40話 倉庫潜入、石板泥棒
突然だが!ここでオレちゃまの自己紹介をしてやろう!
オレちゃまは、あの有名な大泥棒である温帆寧に憧れて泥棒を始めたしがない泥棒寧寧だ!よぅく覚えとけよ!これから有名になるんだからな!最古参を名乗れるぜ!?
んでよ、何かすげぇことを耳にしちまったんだ……この国、短日国には千年長寿を叶えてくれる扉があるらしい。その扉を開けるには三つに分かれた石板が必要だとか…
そんなの、この大泥棒に憧れた寧寧ちゃまにかかれば御茶の子さいさいのちゃいって訳よ~!
でねでねここからが重要なのよ~!なんと昨日、みんなが寝静まってる深夜三時くらいに国主の建物に侵入しちゃったのだ!すごいだろ!?褒めろ褒めろ!そんでもって、オレちゃまの華麗な泥棒っぷりで警備を避けて行ったの!そしてね~コレ!石板の欠片を一つ盗んじゃったの~!あ、でもちゃあんと偽物を置いてきたから誰も気付いてないんじゃあ!プププ。あの時のガキといい昨夜の警備といい、オレちゃまめちゃくちゃ運が良いのにょ~!
そんでそんで!?将軍がよくわからない二人を連れて狂暴連中の所に行ったのさ!しかもそこには二つ目の石板が!オレちゃまワクワクすっぞ!
こっそり後ろをつけてってやるポ~!
◆
倒れている、いや巍儀芳が気絶させた男の懐から倉庫の鍵を奪って鍵を開ける。恐る恐る扉を開けてまずは様子を伺う。が、特に中には警備している人間は見られない。
「見張っているのは入り口だけなのかな?」
「隙間から見た感じと静けさを考えると、おそらくそうかと…」
「それなら運がいいわ。誰か来る前に石板を見つけ出して帰るわよ!」
完全に扉を開けて、倉庫の中に侵入する。
裏口、さらには土の中なので埃っぽくカビだらけ。どうやら奥の階段から部屋に入るようだ。
音を立てずに慎重に歩く。この空間には居なくとも、上には人が居るかもしれない。階段に足を。ギィと軋む音に緊張をさせられる。上がった先の扉に耳を当てる。その先から音は聞こえない。
ここまで静かだとかえって恐ろしさもある。けれど、下がることはもうできない。尚無鏡は陳湛と巍儀芳と目を合わせる。先ほど同様にそろりと音を立てずに扉を開ける。
先の部屋からの音は無かった。が、その部屋にはなんと、この組織の長である磊紫が椅子に座っていたのだ。幸いにも彼はあちらを向いていたので、こちらが覗いていることに気付いていない。ただ磊紫が座っているなら気付かれないように通り抜ければいい。だがそうはさせんと言わんばかりに、彼の傍には探していた石板が存在感を放っている。
「どうする……?」
「とにかく、あれを回収しないと終わらないわ!なんとしてでも取るわよ」
「でも一体どう取れば…」
そして、彼を観察しているとあることが判明した。首がカクンカクンと上下に弾んでいる。磊紫は寝ているのだ。気持ちはわかる。室温は丁度良いし、ほぼ無音空間、倉庫故の薄明るい感じ。でも流石に危機感が無さすぎるというか、何と言うか。
浴場で巍儀芳から聞いていたイメージとは全然違う。人質が居ないからなのか、今敵対しているわけではないからか、ピリピリした感じではないからか、とにかく全然違う。陳湛に問う。
「陳湛、あんたの風で手繰り寄せることはできない?」
「不可能ではありませんが、あの範囲のみに絞るのは不可能かもしれませんね。風に触れた感覚で起こしてしまうかもしれません。危険度は高いかもしれませんが、直接行って取った方がまだいいかと」
「ん~、そっかぁ…」
というか何で磊紫がこんな倉庫に居るんだよ!部屋に戻ったんじゃないのかよ!
