38話 行動開始、三つ目の在処
翌朝となり、それぞれが担当する任務にわかれての行動が開始された。
尚無鏡と陳湛は巍儀芳と一緒に石板を持っている組織に潜入。
崩星と木煙は最後の石板探索。
そして魏君は国主常詩の下で宝剣の護衛となっている。
尚無鏡と陳湛は朝早くから起こされて、まだ完全に覚醒していない。朝露の中、テクテクと集合場所まで歩く。
「……おはようございます、仙華様」
「……おはよう陳湛」
乾いた口で懸命に言葉を交わす。目も開かなければ口も開かない。口が思い切り開くのは欠伸の時くらいだろう。
そろそろ目的地。一つの影が佇んでいる。もちろん、巍儀芳だ。腕を組んでいる彼女は、こちらを睨みながら、
「遅いわよ!行動は迅速にしなきゃダメでしょ!」
「でも早いよぉ……」
「文句言わない!こういう朝早い時間が一番良いんだから。はい、これ」
と、巍儀芳は何かを渡してきた。受け取った物を確認すると、白い仮面と紫色の布だった。
「これは?」
「変装するための道具よ。これを着けて組織に潜入するわ」
「これだけで大丈夫なんですかね……」
「組織はそれなりに大きい割には仲間との連携は皆無。内部抗争もままあるわ。だから私達が入ったところでバレはしないと思うけど、もしバレた時のための保険として、あなた達のように強い人が必要だったの」
「他の人じゃダメだったの?」
「ダメよ!この国の人の殆どは背丈や体付きを組織に覚えられている。だから怪しまれない外部の協力に頼らざるを得ないの。私は将軍という立場だから滅多に外に出ないし、覚えられてない枠だと思う」
思う、なんだ。本当にこの作戦で大丈夫なのか。心配で先ほどまでの眠気はすっ飛んでしまった。
「この布はどこに着けるのですか?」
陳湛は巍儀芳に問うた。
「私達には髭が無いから鼻口を隠す感じで覆って」
「その言い草だと、やっぱり組織には男が多い感じ?」
「そうね。この組織の女性は少数で、主に男を釣ったりしてるわ。長く居ればそういう役回りを任されそうだし、早く片付けちゃいましょ」
それに二人は頷き、早速貰った変装道具を着けてみることにした。何とも滑稽な姿だろうか。服との相性が悪すぎる。これは着替えを貰うべきなのか。
そしてさらに滑稽な者がまた一人増えた。
「これで完璧ね」
「どこが!?服と合わなすぎない!?余計に怪しまれるって!」
巍儀芳はまぁまぁと口にし、私の肩にポンと手を置いた。
「私を信じなさい」
私を信じて──────────
一千年前に、私が民に放った言葉。胸に波紋する。されど、波は断たれる。もう一人の手が私の頭に乗せられる。
「そこまで言うのであれば、信じるしかないですね」
「陳湛…」
巍儀芳は鼻を鳴らして、後方に向かって指を指す。
「それじゃあ、行くわよ!」
◆
「こんな海辺にあるのかな?」
「わからない。でも山の方は死ぬほど探したって国主が言っていたから、もう残ってる場所は海しかないからね」
崩星と木煙は浜辺をゆるりと歩いている。こんなところに落ちていたら苦労はしないと、そう思いながら歩いている。いや、たまたま漂流してきた石板がたまたま見つけてたまたま拾い上げるかもしれない。頼む。落ちててくれ。
すると、横を歩いている崩星がさざ波を見ながらこちらに呟く。
「ひょっとすると海底にあるかもしれないね」
「海底かぁ…」
「大丈夫だよ。行くのは僕だけだから。木煙さんはそこで待ってて」
「息継ぎとかはどう……?」
「そこは術色でなんとかするよ」
術色でなんとかできるものなのかな…とはいえ僕は彼の技術も何も知らない。もしかしたら本当にどうにかなるかもしれない。
正直な話、海に潜りたくなかったから助かった。彼が海に潜ってきてくれると言っている以上、僕も彼が安全に陸に上がってこれるようここを守らなければ。
「それじゃあ、行ってきます。多分すぐ戻ってくると思うので、よろしく」
「ああ。気を付けて────────」
そう返して、崩星の体はどんどん海に沈んでいった。
今日は昨日より冷えている。低体温症にならないか心配だ。その時、海が大きく揺れた。津波こそ起こらなかったが、まるで水が入っている桶を揺らしたような、とにかく自然では起こりえないことが目の前で起こったのだ。
目撃者は自分一人。これを言ったところで、誰も信じないだろう。それより、崩星が心配だ。彼はまだ海の中に──────!
