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仙華頌籟 -A fateful reunion beyond a millennium-  作者: 織葉りんご
第一部 第二章 約束の蒼炎
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44話 吹き荒れる風、人界最強の業

 これは少し前の出来事。

 まだ冥淚玄武が封宝堂から解き放たれていない時、国主の住居前にて。


「よう最強、剣と首を取りに来たぜ」


 肩にポンポンと剣を弾ませて、意気揚々を言い放った。その少年に、チャンシィは睨みながら声を低く問いかける。


「テメェは誰だよ」

 それに対し、少年はニッと歯を見せて答えた。

「俺は宝刃戯派の太阿タイアー!将軍よりも上の存在である「神」を信仰し、卑劣なる仙人共のくびきから人々を解放する剣神の子だ!」


 名乗り叫んだと同時に、太阿タイアーチャンシィに向かって突進する。その速度はまるで弓から放たれた矢のように速かった。常人であれば、この速度には対応できない。だが人類最強の彼なら────そう思ったが、この速度を前にしてチャンシィの体はピクリとも動いていなかった。


 勝った。そう確信した太阿タイアーは、その勢いのまま剣を首元に叩き込もうとした。その瞬間、妙な違和感が伝ってきた。チャンシィに当たる寸前、何かに接触した。そしてそのまま、何かに接触した剣はエアホッケーのパックのようにあらぬ方向へと滑って行ってしまった。予想外故に、体重の動きを制御することができない。


「!──────」


 よろける体を支えるように、チャンシィはこちらに優しく掌を向けた。刹那、翠色の輝きが視界を埋めた。その輝きは拳のような突風へと変貌し、太阿タイアーの腹へと叩き込まれた。


「カハ──────ッ!」


 勢いよく後方へ。全身の骨が砕けたような、そんな衝撃が体に走った。両足を地に着けて踏ん張り、後退する体に、転倒する体に抗う。


「へぇ、意外とやるんだな」


 すぐ後ろで見ていたウェイジュンは何が起こったのかわからなかった。攻撃を仕掛けた太阿タイアーがカウンターをくらった、魏君ウェイジュンはその程度の情報しか得られなかった。


「く……っそォ──────」

「ほら、どうした。さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ。ほら、来いよ、早く」


 チャンシィは指を曲げ伸ばしして太阿タイアーを煽る。そして彼は、まるで手本かのようにその煽りに乗ってしまった。


「舐めんじゃねぇぇぇ!」


 先ほどとは打って変わって、体を空色に光らせて突進する。

 術色・空、塗着術。

 自身を雷とし、今度こそチャンシィの首を討たんとす。

 されど──────また、謎の違和感に阻まれた。そしてスルリと、チャンシィの輪郭をなぞるように剣が外へと抜けていった。

 そして再び、


「学ばねぇな、ガキ」


 今度は翠の閃光が太阿タイアーを上に吹っ飛ばした。チャンシィは上に吹き飛ばした太阿タイアーを追うように、なんと浮き始めた。体をふわりと浮かせ、その後勢いよく上に進んで行った。


 宝剣を共に守っている時に彼について聞いていた。

 チャンシィ色容体しきようたいという特殊な体質であり、生まれた時から既に術色を扱える。さらに彼はその頂点、全ての型も扱えると教えてもらった。先ほどの不可解な回避は塗着術が関係していると先ほどの攻撃時に解明できた。


 異常なほどの術色を体に纏い、如何なる攻撃も受け流す風の膜。生半可な、いや彼を脅かすほどの攻撃で無ければあれを突破することはできないだろう。

 そしてさっき行った浮遊、あれは陳湛チェンジャンがよくやっている範囲術を駆使したジャンプにとても近い。が、それはあまりにも自然なため、本当に彼自身に飛行能力が備わっているのだと勘違いしてしまうほどである。

 しかも彼は攻撃術も使える。色々と工夫し、その気になれば永遠に空を飛ぶことだって可能だろう。彼を追うように、ウェイジュンは天を仰いだ。


「ハッ、そんなもんか?宝刃戯派っつうのはよぉ!」


 勢いよく上昇したチャンシィは、上空に飛ばされた太阿タイアーの体に追いつく。追い打ちをかけようと手を横に伸ばした瞬間、太阿タイアーの握っている剣が輝き始めた。されど攻撃をしないという選択は取らず、横に伸ばした手を振って風の斬撃を目前の的目掛けて放つ。

 刹那、その輝きは風の斬撃を弾き甲高い声で鳴いたのだ。


「なんだ?」


 チャンシィの目の前に映るそれは、紛い物の雷龍だった。だがそれには実態があるようで紛い物の龍は掌で彼を支えている。


「舐めるなよ最強…お前が相手にするのは、この世の中で最も強い剣である『魔剣』なんだぜ?」


 なるほど、これが魔剣か……噂には聞いていたが実際に見るのは初めてだ。

 魔剣。それは魂の宿りし最高峰の剣。その能力は凄まじく、秘剣で例えるならば、デフォルトが解憶状態と言ってもいいほどのスペックである。おそらくさっきまでの高速攻撃は魔剣による補助だったのだろう。そして、あの雷龍は剣に眠る魂。故に──────


