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仙華頌籟 -A fateful reunion beyond a millennium-  作者: 織葉りんご
第一部 第四章 嵌合、夢幻、再会
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78話 見えぬ攻撃、効かぬ攻撃

 投げ飛ばされた木煙ムーイェンは地面に叩き付けられたと思いきや、その身はしっかりと魏君ウェイジュンが足と腕に力を入れ、地に二本の線を描きながら受け止めていた。


「わ、悪い……」

「気を付けろ…油断すると一撃でぶぞ」


 二人の目線は宮殿の方へ向く。瞬刻、その宮殿から一つの影がこちらに向かってもの凄い速度を以って飛んでくる。迎撃態勢。だがそれは危険だと判断し、二人は回避に専念した。その判断は大正解だった。こちらに到着した常紗チャンシャの周辺はクレーターができており、半端な迎撃を試みるとかえってこちらがダメージを受けてしまう。


「はぁ!」


 着地後の僅かな硬直時間を魏君ウェイジュンは見逃さなかった。されど、その隙を突いたであろう攻撃を常紗チャンシャも逃すはずはなかった。剣尖が迫る最中、常紗チャンシャはその筋肉のついた太い左腕をブンと振り払った。刹那、


「ぐあぁ─────!」


 何かが、魏君ウェイジュンの腹を攻撃した。そしてその攻撃は強烈で重く、くらってしまった魏君ウェイジュンの体は後方へ、空となった民家に向かって吹き飛んでしまった。その過程で、自分が何をくらったのかを視界の端で確認した─────しかし、そこには何もなかったのだ。風で飛ばされたにしては打撃が強すぎる。かといって高速のラリアットかと言われればそれもまた違う。だけど一つだけ、確信したことがある。どういう原理かはまだわからない、けれどはっきりとわかったこと。あの攻撃は、術色だったということ──────


 回避後、木煙ムーイェンは速やかに姿勢を直して目前を見据えていた。

 今、何が起こった?奴が腕を振った瞬間に魏君ウェイジュンが吹き飛ばされたぞ?何をしたんだ?しかし、魏君ウェイジュンが吹き飛ばされたとなると、復帰までは──────僕一人ってことだよな!


 鬼のような形相にも似た険しい顔を木煙ムーイェンの方に向けてきた。木煙ムーイェンは生唾をごくりと飲み込み、表情がぐっと引き締まった。青白い切先を目前に向けると同時に半身になって構えを取る。


「──────」


 この圧倒的な力、僕一人では絶対に勝てない。なら、魏君ウェイジュンが戻るまで奴の体力を消耗させてやる。そして二人でトドメだ────来い!


「カァァ!」


 常紗チャンシャの凄まじい咆哮は一瞬にして陽柱国中に響き渡り、瞬刻、雷電のように敏捷な二つの攻撃が互いに交差する。

 拳と突き。それは互いの額に命中している。大きな右の拳は木煙ムーイェンの頬を埋め尽くし、顔全体に衝撃が走る。対する常紗チャンシャは、剣尖は鼻先を捉えているものの、その間には二センチほどの隙間ができており血も流れていなければ傷すらついていない。けれど、木煙ムーイェンの腕には確かに命中した感覚があった。その違和感を抱えながら、木煙ムーイェンはそのまま拳に押され右に回転しながら吹き飛ばされる。

 幸い、回転は二回程度、滞空時間も僅かだったのですぐに体勢を立て直すことができた。これ以上後ろに行かんと踏みとどまりながら足に力を込める。そしてバネの反発の如く勢いよく木煙ムーイェンの体は前に出た。しかし、速度は常紗チャンシャの方が上回っていた。風を切りながら迫る刃は常紗チャンシャに命中せず、逆に常紗チャンシャの拳が木煙ムーイェンの腹部に命中した。


「かは───!くそっ…!」

「らぁああ!」


 腹部への殴打直後に回し蹴りを行う。蹴りは木煙ムーイェンの左頬に命中、さらにその流れで木煙ムーイェンの脳天目掛けてダブルスレッジハンマーを繰り出そうとしていた。

 されど、ただやられるだけの木煙ムーイェンではない。こちらも受けた衝撃を流れとし、岩塊とも言える常紗チャンシャの組まれた両手を冷淵で受け止めた。


 空気が歪む。

 受け止める最中、木煙ムーイェンも異様な事実を目の当たりにする。刃が拳に触れていない。まるで数センチの虚空が拳を纏っているかのようにも見える。先ほど、剣尖が捉えた感覚はこの謎の虚空だったと理解した。しかし原理は未だ不明。

 拳を弾き返し、互いに後方へ押しやられる。だがそこへ、爆風じみたラリアットが迫る。何という復帰速度か、木煙ムーイェンは剣を構えることしかできなく、太い腕は刃に直撃して轟音と共に振り切る。二本の線が地面にできる。ギリギリで受け止めることはできたものの、受け止めた剣ごと押し戻され、握っている手には強烈な痺れが迸る。


