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仙華頌籟 -A fateful reunion beyond a millennium-  作者: 織葉りんご
第一部 第二章 約束の蒼炎
35/159

35話 前夜の剣、到着の四仙一人

 どこかの国のどこかの通り。並び立つ街灯の一つの下に、一人の男が書を読みながら立っている。すると左の闇から一人の足音が聞こえてくる。男は書を閉じて、その方向へ狐の眼を向ける。


「二十四時丁度、相変わらず流石ですね。赤霄《チーシャオ》様」


 闇から灯りの照らす光へと歩み入り、毛先のくすんだ桃色が灯りに照らされ、その後背中の赤い剣がギラリと反射する。


「流石?時間通りに来るのは当然だろう」


 赤霄《チーシャオ》がそう言い切った途端、再び闇の方からこちらに近づいて来る音が二つ聞こえてくる。それは足音だけでなく人の声も。


「ほら早く、小邪《シャオシエ》」

「待ってよ姐《おねぇ》姐《さま》~」


 数秒もしない内にこちらに到着する。手を引っ張っていた女は開口一番に、

「ごめんなさい。小邪《シャオシエ》の支度に時間が掛かっちゃって……」

 狐目の男は微笑みながら優しく言葉を掛ける。

「いえいえ。集合時間は二十四時、まだ30秒ほど過ぎただけですよ。龍《ロン》淵《ユェン》様、干将莫《ガンジャンモー》邪《シエ》様」


 急いで来たからか、干将莫《ガンジャンモー》邪《シエ》は頭に着けている装飾が気になるようで、それを触りながら龍《ロン》淵《ユェン》に問いかける。


「ねぇねぇ姐《おねぇ》姐《さま》!頭のこれ、変になってないかしら?わたくし心配で~」

 それに対して、口を開いたのは龍《ロン》淵《ユェン》ではなく赤霄《チーシャオ》だった。


「くだらん、時間の無駄だ。早く本題に入ろうか、湛慮《ジャンルー》」

「何よ!乙女はこういうの重要なの!」

「おれはこういう時間の無駄が嫌いなのだ。身形など、ある程度整っていればいいだろうに」


 淡々と述べる彼に、湛慮《ジャンルー》は細い目を向けてこう言う。

「か弱い乙女はお姫様です。決して時間の無駄ではありませんよ」

「ふん。魔剣を持っているか弱い女が居るわけないだろう。それにあいつはまだ来ないのか」


 と辺りを見渡す。

「確かにまだ来ないわね。お姫様を待たせるなんて、とんだガキンチョですわ」

「太阿《タイアー》様は、どこかでお菓子でも買っているのでしょうか?」


 はぁ、と大きく溜め息をつき、赤霄《チーシャオ》は街灯に寄りかかって腕を組み、小言を呟き始めた。


「時間に遅れ、人の時間を無駄にする人間。そして、時間より早く到着し自分の時間を無駄にする人間。おれからすれば、どちらも愚かだ──────」


 彼の目線の先には、煙管を吸う承《チョン》影《イン》の姿があった。彼女は振り向いて、

「約束の時間を守れないのなら、早く来て時間を無駄にしてる方がよっぽどマシよ。約束を破るなんて、あり得ないから──────」


 刹那。

 何かを感じ取ったのか、干将莫《ガンジャンモー》邪《シエ》は怯え龍《ロン》淵《ユェン》の背中に隠れた。その端で、湛慮《ジャンルー》はブツブツと言っており、滅多に開くことのない目を開いて「わ、わかりました」と言っていた。コホンと咳払いをして、湛慮《ジャンルー》は前に出る。


「皆様お揃いになりましたので、これより我ら宝刃戯派の主導者である軒《シュエン》轅《ユエン》様からのお言葉をお伝えいたします」


 すると、湛慮《ジャンルー》の行動に疑問に思ったのか、龍《ロン》淵《ユェン》が話に割って入った。


「ちょっと、お揃いって…まだ太阿《タイアー》が来てないじゃない」

「それについても触れますので、どうかご心配なく」


 全員が湛慮《ジャンルー》の方に注目する。息を吸って、湛慮《ジャンルー》は話を始める。

「ではまず太阿《タイアー》様のことですが、ここに来ることはありません。確認したところ彼は現在、一人で短日国へ向かっているそうです」

「な、なんで!?」

「これは私に非があるかはわかりませんが、本日の夕方頃に丁度話をしていまして、その時の内容は『短日国で発見された宝剣は効力が薄いので予備《セカンド》計画《プラン》に変更。墨走国の宝剣を狙うことにする』というものでした」

