セーラー服と操り人形・3
3人が船に到着したのは、それからすぐの事。
戻ったぞ、とセキが言う前に、ふと気付いたのは船の違和感。
「・・・ーーーー」
誰も、出てこない。
あれ程心配していた連中が誰一人として、だ。
眉間にシワを寄せたセキが船内を荒い足音を立てて早歩きで進むその後ろに続くクウヤもまた、その違和感を感じていた。
そして辿り着いた甲板に見えたのは、たった一人の後ろ姿。
「あれ?」
真っ先に声を上げたのは夜だった。
その後ろ姿に見覚えのあった夜は、クウヤから離れると少し駆け足でその人物に近付く。
「ツィーリ、さん?」
知っている名を口にすれば、こちらを振り向くその姿。
それはやはり呼んだ名通りの人物で、ツィーリはその目に夜を映した途端に夜を抱き締めた。
「む、ぎゅ」
「無事だったか、夜・・・!!」
その声からは明らかな安堵が伝わってきて。
夜はツィーリの胸から顔を上げると、苦しそうにしながらも笑みをツィーリに向けた。
「ツィーリさん、だ。どうしたんですか?」
「どっかの馬鹿野郎共に目ぇ付けられてたから、心配になってな。」
言いながら、ギロリと睨み下ろしたのはツィーリの足元。
それにつられて夜も同じ方向へと目線を下ろせば、そこには正座させられて項垂れる船員の面々。
「気配探って追い付いてみりゃ、案の定だ。挙げ句、海に放り出されて海軍に捕まったって?腕っぷしに自信のある連中が雁首揃えて、女の子一人守れねぇなんて、木偶の坊にも程があんだろ。」
そう、説教していたんだ、と。
冷ややかな目線と共に凶悪な笑みを口許に浮かべたツィーリは、腕の中の夜に視線を戻してから再度その体を抱き締めた。
「怪我は?何もされてねぇか?」
「だ、大丈夫、です。大丈夫ですから、ツィーリさん、そんな怖い顔しないで下さい。美人なせいで迫力が倍増ですよ。」
「それだけ口が回りゃ大丈夫そうだ。」
夜の言葉に、表情を緩めるツィーリ。
そして夜の体を自分から離すと、唖然と固まるクウヤに近付いた。
そして、
「テメェが付いててなにしてやがんだ、このクソガキ。」
スパーン、と。
それはもう景気の良い音を立てて叩かれたのはクウヤの頭。
あまりの衝撃に目の前に星を飛ばせたクウヤは、ストン、とその場に座り込む様に崩れ落ちた。
「・・・おっかねぇ姉ちゃんだな・・・」
「他人事じゃねぇぞ、炎鬼。テメェも同罪だ。」
クウヤの姿にひく、と引きつった笑みを浮かべたセキだったが、その声を聞いたツィーリは目線をセキに移すと間髪入れずに握った拳をセキの能天に降り下ろした。
「っ、・・・ーーーー!!!!!」
その衝撃といったら。
力一杯に落ちた拳骨に、セキは頭を抱えてしゃがみこんだ。
衝動と痛みに蹲るクウヤとセキを見下ろし、ツィーリはふん、と鼻を鳴らして二人の前に仁王立ちになる。
夜はその姿を、声も出せずに呆然と見ていた。
と、その時だ。
「夜、」
ふ、とかけられた声。
その声に夜が振り向けば、目の前を覆ったのは一人の人物。
「あの姐さん、何モン?」
まだ自身も動揺しているのだろう、戸惑いの声色が混ざった声で夜に話しかけたのは、カイだった。
「カイ、何その顔」
「問答無用で一発喰らった・・・」
夜の目に映ったのは、右の頬を真っ赤に腫らせたカイの顔。
何をしたのかと問いかければ、いきなり現れたツィーリに対して食って掛かったのだ、と。
不機嫌そうに吐き出すカイに、夜は思わず吹き出した。
「ツィーリさん、無敵すぎ・・・っ」
「お前・・・、」
「ん?なに、カイ。」
「あー・・・いや、いいや。お前が大丈夫そうだし、うん、もーいいや。」
緊張感のない笑みに、抜かれた毒気。
カイの手が夜の頭に伸びてきたのはその直後で、その手はぐしゃっと髪を撫でた。
「お帰り。」
無事で良かった。
ぶっきらぼうに言った後にはにかんだカイの顔に、夜は笑みを返しながら言葉も返した。
「ただいま。」