心で文句を言ったって物事が進んで行くわけではない。進むのは時間だけ。時間のみが流れていくだけだ。すると巍儀芳が口火を切った。
「いいわ。ここは私一人で行く。二人は逃げ道を確保しておいてちょうだい!」
「わかった!」
静かに返事をして尚無鏡と陳湛は来た道を戻り、裏口の方まで行く。
大丈夫だ。まだあの男は起きていない。巍儀芳に向かって親指を立てる。それを確認して頷く。
「よし──────」
気合を入れて、部屋の中にそろりと入る。彼がどの程度の音で起きるかはわからない。故に、絶対に音は立てられない。踵から着いて爪先を払う。
あと7メートル。
先ほどまで遠かったので、近づいていくとわかる。小さく鼾をしている。かなり熟睡のように感じられるが油断は絶対にできない。
あと6メートル。
瞬間、磊紫の体が動いた。起きてしまったか、と思ったがすぐ鼾が聞こえてきた。ただ姿勢を直しただけだとわかり安堵する。
あと5メートル。
あと4メートル。
刹那、じりじりと石板に近づいていく巍儀芳を開けた扉の前で見ている尚無鏡と陳湛の横を、黒い影が一瞬で通り過ぎて行った。気付いた時にはもう遅く、そいつは奇声を上げながら石板をかっさらっていったのだ。
「石板はオレちゃまがいただきっぴょ~!」
「な!?」
「え!?」
「フガッ!」
まずい!このよくわからん奴の奇声のせいで、磊紫が完全に目を覚ましてしまった。気のせいか、と言って再び眠りにつけない程度まで覚醒してしまった。
「お先に失礼~!」
こちらに向かって来る男を尚無鏡は捕まえようと構えた。けれどなんと華麗な動きか、反対に行く予備動作はほとんどなく見事にフェイントに引っかかってしまった。
巍儀芳が向こうを指差しながら叫ぶ。
「二人とも、あいつを追うわよ!」
来た道を戻って倉庫から出る。幸い距離は離れていないので見失うということは無かった。奴は私達が来た道を戻っている。どこかに行かれるよりかは全然マシだ。
しかし俊敏。華麗に崖を上ってゆく。すると前方に、その後を追うようにして上昇気流が巻き起こる。言わずもがな、これは陳湛が起こしたもの。上に素早く行けるよう設置した風。
三人はその上昇気流に乗って軽々と滝の上まで行くことができた。
「待ちなさい!」
「待てと言われて待つ泥棒が居るかってんだーい!」
両手で石板を抱えながら走ってゆく。その彼の背中にある巾着から見覚えのある物が見える。気付いた巍儀芳は大声を上げた。
「ああぁぁ!」
「どうしたの!?」
「あいつの巾着に石板が入ってる!しかもあの割れ方、模様の形、衛団で管理していた石板!あいつ盗んだのね!?というか国主は何やってるのよ!」
「とにかく、あの盗人から石板を取り帰りましょう!」
そう陳湛が言葉を放った瞬間、後ろから何か音がしてきたことに気が付く。ドドドドと地面を蹴る音が複数重なったもの。まさかと思って走りながら振り返った。
そこには、予想以上の光景が広がっていた。
「「「まてゴラァァァァァ!!!」」」
長だけかと思っていた。長だけじゃなくても半数、それ以下の人数だと思っていた。まさか、組織の人全員で追いかけてくるとは思ってもみなかった。野営地の方はもうどうでもいいのか。いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
潜入している時は中々にまぬけな一面が多かったが、巍儀芳の経験上彼等は非道な者達だ。もしあの盗人が街に入って行ったりしたら、大量虐殺が起こる可能性がある。
妖鬼であれば殺すことは容易いが、彼等は一応人間だ。どんなに酷いことをしていても殺すことはできない。
この状況、一体どうすれば──────
◆
「──────暇だな。本当に宝剣を盗む奴が来るのか?」
「そのはずですけど……」
ある程度世間話を済ませて、退屈そうに耳を穿りながら常詩は魏君に言葉を吐いた。ぐっと背伸びをして、常詩は椅子から立ち上がった。
「どちらに…?」
国主は頭を掻いて、んーっと喉を鳴らした後にこう言った。
「まぁ、女の所だ」
「お付き合いされている方の所にですか?」
「いやいやそんな綺麗なもんじゃねぇよ。言ってしまえば風俗嬢だよ。最近行けてないし、黙ってるのも退屈だしね。んじゃ衛兵諸君、あとは頼んだよ」
と言い、彼はここから出て行ってしまった。その言葉に数秒固まってしまったが、すぐに彼の後を魏君は追うように飛び出していった。流石にどうかと思って一言言ってやろうと、自分の心はそう言ってきた。
外に出る。すると、少し先に常詩が立っていた。その背中に向かって、
「国主!あなたはちょっと─────」
そう言いかけた瞬間、彼は左腕を横に伸ばして遮った。彼は何かを見ている。魏君もその目線を先に視野を向けると、そこには少年が一人立っていた。剣を肩にポンポンと弾ませており、歯を見せながらニタニタと笑っている。
「誰だ」
先ほどまでの国主とは違う。声は少し低く、剽軽な雰囲気は一切感じない。少年はそれに答えた。
「よぉ最強。剣と首を取りに来たぜ?」