「それならさっき聞いたけれど、もしかして彼は─────」


 承《チョン》影《イン》の言葉に湛慮《ジャンルー》はコクリと頷く。

「ええ。何かを勘違いし、一人で向かっていきました」


その言葉に赤霄《チーシャオ》は「フン、ガキが」と呟いた。続くように干将莫《ガンジャンモー》邪《シエ》も「ホントにガキですわ」と吐いた。


「全く…本当に迷惑をかけるわね…」

「それで、あの方のお言葉は?」

「予備計画は継続、ただし新たな任務を与えると─────」

「新たな任務?もしかして、太阿《タイアー》を連れ帰ること?」

「それも含まれています。ですがもう一つ…短日国では『封宝板』というものが話題となっており、その封宝板とは『封宝堂』を開けるのに必要な石板のことで、これらは三つに分かれております。そのうちの一つは短日衛団が所持しており、残る二つは不明ということです。封宝堂は短日国民の間で「開けた者に千年長寿が降りかかる」と言われております」


 承《チョン》影《イン》がそれに続く。

「つまり、軒《シュエン》轅《ユエン》様はその千年長寿が宝剣であるかどうかを調べてほしい、ということね」

「左様でございます。そして今回この任務に向かっていただくのは、赤霄《チーシャオ》様、龍《ロン》淵《ユェン》様、干将莫《ガンジャンモー》邪《シエ》様となっております」

「やった~!姐《おねぇ》姐《さま》と一緒ですわ!」


 と龍《ロン》淵《ユェン》の服を掴んだままピョンピョンと跳ねている。その様子を見ていた赤霄《チーシャオ》は「ガキの迎えにガキを連れて行くとはな」と小さく呟いた。小言が聞こえていたか、赤霄《チーシャオ》にビシッと指を指して干将莫《ガンジャンモー》邪《シエ》は言う。


「なら来なくてかまいませんことよ!そんなに嫌なら承《チョン》影《イン》と留守番していたらいいわ!」

「叶うなら、な。だがこれは命令だ。行かないという選択肢はおれにはないだろう」


 と赤霄《チーシャオ》は歩いて行ってしまう。光の領域から出て闇へと混じる彼の後姿を見ていた湛慮《ジャンルー》は、


「では、御二方もお続きになってください。赤霄《チーシャオ》様の歩いて行った方向に船を用意してありますので」

「え~めんどくさい~。湛慮《ジャンルー》がいつも使ってるやつは使えないの?」

「あれは私一人しか通ることができませんので」

「ゴミ!バカ!クソ能力!」


 と言って彼女等は去って行った。

「今回、私はお休みなのね」

「そうみたいですね。本当であれば、墨走国に承《チョン》影《イン》様と赤霄《チーシャオ》様が行くことになっていたのですが、それは延期になってしまいました」

「まぁいいわ。それじゃあ、甘えさせてもらうわ」


 承《チョン》影《イン》は煙管をしまいながら、彼等とは反対の方向に歩いていく。


「どちらに?」

「お風呂よ。一緒に入る?」

「遠慮しておきます」




                  ◆




 ガラガラと牛車に揺られ、三回目の夜を迎えようとしていた。

 尚《シャン》無鏡《ウージン》は大きな背伸びと大きな欠伸をしているのをみて、手綱を握っている崩《バン》星《シン》は声を掛ける。


「眠そうだね」

「うん…でも崩《バン》星《シン》の方が眠いでしょ?」

「いや、そんなことはないよ。夜には強いからね。別にまだ寝ていても良かったのに」

「何かあったら大変でしょ?やっぱり少なくとももう一人は起きてないと…崩《バン》星《シン》だって、別に変っても良かったんだよ?」

「気持ちだけで十分だよ」

「いや、休むべk──────」


 と立ち上がろうとした瞬間、どんな寝返りなのか陳湛《チェンジャン》が腰に抱き着いてきた。抱き着くだけに飽き足らず、顔まで擦りつけてくる。


「アハハ。もうすぐ着くし、そのままでいいよ」

「ご、ごめんね…」


 ガラガラと牛車に揺られる。夕日は沈み始め、木漏れ日がチラチラと点滅している。しばらく乗っているうちに木々を抜けて、景色が一気に広がる。


「見えてきたよ」


 広大な草原。四角く壁に囲まれた国、小さな山々、その奥には広大な海が広がっており、夕方の風に潮が乗ってくる。

 海が近い故に港が多く、漁業が盛んとなっている国、短日国。道なりに沿って牛車が走る。短日国に近づくに連れ、門の真ん中に何かが見えてくる。

 遠くからだとよくわからないが、何かがぴよぴよと動いている。動物か何かかと尚《シャン》無鏡《ウージン》は思っていた。

 だがそれは大きな間違いだった。ぴよぴよと動いていた者の正体は人であった。こちらに向かって大きく手を振っていた人だった。さらに近くなって確認でき、こちらに「おーい!」と声もかけている。

 5分と言ったところか。緩やかに走ってその姿が確認できた。髪はターコイズブルー、上下黒で内着は白。


「おお、わざわざ…」


 と崩《バン》星《シン》が反応したので尋ねてみる。


「知ってる人?」

「もちろん。だって彼、短日国の国主だもん」

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