「う────」


 木煙ムーイェンの姿勢が崩れ、常紗チャンシャは間髪入れずに拳を叩き付ける。瞬間、ガキィンと甲高い音が目の前で鳴り響いた。眼前を見る。そこには、


魏君ウェイジュン…」

「すまない。復帰に少し手間取った──────ハァ!」


 漆黒の刃は、嵐のような拳を押し返した。そして透かさず大剣を大きく振るう。しかし常紗チャンシャは大きく後ろにジャンプして魏君ウェイジュンの攻撃を躱す。罅樹は命中することなく空気を斬り裂き、常紗チャンシャは低く構え直す。

 繰り出す攻撃一つ一つが災害のようで、まるで理性の欠片もない猛獣のようだった。しかし、改めて構える彼の姿を見ると、瞳はこちらをじっと見据えており、しっかりと自分の意志で体をコントロールしているのが判る。この空白を利用して、魏君ウェイジュンは先ほど受けた攻撃のことを木煙ムーイェンに話す。


「気を付けろ…あいつは、目に見えない術色を放ってくるぞ」

「な、なんだって!?何かの間違いじゃないのか…?」

「いや、あれは完全に術色の類だった……だが何故目に見えないのかは俺にもわからん」

「…確かに術色だって言うなら筋は通る。僕の攻撃が一切通らず、彼の間の虚空に全て阻まれる……もしかして、塗着術か?」

「いや、それだけじゃない。俺を吹き飛ばしたのは肉体ではなく術色…術色と飛ばす攻撃術も兼ね備えている。そして多分、範囲術も─────」

「まさか…それって──────」

「ああ…奴の名前、そして雰囲気から察するに、常詩チャンシィの血縁者だろうな」

「なんだって……でも、それなら色んな型を使えるのも納得がいく。まぁ、見えてないから確定したわけではないけれど、そう考えた方が良さそう───いや、今はそう考えるしかなさそうだ」


 少し遠くに居る常紗チャンシャが地面を抉りながら前へ飛び出してきた。距離にして十メートルほどか、その距離を一息で詰めてくる。


「来るぞ!」


 猛スピードで放たれた砲弾のようなパンチを、二人は左右に避ける。刹那、互いは反転し、各々の持つ剣を常紗チャンシャの両脇から振り下ろす。だがやはり、透明の鎧によって阻まれる。共に連携の取れた動きで迫り来る攻撃を捌く。最中、木煙ムーイェンはあることを思い付いた。


 魏君ウェイジュンは、あの透明な何かを術色と言っていた。飛ばす、纏う、術色でできることを満たしている。もし本当にそうなのだとすると、アレが通るかもしれない。そう信じて、次の隙を突く──────


 目線を向ける。魏君ウェイジュンは何かを察し、自身を敵の前に出す。


「タァッ!」


 大地が揺れる。放たれた踵落としはまるで落下する隕石のよう。それを押し止めるようにして大剣を振るった。どちらも重い。だが、どれだけ頑丈な人間が隆起した岩を掴んで登ろうとしても瀑布には敵うわけがない。


「チィ…」


 旋風がぶつかり合う。互いに怯むことなく正面から弾く。そこに、間断という文字はなかった。技と技、力と力が嵐のように繰り広げられる。だが、限界は─────


「──────ッ」

「はぁああ!」


 先に魏君ウェイジュンが到達しそうだ。速度も、間合いも、体力も、何もかもが違う。おおよそ3秒。木煙ムーイェンはそれに息を吞む。途轍もなく巨大な暴力の隙が生まれるまで防ぎ続けるも、彼は既に限界に近い。呼吸は乱れていき、振るわれる秘剣の動きにも衰えが見え始めている。


「───────────」


 無理だ。完全な隙などこいつには生まれない。次だ……次に魏君ウェイジュンが弾かれた時に行くしかない。そうでなければ、先に魏君ウェイジュンが潰れる。


「く────!」

「りゃぁ!」


 魏君が弾かれた瞬間、一気に体全体に術色を纏って突進する。体の輪郭がぼんやりと白く輝き、流れ星のように駆ける剣尖は常紗チャンシャの厚い胸元を捉えた。もちろん、真に捉えているものは透明の鎧。そして賭ける。

 彩法調和。互いの術色を混ぜ合わせる技術。発動した瞬間、だんだんと木煙ムーイェンの纏っていた術色が消え始める。その須臾に確定した。彼を覆っているこれは術色だと。そして、木煙ムーイェンから白の光が完全に消え去ろうとした刹那──────

 バチィイと電気が奔るような音を立てて、剣共々弾かれてしまった。まるでプログラムのエラーが起こったかのような不可解な現象が目の前で起こった。しかし、


「!─────」


 湾曲する背景。だが、その背景の真ん中は鮮明である。まるで歪む虚空に穴が開いたように。それは、後ろに居た魏君ウェイジュンも認知していた。その鮮明な世界を開かれた穴と信じ、魏君ウェイジュンは握った大剣の切先を前方に向ける。刹那、木煙ムーイェンの左側を一筋の稲妻が通り過ぎた。魏君ウェイジュンの放った術色は穴に向かって迸る。そして─────


「ぐぅ……ッ!」


 厚い腹部に焼き焦げた跡が着いた。この戦いが始まってようやく、常紗チャンシャの体に傷を一つ入れることができた。

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