刹那。
目前の海から、巨大な影が飛び出してきた。それは大海魔ほどではないが、その図体は太陽を覆い隠すほどの大きな魚だった。
「なっ!崩星、大丈夫か!」
「ああ、僕は平気さ」
と籠った声が木煙の耳に届いてきた。
その瞬間、魚から何か白く一瞬輝く細い光が何個も現れ、やがて魚は空中でバラバラになってしまった。その中から一人の影、崩星が平然とした顔で出てきた。体を回転させて華麗に着地し、その数秒後に斬り刻まれた魚の肉片が海にドボンドボンと落ちていく。
「だ、大丈夫…みたいだね」
「ああ。でも海底にもなかったし、魚の中にも石板は見つからなかった。でもこれから役立つ物なら発見できた」
そう言って崩星は濡れた小さな木箱を木煙に放った。
「これは…?」
「開けてみればわかるよ」
木煙は箱のロックを外して木箱を開ける。すると中には折り畳まれた紙が一枚入っていた。木煙はそれを手に取って開く。
「こ、これは…!?」
「石板の在処が記された紙だ。魚の中に白骨死体があったから、誰かに渡す前に殺されたか、あえて自分で食われに行ったのかはわからない。見る限りだとこの浜辺をずっと行った先に何かがあるみたいだ。行ってみよう」
「そうだね。さっきまで何の手掛かりも無かったんだ。これに縋るしかない────」
二人は手に入れた紙を頼りに、海を横に歩いていく。おそらくこれがまだ発見されていない三つ目の石板。無駄足にならないでくれと、そう祈る木煙だった。
◆
「随分と歩いたなぁ」
頭の後ろで手を組みながらブツブツと呟く。木々の隙間から零れる日光がチラチラしている。しばらく歩いていると、木の間から青く広大な海が見え始める。そしてその上に存在する国も。
「あれが短日国か……」
太阿は遠くに建つ国をじっと見つめる。
「あそこに宝剣が眠っている。さらには人類最強の男も──────この俺がぶっ殺して、俺が人類最強に君臨してやる!」
瞬間。
「誰だ!そこにいるのは!」
と、後ろから叫び声が聞こえた。振り返ると仮面を着けた髭もじゃを二人確認できた。石を埋め込んだ棍棒をこちらに向けている。
「へっ、夜狩りの次は蛮族か?俺はこれから最強に挑むんだからな…準備運動がてら、テメェ等二人ともぶちのめしてやる!」
咆哮と共に雷鳴が響き渡る。瞬く間の閃光、空色の線が男の心臓を貫く。
「ガ──────!」
「オラオラァ!その図体は飾りかぁ!?」
隙の一つも無く、もう一人の男に蹴りをくらわせる。よろめく男はなんとか耐え、手に握っている棍棒を思い切り振り下ろす。されど──────
「遅ぇんだよバーカ!」
と罵声を浴びせながら太阿は男の鳩尾に手刀を突き刺す。カハッと呻きその隙に握る剣は雷閃とともに首を両断する。
太阿は剣の血を払い、鞘に納める。
「どいつもこいつも雑魚ばかりだな。体が温まりもしねぇ。待ってろよ最強、絶対殺してやるからよ──────!」
その一連の出来事を茂みに隠れて見ていた男は、太阿が立ち去るのを確認して安堵の溜め息をついた。
「怖かった~…。危うくオレちゃまの泥棒人生が終わるところだったひょ~。ま!とりあえず、気を取り直して行きますかッと!待っててね石板ちゃ~ん」




