答する。


「何で鍵かかっているのよ~。みぃ居るの~?」


「二階にいるよー!」


がたがたっと階段を上がって俺達を見た藤野さんは、驚いた表情をした。


「奏くん一人で来たの?」


本来なら一緒にいるはずの鍵沼は俺に気をつかって、外で時間をつぶしてくれていた。


「鍵沼は?一緒にこっちにいると思っていたんだけど…」


「飲み物とかを買ってくるらしいよ」


しれっと嘘をつくと、怪しげに藤野さんが未李と俺を交互に見ている。怪しげな行動をとっていた自覚はあるので否定は出来ないが。逃げ腰の未李が俺の横からいなくなりそうだったので引き止める為に彼女に話しかける。


「未李…どこかいくの?」


「…ちょっと友人の家に…」


その友人の家が今まで俺をさける為に、居た場所なんだっと分かる。以前、一緒に帰っていた友人の家なのだろうか?まさか、男じゃないだろうな?お人よしな未李のことだ。騙されてないか心配になる。


「また、猫見に行くんでしょ!奏くん、あの公園にいた猫ね、このこの友人が今飼っているのよ」


俺達の会話に無理やり入り込んだ藤崎さんが、あの時の子猫の話をふってきた。丁度いいタイミングに思わず顔がにやけそうになる。


「そうなんだ…。まだ、元気なんだね」


「そうみたい。思い出すよね…、あの公園の事…」


「そうだね…、思い出すよ。未李…あの時は、ありがとう」


「「えっ?」」


あぁやはり覚えていないのかっと少し残念に思いつつも、子猫をいまでも可愛がってくれている事に嬉しくなる。


「あの時、未李にお礼を言えなくてずっと後悔していたんだ。だけど、やっと会えた…」


「えっ…だって、それって…」


「何いってるの!それは、私だって…」


オロオロしている未李を見て、大体の状況が読めてきた。彼女は姉が、俺を助けたのだと思っていたのだろう。そして、藤野さんは勘違いしたままだったのだ。鍵沼は何やってたんだ?


「俺は、籐野ふじのさんだと言った事は一言もないよ。似ているし苗字は同じだとは言った事があるかもしれないけど」


「だって…」「でも…」っと藤野さんは涙ぐみながら俺を見る。何でこんな勘違いしたのかは分からないが、俺の言い方が悪かったのだろう。もう少しきちんと話をすれば良かった。


「誤解させていたならごめん。まさか勘違いしていると思ってなくて…。俺は君に、お礼なんて言ったこともなかっただろう?」


「お礼なら、ずっとお礼が言いたかったって…!」


「うん、だから今、未李にお礼を言ってるんだ」


ピンポーンっという軽快な音と共に、鍵沼は二階へと自分の家かのように上がってきた。


「あれ?奏、みぃちゃんに会えたんだ!良かったな!」


気まずい空気を分かっているだろうに、何事もないように鍵沼はニカニカ笑っている。そんな鍵沼に呆れ顔で俺はどういう事かと説明を求めた。


「鍵沼、藤野さんが何か誤解していたみたいなんだけど、説明してくれてたんじゃないのか?」


「え?説明したと思うんだけど…。奏は、昔からずっと想い人がいて探してるんだって」


「…それ、説明になってないよね」


頭がいたくなる。こいつに頼んだ俺が悪いと思うべきかもしれない。


「…そんな…だって、ウチにまで遊びに来てくれて夕飯も食べて…一緒に遊びにも行ったし…。それに、それに…」


「それ、全部俺もいたじゃん」


好きな人に自分の存在を消されていた事にすねながら、鍵沼は藤野さんの言葉をさえぎった。そして、未李のほうを見て真剣な顔になる。


「みぃちゃん、奏ときちんと話してあげてくれるかな」


「えっ…」


おちゃらけた口調だったのが、急に真剣になったので驚いたのだろう。未李は言葉を考えている様子だ。


「いっ妹は、関係ないじゃない!」


藤野さんが何をしたいのかは分からないが、俺と未李に話をさせたくないのは分かった。


「関係ないわけないだろう?奏がずっと探していたコだぞ!お前だって、運命の出会いだって素敵だって言ってたじゃないか」


「それは…そうだけど…」


珍しく鍵沼のイラついた口調に、藤野さんは動揺している。それでも、納得しない藤野さんは口を噤まない。


「どうして、妹だと思うのよ!みぃ!あんた覚えていたとかな訳!?」


「みぃちゃんが覚えてなくてもさぁ、お前の所のおばさんは覚えてたぞ。奏が昔の話をした時に、『あぁ、みぃちゃんの事ね』ってさ」


俺の代わりに鍵沼が答える事も、藤野さんの癇に障るらしい。


「うちのお母さんが?昔過ぎて、私と間違っているんじゃないの?」


それを言われた瞬間に、公園で再度出会った未李を思い出し「それはないよ…」っと声に出していた。


「未李があの時くれた絆創膏がね、あの時に流行っていたキャラクターだったんだ。その絆創膏の話を未李のお母さんが覚えてたんだよ」


きっと、誰も覚えていなくてもずっと俺は覚えていただろう。他人にとっては取るに足らない事でも、俺にとっては、運命にも感じられた瞬間だった。本当に嬉しかったんだ。一生懸命、俺の傷を心配してくれた事が。

俺は未李に怯えさせないようにゆっくりと近づいて耳元でささやいた。


「そんな事がなくても未李に会えばすぐに分かったけどね」


顔を真っ赤にしてくれた事に今日は満足しようと、理性にストップをかける。けれど、もう遠慮はするつもりはなかった。今まで遠慮して逃げられたのだから仕方がないっと諦めて欲しい。


未李はどこかに出かけようとしていたが、鍵沼のお陰か俺との時間を作ってくれた。未李は『お願い』される事に弱いらしく、携帯の番号も交換する事もできこれから会う時間も約束してくれた。


藤野さんは、鍵沼の優しさ(?)にふれ二人は付き合うようになった。俺にとってはやっとか…っとも思うのだが、鍵沼はチャンスをやっと掴んだんだと言っていた。俺を利用していた分はこれからも動いてもらう事にする。


彼女に『奏くん』っと呼んでもらうようになり、会えない時はこちらから未李に会いに行く事にした。

迷惑そうにしながらも、俺を拒否しない未李に付け込んで今日も彼女の傍にいる。


成長した子猫の飼い主にも会い、何故だか握手を求められた。良くは分からないが、未李を大事にしろという事だろう。


いつの間にかただの思い出が、彼女への好意となり傍にいる。人はコレを運命だと言う人もいるが、俺はちょっと未李へ同情してしまっている。こんな奴に想われて捕らえようとしているのだから。


それでも大事にするから、どうか運命だと思って俺の傍にいて欲しい。隠した執着を、運命に変えて今日も思い出を紡ぐ。





これは運命?それとも………。それは、君しだい…だよ。










読んでいただきありがとうございました。

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