喚依かんいていりゅう太阿タイアー──────これが俺の魔剣だ!さぁ、魔剣を前にしてどこまでやれるかな!?」

「そうだな。少なくともやれるとしたら、お前の命を奪うところまでかな」

「は?」


 あり得ないほどの速度でこちらに接近してきた。反応はできた。しかし、防御は間に合わずチャンシィの攻撃をくらってしまった。しかしこちらは今、霆龍によって守られている。くらったのは俺ではなく龍。手応えはあったとしても俺に攻撃が届くわけが──────


「───────────」


 瞬刻。守っていた龍がノックバックし、太阿タイアーの姿は露わになった。


 なんで──────


 手をこちらに向けているチャンシィを睨みながら疑問を抱く。だがそれを考える時間は与えられないだろうと瞬時に判断して龍と共に斬りかかる。

 チャンシィは翠の大きな弾幕を高頻度で放ってくる。どれだけ避けてもその先には弾幕が迫ってきていて、まともに近づくことすらできない。なんなんだ、この男は。一体どういう事なのだ。


 太阿タイアーチャンシィの規格外に戸惑う中、観戦していたウェイジュンは彼の御業について考察し、そして把握していた。

 前も言った通り、彼は全ての型を使える。故にそれらを同時に発動したり、瞬時に切り替えたりすることも可能だと考えた。そしてあの大きな弾幕。あれは攻撃術だが、ただの攻撃術ではなく彼のポテンシャルが遺憾なく発揮されている。通常であれば、あの大きさの弾幕を作るには結構術色を溜め込まなければならない。だから基本的に皆は、時間の掛からない斬撃や矢を飛ばす方を選ぶ。だが彼は、自身に纏った術色を攻撃術として放っている。

 細かく解けばこうだろう。一に、塗着術で体に術色を纏う。二に、放つ場所に纏った術色を流す。三に、その場所に集めた術色を攻撃術で生成した弾幕と融合させて放つ。

 理屈は大まかに理解できる。けれど、それが出来る人間は限られている。仙人でさえも持つ型は一つなのだ。他の型を併用して効率良くできたとて、汎用性はまるで皆無。寧ろチャンシィにしか使えない業だろう。獣道を楽に歩ける方法があったとしても、体力、体格、感覚はその人とは違うのだ。

「──────すごい」


「どうした?全然こっちに来れてないみたいだけど。魔剣の力ってのはこんなもんか…はぁ、正直ガッカリだな」


 前方に出していた腕を横に。瞬間、チャンシィの背後に無数の弾幕が現れる。あれは範囲術。だがその量はあまりにも桁違いなものであり、陳湛チェンジャンでさえもこの量は出せないだろう。この男はどこまで異質なのか。


 無数の弾幕が一斉に掃射される。もちろん、彼の霆龍はその手数に耐えることができずにだんだんと体に罅が入って行く。


「く、っそ…ぉ──────!」


 当たって砕けろと言わんばかりに、ヤケクソじみた突進を太阿タイアーは繰り出した。最中くらう弾幕。罅割れる龍に見向きもせずただただ空を突っ走る。


「うおおおああぁぁぁ!」


 咆哮。けれど、声を上げれば形勢が変わるだなんてことはありえないと思い知らされる。渾身の右払いは、またも風の膜によって受け流された。どれだけ力が籠っていようとも、どれだけ術色を纏っていようとも、彼に対する攻撃は本当に無意味でしかなかった。

 バリンと龍は砕け、空中に放り出された無防備な体を的とし、チャンシィは拳を思い切り後ろに引いた。その時、ボンッという小さな爆発音が耳に届いた。その正体は下から見上げているウェイジュンにのみ把握できた。


 彼は今、さっき背後に出した弾幕を一つ、肘で破壊したのだ。そしてその破壊された弾幕は大小に震え始め、今にも爆発すると言わんばかりの点滅が走る。されど、その場に固定された肘を押すように強烈な突風が巻き起こった。十分に腰を入れたパンチよりも速く、光と変わらないほどの速度を持った拳が太阿タイアーの鳩尾に勢いよく叩き込まれた。


「──ァ、…──────」


 苦悶の嗚咽に、男は笑う。まるでそれは、一国の国主とは思えない、まるで鬼の王のような悍ましさを感じる程だった。十になったかどうか、それぐらいの子供を思い切り殴って笑みを浮かべているのだ。例えその対象が悪だとしても、身分に関係なくこの一方的な戦いだけを見れば果たしてどちらが悪か分からなくなる。

 笑みを浮かべた男は、こう放った。


「終わりか?けど足りねぇなぁ、まだまだ楽しませてくれよ─────────」

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